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ミラージュ大教会にてI

「こちらでございます」


今日はジュリアードで一番大きなミラージュ大教会に来ている。

ここは皇太子妃の管轄なのだと、しかつめらしい教育係のアン・バクスターが言ったので、今日は皇太子妃としての事前訪問に来ている。


さすがにガーディアンとは比にならない大きさだとファビアは少しの間建物を見上げていた。


「大きいわね」


「はい。大陸で一番勢力のあるミラージュ大教会です。こちらの管理は皇太子妃様のお役目。一番大変な仕事といっても過言ではありませんわ。では。中へ入りましょう」


ミラージュ大教会には神殿とは別に建物が4棟あり、身寄りのない子どもたちが身を寄せていた。

今日はファビアが訪問するというので神殿の広間に集まってくれていて、ざっと100人くらいはいそうだ。


子どもたちの顔を見るに、顔色もよく、痩せこけているような子もいるようには見えなかったし、至って健康で虐待などを受けているような気はしなかった。


皇太子妃がいなくてもきちんと誰かが管理してくれていたらしい。

いったい誰が…。


「バクスター夫人。こちらの管理は今までどなたかがされていたのですか?」


「え?なぜです?」


明らかにうろたえた表情にファビアは眉を寄せた。

いつも凛としている夫人がどうしたのかしら?


「皇太子妃不在にも関わらず、きちんと管理されていそうでしたので。どなたかが管理しないとこんなに整然とは管理されませんもの」


さすが鋭いという顔をしているけれど、ファビアは何年生きていると思っているのか。

それくらいわかる。


「そ、それは…」


「どなたかが管理されていたのですね。どなた?皇后陛下?」


あの皇后が大嫌いなディエゴの婚約者である自分を嫌いなことくらいわかるが、それでも国政をおろそかにするような女性ではないことはわかる。


「いえ。皇后陛下は、お忙しいので、到底ここまで手を回せません。このミラージュ大教会を管理するのは本当に大変ですもの」


「ではどなたが?」


何か、イライラするわね。


「えー。その…ビーティー家のご令嬢が…」


「え?」


ビーティー家?

ダイアナ・ビーティー?


突然ガラガラと何かが崩れていくような感覚に陥った。

別に土台があったわけではないから崩れる物もないというのにだ。


ダイアナが皇太子妃の仕事をしていた?

しかも完璧に?


「皇太子妃様。髪お美しいですね」


「すっごーい。金色だぁ~」


挨拶を終えたら、ミラージュ大教会の子どもたちがバラバラとファビアの元に集まってきた。


「この国ではめずらしいかしら?」


にっこり笑うと、その女の子は真っ赤になってうつむいた。


「うん。お目目も碧い~。お姫様みたい」


「皇太子妃様なんだからお姫様だよ」


「あ、そっか」


「ねぇねぇ。皇太子妃様~。刺繍ができないの。いつもみたいにやってよ~」


「え?」


「キリア。この方はいつもの方ではありませんよ」


横からシスターがハラハラした声をあげた。


「ええ?けれどダイアナ様は刺繍がうまかったもの」


「これ、キリア」


シスターはすみませんと頭を下げる。


「ごめんね。わたくしは刺繍がへたくそなの」


「ええ?そうなの?」


「ええ。力になれなくてごめんなさいね。でもキリアは十分刺繍はうまいわよ。他の子ならこんなにうまくはできないわ。わたくしへたくそだからうらやましいわ」


「本当?」


キリアはどうやら納得したみたいだ。


それにしても、刺繍もうまかったのか…。

ズンと頭から石を落とされたみたいな気がする。


自分がうまいことといえば…。

馬に乗ることと、剣術くらいのものだ。


女の子たちよりどちらかというと男の子たちがやってる遊びのほうが気になるくらいだわ…。

ここで剣を握るわけにはいかないけれど…。


とにかく切り抜けるしかない。

そう思ってもなかなか不得意なことを聞かれて、「ごめんね。できないの。へたくそなの」ばかり答えるのもいい加減に自分の無力さがいやになってくる。

挙句の果てにお菓子づくりまでダイアナがうまかったことがわかり、ファビアはどうしようもなくどんよりしていた。


と、その時だ。


扉の方でガヤガヤと明らかに来訪者があった感じを醸し出している。


誰かしら?


と、扉が開いた。


そこへ入室してきたのは天女とも見まごう、柔和な美しさを持った、女性の中の女性のような人だった。


「あっ!ダイアナ様だ!」

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