ディエゴとお茶
「なんだそのあほヅラは?」
そろそろまた出会うんじゃないかと思っていたところだったわ。
振り向いたファビアはおや?と思った。
隣に珍しく、ゲイリー殿下が一緒だったからだ。
「ゲイリー殿下。アーグフルト殿下。ご機嫌麗しゅう」
深々と頭を下げる。
アーグフルトだけならその辺は適当でも許されるがゲイリーには流石に礼儀を欠くわけにはいかない。
「お前のまたその実を取って…いやいいよ」
また揚げ足を取ろうとしたのかしら。
ゲイリー殿下がいらっしゃるから言わないでおいてくれたのかな?なかなか可愛いところあるじゃない?
「どちらにいらっしゃいますの?」
どちらにというわけでもなく聞いてみるとアーグフルトが答えた。
「薬草園さ。兄上が珍しく薬草に興味を持たれたらしい」
「わたしは体が弱いので。少しでも活力的に動けるものがあればと今色々探しているのですよ」
「そうですか」
ゲイリーは体が弱く幼少期からほとんど外を出歩けないと聞いている。
ディエゴとファビアの結婚式が終わったら神官として神殿に入られるらしいが、少しでも体が強くなりたいと願うのは当たり前のことかもしれない。
「ではわたくしたちは参ります。良いお茶の時間を…」
ゲイリーはファビアの手元を見てそういうと頭を下げて、アーグフルトを連れて出て行った。
ふぅ…
一息つくと、部屋に戻りお茶の用意をし始める。
珍しくディエゴが一緒にお茶しようと言ったからだ。
どうやら、南部から戻ってきてから溜まっていた仕事も落ち着いてきたらしい。
近頃は夜部屋に来る時間も少し早くなった。
お茶の時間を楽しむ余裕もできてきたのかもしれない。
やっぱり聞いた方がいいわよね…。
ちゃんと…。
「リズ。カアザの実を採ってきたわ。お酒につけておいてね」
「はい」
リズが用意している間にバルコニーに出て少しだけ涼しげな秋の風を楽しんでいたらまたまたアーグフルトが前を通りすがりに声をかけていく。
まったく。なんか嫌なこと言わないと気が済まないのかしら…。
「何やってるんだよ」
「ディエゴ様とお茶いたしますの」
「お茶だと?呑気な奴め」
「婚約者ですもの」
「何度も言うが兄上にはダイアナがいるんだ。お前など…」
「おい。アーグフルト。兄の婚約者に対して聞き捨てならないぞ」
ファビアは突然後ろからグイッと腰を抱き寄せられて思わず
「キャッ」と声を上げてしまった。
「ディエゴ様」
顔を後ろに向けて上を向けばそこにいつも見ている整った顔立ちがあって思わず赤面する。
いつ見ても慣れないわ。
この色気…。
「兄上…ですが…」
「俺たちは今からお茶の時間だ。邪魔しないでもらいたい」
「わ、わかりました」
そのまま見上げていたら、また額にキスが落ちてきた。
「あいつには気をつけろよ」
「え?アーグフルト様なら…」
「前も言ったが…アイツは!」
自分を毒殺したやつだと言いたいのだろうけれど、侍女たちがいるので流石にそれは言わずにむすっとしたまま、席に着く。
けれどファビアから見るとどう考えてもアーグフルトはディエゴを憎んでいるようには見えなかった。
むしろその逆で、認めて欲しくて意地悪ばかりして気を引こうとしているように見える。
ディエゴが好き過ぎて、ファビアのことも憎くて仕方がないのではないかと最近では思っているくらいだ。
「アーグフルト様はそんなに…」
「お前はアイツの味方をするのか!」
は?
なぜそんなに怒るの?
「味方とかそう言う問題じゃなくて…」
「もういい。お茶が冷める。飲めよ」
むすっとしてそのままパンケーキを食べ始めている。
なんなのよ。もうっ!
ファビアは結局はミラージュ大教会のことは何も言い出せず、悶々としながらパンケーキを食べたのだった。




