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いろいろ見えてきました

農家では精一杯のもてなしをしてくれた。


今は越冬の準備をしているので、保存食になる前の最後の野菜だと、作ってくれたシチューはとてもおいしく冷えた体があったまった。

部屋に戻ると、カアザの実も持ってきていたのでディエゴに渡す。


「おお。これが必要な寒さだな」


「ええ。あったまらないとね」


リンジーには留守を頼み、夜中にひっそり、ディエゴとファビアで外に出た。

モンタナ教会は山の上にある。かなりの寒さだ。


カアザの実がないととてもじゃないけれどこんな夜中に凍えてしまいそうだった。


「絶対に離れるなよ」


「わかってるわ」


モンタナ修道院はとても高い壁に囲まれていた。


そこは俗世とはあまりにかけ離れた場所で、ファビアもディエゴも何とも言えず立ち尽くしていた。


「これじゃ中には入れまい」


「ええ。けれど、かすかに聞こえる声があるはずよ。少しだけ待ってみましょう」


「ああ」


ディエゴと手をつなぎ、馬の上でひたすら待った。


声はまったくしない。

けれど…。


「声がするわ!」


「おお。聞こえてる」


「フロレンティーナ様の声ね」


『くそっ!なぜわたくしがこのような場所にいなければならないのっ!もう無理よ!早く来てゲイリー。お願いよ』


それは祈るような世間全体に向けての悪意だった。


その声を聞いた時、ディエゴはふっと笑った。


「お前の言う通りだったな」


「ええ。そうみたい」


「とにかく寒い。戻るぞ」


「ええ」


2人して慎重に農家に戻ると、もう一度カアザの実を食べ、薄い布団に入って、思いっきりくっついた。

こんなにくっついたらヤバイかなと思ったけど、くっつかないと寒いから仕方なかった。


けれど意外とディエゴは大丈夫みたいで、くっつくなとは今回は言わずリラックスしてファビアを抱きしめている。

意識しているのはどうやらファビアだけらしい。


「しかしゲイリーはどうやって連れ出すつもりだ」


考え込むような表情だ。


「おそらく睡眠薬」


「え?」


「アーグフルト殿下とゲイリー殿下が一緒におられるのに出くわしたときがあって、そのときにめずらしくゲイリー殿下がアーグフルト殿下の薬草に興味をもたれているとおっしゃっていたの。だから今から薬草園に行くのだと」


「ほう」


「ここに来る前にアーグフルト殿下に確認したわ。どうやら、眠れないとおっしゃって睡眠薬の調合を聞かれていたそうよ。それを使うつもりよ。いつ実行するかわからないから明日以降は毎日目を見張っている必要があるわ。修道院の中にも絶対息のかかった者を入れているはずよ」


「そうだな。それはもしかしたらガーディアンの離宮のあの老夫婦かもしれないぞ」


「え?」


「あの庭で栽培していた農作物だが、修道院に納品しているんだ。たぶん」


「なぜ?」


「さっき修道院に行った時に、門のところに掛かっていた札があっただろう。おそらく、出入りの業者はあれと同じ札を持っているかどうかで判断しているのだと思うが、その札があの屋敷にあった」


「ほんと?」


「ああまちがいない」


「これでつながったわね」


「しかし…お前ってやつは…ほんとに…」


ディエゴはチュッと額にキスを落とし、そのままぎゅっと抱きしめた。


「このまましばらく抱きしめさせろ」


「え?今日は抱きしめてくれないから冷めちゃたのかと思ったわ」


「めちゃくちゃ耐えてるに決まってるだろ。けど、今は緊張感のほうが強いからな。これを解決しなきゃ俺たちの結婚式は行えないだろ?」


「え?そうなの?」


「ああ。ゲイリーはこのままフロレンティーナと共にジュリアードに戻り、俺とおまえを殺すつもりじゃないかと思ってる」


「うっ…けれど…」


「ここに来るまで半信半疑だった。俺はそれほどアーグフルトと皇后を疑っていた。けれど、おまえが2年前の市場での襲撃事件が皇后じゃなく、メリア側妃だと言ったとき、すべて納得がいったんだ。俺は勝手にダリア皇后を自分の中で大悪党に仕立て上げてただけだってね。彼女はふつうの嫉妬深いある一人の男を愛してしまった女に過ぎないってね」


「ディエゴ様」


「俺も何も見えてなかったってことさ。おまえがいなければ気づけずに俺はまたゲイリーに殺されていただろう。前世でもよく33歳まで殺害されずに生きたものだ」


「それはディエゴ様が戦争ばかりしていたからよ。殺す暇がなかったのではないかしら?戦争中に殺してしまうと、戦争に負けてしまうこともわかっていたからそれはそれであの2人にとってはまずかったのよ。いえ、3人かしら」


「そうだな」


「けれど…このままディエゴ様とわたしを殺しにくるかしら」


「ああ。間違いなくな。前世より、俺もお前も幸せに暮らしている。それがアイツらには許せないはずだ」


ディエゴは確信している。確かにそうかもしれない。

前世では、フロレンティーナはアーグフルトと結婚させられていたとはいえ、近くにゲイリーがいたし、きっとこっそり逢瀬を重ねていたのだろう。

ファビアは享楽に狂っていたし、ディエゴは戦争に狂っていた。

破滅を待てばいいだけでゆっくり時間はあったのだ。

けれど今は違う。

自分たちは不幸のどん底にいて、わたしたちだけが幸せ…。

すぐに行動してもおかしくはない。


「どうするの?」


「明日からゲイリーとガーディアンの離宮の老夫婦に見張りを付ける。俺たちはすぐ動けるように一緒にいよう」


「わかったわ」


あとは流れに任せるさ。

ただ、アイツらにいいようにはさせないということだ。


とディエゴは言って、そのまま2人で朝まで眠った。

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