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ミラージュ大教会にて〜Part2-II

「兄上。なぜわたしまで行かねばならないのです」


ミラージュ大教会へ向かう馬車で、ディエゴの隣に座らされてしまっているイアンはディエゴの前に座っている、きらびやかに美しい兄の婚約者をにらんでやりたい心境を我慢する。


この女さえいなければ、ダイアナは幸せになれただろうに…。

まったくこんな派手な女の何がいいのか。


「一人では不安だからな。おまえも小さいころからダイアナとともに遊んだのだから、彼女のことはよくわかっているだろう?」


「それは…まぁそうですが」


ダイアナは、このファビアという婚約者が太陽であれば、まさに月のような女性だ。

陰ながら夫を支えるというのがぴったりのしとやかな淑女。

しとやかな淑女ではあるが、こうと決めれば絶対に動かないという頑固な面もあった。

だからこそ淑女としてコツコツ努力もできたのであろうが…。


「彼女には、ミラージュ大教会の管理を任せたりして、少し期待をさせてしまったようだ。管理を皇太子妃に戻すにあたり、彼女の気持ちを最大限わかってやれるのはおまえしかいまい」


「……」


イアンは何も言わずそのまま窓の方を見ていた。


なぜ僕が…。


けれど…ダイアナはきっと打ちひしがれるだろうから…僕しか慰められる人間はいないのかもしれないけれど…。





ごくり。

唾を飲み込む音が聞こえなかったかなとファビアは思わずちらっと眼だけを動かしてみたが、大丈夫そうだった。


シスターたちは困った顔をしている。


「会議室を用意しておいてくれたか?」


「はい。こちらへどうぞ」


ディエゴが言うと、館長はそそくさと案内してくれる。


会議室の中に入ると、ダイアナはまだ席に着いていなかったため、館長が「呼んでまいります」とまたそそくさと出ていった。


ディエゴの左隣に座るイアンは会話を拒否したいのか窓の外に視線を向けており、ディエゴはこっそりと右隣に座るファビアの手を握り、一瞬気配を消してから、

「普段どおりのお前が一番いい」

というとすぐに手を放した。


普段通り?


はて?どういう意味かしら。


こっちは緊張しているって言うのに何を言ってるのかしら?


と、考える間もなく扉が開き、ダイアナが入室してきた。


「もういらしてたのですね。刺繍にすっかり夢中になっておりましたわ。子どもたちが放してくれませんの」


にっこり笑いながらダイアナは忙しそうにディエゴの前の席に腰を下ろし、館長がファビアの前に座った。


相変わらず美しい。

柔和な天女のようなその風貌にはほれぼれするとファビアはダイアナを見た。

自分にはない美しさ。

そして自分にはできない淑女の嗜みを知っている人。

ここで過ごす子どもたちの姉や母のような役割ができる女性。


本来ならこういう女性こそがミラージュ大教会には必要なのだろう。

自分のようなおてんばは向いていない。


「ダイアナ嬢。ミラージュ大教会の管理についてだが、今まで無理を言ってお願いしてしまっていたが、この教会の管理は本来なら、わたしの妻である皇太子妃の役割。2か月後にはこちらにおられるファビア嬢と婚礼を結び、皇太子妃となられる。ファビア嬢へ、管理責任を返還願いたい」


ダイアナはじっとディエゴを見ている。


「そうですわね。本来なら皇太子妃様の管理下ですわ。けれど、できますかしら?ファビア嬢は見たところ、刺繍やお菓子づくりなど苦手とされているようでしたけれど、ミラージュ大教会の管理はここで暮らす孤児たちの信頼を勝ち得ないとできないことですわ。そういう努力もされない方が管理されてもよいのですか?」


おっと。真正面から…来るのね。

けれど。事実。

わたしは淑女の嗜みはへたくそだし自分で学ぼうともしないもの…。


正論よね…。


「ああ。問題ない」


ところがディエゴはあっけらかんと言ってのけた。

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