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ミラージュ大教会にてII

たゆたうように肩をおおっているストレートの黒い髪に、瞳は真っ黒ではなく少し青みがかっており群青色とでも言おうか。顔立ちは天女のように美しい。今空から舞い降りて来たかのような人だ。


この人が…。

かつてディエゴの奥さんだった人。


ダイアナに駆け寄る子どもたちをファビアは茫然と眺めているしかなかった。


「まぁ。ダイアナ嬢ですわ。今日はファビア嬢がいらっしゃるとビーティー家にも遣いを出していたというのに…」


そうか。

知った上での行動ということね。


きっと…

憎んでいるのでしょうね…。わたしを。


「ねぇ。バクスター夫人。宮殿へ戻ったらダイアナ嬢のことをきちんと聞かせて頂戴。彼女の立ち位置がわからないわ」


「は、はい。畏まりました」


さすがに、こちらが伺うと伝えていた日にやってくるとは、宣戦布告としか思えない。それにどう考えても子どもたちはダイアナのほうを慕っていて、ファビアは女性的な事は何もできないのだから勝ち目もあるわけがない。


たちまちファビアの周りからは子どもたちが消えていき、ダイアナの方へみなが駆け寄ってしまった。

あたふたしているのはシスターたちとバクスター夫人。


仕方がないわ。

どんよりした心を隠すようにファビアは背筋を伸ばした。


「シスター。ミラージュ大教会の管理台帳を見せてください。これからは1か月に1回提出していただきますわ」


「はい。かしこまりました。ただ…」


「どうしたの?」


「はい。誠に言いにくいのですが、先月の台帳をまだダイアナ嬢がお持ちでして…」


……。


「わかったわ。わたくしからダイアナ嬢へ言いますわ」


頭が痛い…。



ファビアは仕方なく、子どもたちに囲まれたダイアナの元へ重い足を運んだ。


「はじめまして。ファビア・ロンズディールと申しますわ」


完璧な淑女の礼をとると、ダイアナもそれはもう完璧にカーテシーをする。


うっ…。できる女性…。


「ダイアナ・ビーティーと申します。わたくし、皇太子殿下よりこちらの管理を日々任されております。今日は何かございましたでしょうか?」


え?

任されているってディエゴに?

ディエゴったらそんなこと一言も…。


「そうですか…。それは聞いておりませんでした。こちらの手違いかもしれません。申し訳ありませんわ。少しお話よろしいでしょうか?こちらではお子達もおりますゆえ」


ファビアが皇太子妃になると発表されたとはいえ、今はまだ隣国の公女だ。

どう考えてもミルアー帝国の公女の方が身分は上だろう。

けれど、ここで引くわけにもいかない。


ファビアは負けまいと背筋を伸ばし、視線を逸らさずにダイアナを見つめ続けた。


「わかりましたわ。ではそちらのお部屋でよろしいでしょうか?この子の刺繍を終えてからでもよろしいかしら?」


くそー。なめられてる…。

けれど…。


「ええ。お待ちいたしますわ」


待つこと1時間以上。

舐められたものだが、ここではどう考えてもダイアナのほうが優位だ。

ぐっと我慢だわ。


おどおどするシスターにお茶を淹れてもらいながら、暇なファビアは窓の外で剣術の真似事をするミラージュ大教会の子どもたちを見ていた。


あら、あの子筋がいいわね。

皇室の騎士団に応募すればいいのに。


あっちの子はダメだわ。


あの子はまだ小さいから磨けば光りそうだけど…。


そんなことばかり考えてしまう。


かなり待ったと思ったとき、ようやくダイアナが入室してきた。


「お待たせしてしまいましたわね。何しろ子どもたちがにぎやかで。」


嬉しそうな表情。


「ええ。子どもたちはダイアナ嬢を慕っているようですもの。当然ですわ。」


「そうでしたわ。お話があるということでしたが、何でございましょうか?」


「ええ。今後はわたくしがミラージュ大教会を管理することになりましたので、先月の帳簿をこちらに早くお返し願いたいというお話ですわ。」


何を言うかなどわかっていたであろうに。とファビアは負けまいと背筋を伸ばす。

ダイアナも背筋をピンとはり、じっとファビアから目をそらさなかった。


「それは、納得できかねるお願いですわね。」


「と、いいますと?」


思わず眉根を寄せる。


「わたくしはディエゴ殿下よりこちらのミラージュ大教会をまかせるといっていただいたのです。ディエゴ殿下からお聞きしないことには信用できかねますわね。」


うっ…。

この人。

なかなかの…。


かといってこれに対抗するだけのものをファビアは持ち合わせてはいなかった。

なんといってもディエゴからファビアは何も聞かされてはいなかったのだから。


「わかりましたわ。ではディエゴ殿下に確認いたします。またお会いすることになると思いますわ。」


ひとまず帰るしかあるまい。


ファビアはひっそりとミラージュ大教会の裏口から出ると、恐縮するシスターを横目にそのままその日は帰っていったのだった。


ミラージュ大教会はジュリアードの結構な郊外にあり、馬車の中でバクスター夫人からディエゴとダイアナの関係についてあらかたを聞き出した。


ディエゴとダイアナは幼馴染で、小さいころからいずれダイアナが皇太子妃になると皆が思っていた。

ダイアナが18歳、ディエゴが17歳のときに、一度婚約寸前までいったことがあり、そのときにミラージュ大教会の管理をディエゴはダイアナにまかせた。だからみんないつ婚約するのかと思っていた。

ダイアナは適齢期を過ぎ、それでも婚約しなかった。

と…突然ファビアを連れてディエゴが帰ってきた。

そういう話だった。


17歳の時ということは、ディエゴが回帰した歳だ。

そのときに婚約寸前までいった…?

転生前はディエゴの女性遍歴は知らないけれど、ダイアナが献身的だという噂は常に流れていた。

子どもはいなかったと記憶している。

けれど、ダイアナが献身的だという噂だけで、ディエゴがどうなのかという噂はほとんど聞かなかった。


ディエゴはどう思ってるんだろう。

ダイアナのことを…。

回帰してすぐに婚約寸前まで行くということは…。

ミラージュ大教会の管理を任せるくらいに信頼をおくということは…。


愛しく思っていると…?


好き…なのかなぁ?


ダイアナを妃にしようと…思ってるのかなぁ…。


胸の中に沸々と湧き上がる嫉妬心。


やだ。

こんなこと思いたくない。


けど…。



それにどう考えても勝てる気しないし…。

淑女で天女で、レディの嗜み全部できそうで、賢そうで。


あー…絶対勝てない。

次回、11/2更新予定です。

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