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ミルアーの政務に戻ってみたら…

「何?」


「ですから、宮殿内のあらゆる職員からファビア嬢は絶賛の嵐ですと申し上げました」


「は?」


「殿下がお留守の間にファビア嬢はかなりの職員と親交を深められたようですよ」


南部を鎮圧してから国政一日目。


皇帝の元から戻ると、側近のジャックが書類を処理しながら、淡々と語った。


「愛する皇太子妃様だそうです」


それでも書類へ走らせる目の動きと手の動きは止めずにディエゴは内心さすがとひとりごちた。

ファビアはそういう女だ。

誰にでも分け隔てなく接することができる。


「まぁアイツならそれくらいやるだろうな」


「ええ。あのアーグフルト様をも手懐けておられるようで、みなびっくりしていますよ」


「は?」


さすがにその言葉には手を止めて顔をあげたディエゴに、ジャックはあっという顔をした。


「どういうことだそれは」


また失言してしまった。とジャックは自分を殴りたくなる。

けれど、職員たちには評価が高いアーグフルトが王族貴族の中ではわがままが過ぎて手を焼いていたのだから、大人しくなったのはとてもいいことだ。


「ファビア嬢が来られてから、アーグフルト様が癇癪を起こさなくなりました」


「何だと?」


アーグフルトがファビアに毎日のようにちょっかいを出しに行っているらしいというのは言わないでおく。


その後ディエゴが黙り込み黙々と書類を処理し始めたので、ジャックは、少し悪いことをしたかなと思ったが、いずれはどこかから耳に入るのなら自分が入れたほうがいいだろうと思ったのだった。





「ファビア」


「ひゃあ!」


気配を消して、ベッドに入ろうとしていたファビアに近づき、後ろから抱きすくめたら、さすがに驚いたのか素っ頓狂な声をあげた。

その顔が愛しくて、思わず、額にキスをしてしまう。


「びっくりするじゃないの。もうっ!」


トンっと胸を押すけれど、嫌がっていないのがわかって、そのまま抱きしめた。


ああ…このまま押し倒したい。


そして朝まで心行くまで俺のものにしたい。


けど…我慢だ。


ディエゴは決めていた。

ファビアと結婚式を挙げるまでは抱かないと。


軽々しくは扱いたくないのだ。

きちんと皇太子妃として尊重したい。

ミルアーの礼儀に則ってきちんと迎えたい。


それくらい大切にしているのだ。

ファビアを。


「朗報だ。オルコット家がおまえの後ろ盾についてくれるらしい。オルコット嬢のお茶会に参加するよう皇帝陛下から言われた。オルコット家は後ろ盾としては申し分ない。オルコット嬢はジャックの婚約者でもある。ジャックのカーリンゲン公爵家は俺の後ろ盾だからな」


「まぁ。ほんとですか?」


「ああ。おまえが宮殿内部でいろいろ動いてるのを陛下は面白がっていたよ」


「面白がって?」


「まぁ。認めたということだ。おまえを皇太子妃として」


「そうですか。少しほっとしたかもしれません」


「あ、そうだ。明日からお前は政務に就いてもらう」


「え?」


「皇太子妃としての政務がある。教育係をつけたから6か月後までに完璧にしといてくれ」


「わ、わかりました」


まぁファビアなら問題ないだろう。

ディエゴはそのあたりは心配してはいなかった。


問題は…


「ファビア」


「はい」


ストンとファビアをベッドに降ろし、自分はその横に腰掛けた。


「おまえ、アーグフルトと話してるのか」


「え?」


何を言っているのか理解していないようなほけっとした表情だ。


「話しているというか、アーグフルト殿下とはよく出くわすというか…」


出くわす?

ファビアは一日じっとしていることがないであろうことは最初からわかっていた。

好奇心の塊みたいなやつだから、自分がいなくなると同時に、宮殿を散策するだろうと思ってはいたが…。

ファビアが行くところにアーグフルトが現れるということか。

もしや、アイツが常に目を光らせ、出会うように仕向けているのか。


「頻度は?」


「そうね。1日1回くらいは出くわすかしら?」


「は?」


アイツ…何を企んでいる?


「おまえ。気を付けろ。忘れてはいないだろうが…」


ディエゴは、かしっとファビアの手を握り気配を消した。


「アイツは今から12年後に俺を毒殺した人間だぞ。そんなやつがお前に付きまとっているということは…」


「ねぇ。それなんですけど…。ディエゴ様が殺されたのってほんとにアーグフルト殿下の差し金なんでしょうか」


「は?何を言ってる。2年前も見ただろう。ジュリアードの市場で狙っていたのは間違いなく皇后だ」


「ええ。それはわかってます。けれど…」


考え込むようなファビアの表情にディエゴは違和感しかなかった。

もしや…。


「おまえ、アーグフルトにへんな薬草をすでに盛られていたりしないだろうな」


自分を疑わない、信用させる薬草。

そんなものもアイツなら知っているかもしれない。

何しろ薬草オタクだ。


「それはないと思います。わたしは健康です。ただ…何かわからないけれど…アーグフルト殿下はそんなことをするような人には見えないというか…。前世ではフロレンティーナ王女と結婚されていたものね。そういうところから何か違ったりするのかしら…?」


ぶつぶつと考え込むようにつぶやいているけど…。


「とにかく。アイツには気をつけろ。俺も十分注意するが…」


明日、リンジーを呼び出し、ファビアの護衛を強化させねば…。


ファビアの手を握りながら、そんなことを考えているディエゴだった。

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