表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/98

話し合いII

「そうだわ」


ファビアはどう伝えたらいいのかと言い淀んだ。


イアン殿下の気持ちをディエゴは知っているのかどうかわからないからだ。


けれど…あの会話には悪意があったのだから…放っておくわけにはいかないわ。


「今日宮殿を散歩していて…また聞こえてしまったの」


ディエゴの顔が真剣なものになる。


「誰の会話だ」


「イアン殿下のお部屋の中からだった。イアン殿下と…ゲイリー殿下が…」


「なに?」


ディエゴの眉根が寄る。


「イアン殿下の…気持ちを…ゲイリー殿下が代弁してるみたいな感じで…」


「どう言う意味だ?」


あー。やはり気づいてはいなかったのね。


「イアン殿下はおそらくダイアナ嬢をずっと想ってらっしゃるわ」


「イアンが?」


ディエゴが瞳を見開き、驚いたように顎に手を置いて考え込むようにした。


「イアンがダイアナを…?」


ディエゴは前世を思い起こしてみたけれど、まったくイアンがダイアナを好きだなどとは思いもしなかった。

アイツはいつも俺の後ろに控えていた。

国政を行う上でイアンはとても重要だったし、イアンなしにはミルアーの未来は存在しないといってもいいが、アイツは決して俺の前に出ようとはしなかった。


いや、けれど、ディエゴが死ぬまでイアンは結婚は確かにしていなかった。

周りは早くしろと急かしていたがやんわりと断り続けていた気がする。


ずっとダイアナを想ってのことだったのだろうか。


「ゲイリー殿下はイアン殿下に言っていたわ。ディエゴ様に負けっぱなしでいいのかと」


「……」


「イアン殿下は自分はディエゴ様のスペア人形だと、そしてダイアナ様が幸せならそれでいいとおっしゃっていたんです…」


「そう…か」


イアンが自分を好いてはいないだろうとは思っていたが、まさかスペアだと思っているとは…。

確かにスペアというのは本当の話だ。

もしディエゴが死んだらイアンが皇太子になるだろう。

けれどそうはっきりと言われると心にズシリとのしかかる。


ファビアはディエゴの落胆を見て、だから言いたくなかったのだと思ったけれど、それでも言わなければ解決しない。

フェルナンデス皇家の中の問題を取り除かなければならない。


「ゲイリー殿下はこそっとおっしゃったわ。『ちっ…ったく。使えない奴め…』」


最後のところはゲイリーの口調をまねた。


「え?」


ディエゴが顔をあげた。


「ゲイリーが?」


「ええ。あの温和な方がです。おそらく、その言葉はイアン殿下には聞こえていなかったとは思うわ」


「ゲイリーが?まさか」


「ええ。わたしもびっくりしたけれど…。もしかしたら彼が…」


「俺を殺したというのか?」


コクリとファビアはうなずいた。


「あの声は恐ろしく悪意のこもった声だったもの」


「だが、俺を殺す理由がわからないぞ。ゲイリーは前世ではもうすぐ神官になる。そしてそのままずっと神殿にいた。俺が死ぬ寸前には若いころと比べてかなり体調を崩すことは少なくなっていたようには思うが…その間もずっと俺に対しては同じように物腰柔らかで特に歯向かうこともなかったし…。それならむしろアーグフルトのほうが…」


「アーグフルト様はディエゴ様をお好きなのよ」


「は?」


ディエゴの目がキッと吊り上がる。


「そんなわけないだろう?だいたいアイツはお前に近づきすぎる。お前も気安くしすぎだ」


ついつい口調がキツクなる。

馴れ馴れしく毎日のようにファビアにつきまとっていると聞く。どういうつもりなんだ。ったく。


なのに、ファビアはクスクスと笑っているじゃないか。


「それはわたしが嫌いだからよ。なんといったって大好きな兄上の嫁だもの。取られたと思ってらっしゃるのよ」


「はぁ?そんなわけないだろう!俺はむしろお前に近づきたくて逆に俺を煙たがっているのかと思っていたがな」


とげのある口調はやめられない。


「もう少し優しくしてあげてくださいな。それにアーグフルト様は前世ではフロレンティーナ王女を娶ってらっしゃったわよね。今は王女は修道女になってしまっているからその時点で前世とは違っているし…」


「あの王女はこちらでも結構な振る舞いぶりだったな。純血信者で俺の事も相当バカにしていたと思うぞ」


「こちらでも同じ様子でしたか…」


アーグフルトは前世では、少なくともフロレンティーナの影響は受けただろう。アーグフルト自身は純血だし、フロレンティーナの思想に傾倒してもおかしくはない。

今はフロレンティーナがいないのだからアーグフルトも前世と違っているとは思えないだろうか。


「ディエゴ様は皇室にずっといらっしゃる内部の方でしょう?わたしは外部から来た。フェルナンデス皇家の内情を外から見たらわかることもあるの。今わたしから見てアーグフルト様は危険人物には見えないわ。皇后陛下は別だけれど…」


皇后陛下もよくわからない。

嫉妬深い性格みたいだけれど、どうも本気でディエゴを排除したがっているようには見えない。

とはいえ…2年前に市場でディエゴを殺せといったあの声は間違いなく皇后のものだった。


「どっちにしても皇后が危険であればアーグフルトも危険ということだ。俺はどう考えてもあの2人に殺されたと思うがね」


あー…わからないわ。


よくわからなくなってきて思わずファビアはため息を吐いた。


「俺が殺されるまでにはまだまだ時間がある。じっくり調べればいいさ。今はダイアナのことを解決しようじゃないか。ミラージュ大教会には次いつ行こうと思ってる?」


「ダイアナ嬢がディエゴ様から言われるまで辞めないと言っているのだから次行くなんて決められるわけないでしょう?」


プイっと横を向いたファビアがかわいい。

嫉妬しているのかと思うと、それだけで愛しくなる。


「わかった。じゃぁ。ダイアナに連絡を取るから、日を合わせてミラージュ大教会に向かうとしよう」


「わかりました」

次回更新 11/10予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ