舞踏会I
2人のダンスは美しく、会場のすべての人たちの大注目だったにも関わらず、その美しい姿に皆が心を奪われてしまった。
「ほう。なんと美しいお2人じゃ」
「ガーディアンの天女と聞いてはいたが、まさにその通りですな」
「ディエゴ殿下が御執心だと聞くが、誠に分かる気がしますな」
など好意的なものが多い。
が…
やはりそこには相変わらず悪意の声はあって、ファビアにはこの大きな会場の隅から隅までの悪口が聞こえるのだから、特に女性の声には悪意悪意の連発だった。
「他国の公女という噂よ。まさかまさかよね」
「ディエゴ殿下が他国の女性なんて。信じられない」
「なんか、派手すぎない?」
「金髪なんてこの国では御法度よ」
「肌が白すぎてディエゴ殿下とは似合わないわよ」
「あばずれみたい」
思わずダンスしながら吹き出してしまった。
「どうした?」
ディエゴが不思議そうにファビアを見る。
「いいえ。あまりにおもしろくて。色々声が聞こえるのよ」
「ああ。まぁそれは悪口も多いだろうな」
「ええ。あなたも相当誑し込んでたみたいだし?」
これはカマをかけてみただけだった。
だけど、明らかに狼狽したディエゴにファビアは事実だったのかと少しむっとする。
「それは…誰に聞いた?」
まぁ。ホントに女たらしだったの?
ファビアは少しステップを間違えたふりをして、思い切りディエゴの足にハイヒールのかかとをぶつけた。
「っつ…痛いだろ。お前。わざとだな」
「だって、誑し込んでたんでしょ?この中に元カノがどれくらいいるのかしらね?」
「は?」
そしたらディエゴは黙り込んでしまった。
もうっ!何よ。そんなにいるの?
ひどいわよ。
そりゃわかるわよ。
こんなにイケメンだし、将来有望な帝国の皇太子だし、この色気で迫られたらころっていっちゃうのはわかるわよ。
だけどさ。
だけど…。
……
いや…
そんなの言えるわけないか…。
わたしなんてほんっと国を潰すようなバカな女だし…。
黙り込んでいたら、曲が終わった。
ディエゴも黙り込んでいるけれど、手を放そうとしない。
「ディエゴ様?」
「このままここにいろ。みんなここに挨拶にやってくるはずだ。お前を紹介する」
「わかりましたわ」
モヤモヤした心の中は置いておいて、次々と挨拶にくる貴族たちの顔を覚えていかなければならない。
ミルアーの貴族たちは活き活きと快活にディエゴとファビアに挨拶を交わしていった。
中にはファビアという婚約者が横にいるにも関わらず、自分の娘を引き連れてきてディエゴに勧めるような親もいた。
もちろんその令嬢たちもディエゴに上目遣いで媚を売る。
この国が斬新で発達していると言っても、やはりどの国でも貴族は貴族なのだなと思う。
特に一夫多妻制のこの国では皇太子には何人妃がいても問題ないわけでこの先ディエゴに何人の妃がやってくるのかわからない。
果たしていろんな妻たちと閨を共にするために出かける夫を見送ることに耐えられるだろうかとファビアは心の中で泣きそうになっていた。
今更だ。
レイナルドだって妻は他にもいた。
だからこそ、自分が嫉妬深いたちであることは知っている。
あのときレイナルドが自分に見向きもしないことが許せなくてガーディアンを滅ぼす様な暴挙に出たのだから。
こんなことは二度とすまいと思ってはいても嫉妬深い性格が変わるわけではないのだ。
ディエゴはレイナルドのように自分を見向きもしないわけではないし、大切にされていることはわかるけれどそれでも…。
「ビーティー公爵。ダイアナ嬢はどうしている?」
横でディエゴが言った言葉にはっとしたファビアは、それでもなるべく顔には出さないようにニコニコと微笑んでいた。
今…ダイアナと…?




