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ディエゴ、帰還

「ファビア」


明日が舞踏会だしもう無理だと半ばあきらめかけていたその日の夜中にディエゴは宮殿に戻ってきた。

ファビアは当然ベッドの中にいて、うつらうつらと熟睡できない夜を過ごしていたところだったのだ。


「ディエゴ様!」


手を伸ばし、触れようとしたが、ディエゴにキツく拒まれる。


「ダメだ。俺は戦地から直行している。まだ湯も浴びていない。人の血がついている俺に触れるな」


びくっとファビアは手を引っ込める。


まぁほんとに帰ってきてすぐなのね。


「どうしてもお前を見たくて先に来てしまった。許せ。今から湯を浴びる。少し疲れているが、話したいから待っててくれ」


「わかりましたわ」




夜着の上から1枚羽織り、そわそわして待っていたら、さっぱりしたディエゴがやってきた。

さきほどは伸び切っていた髭をさっぱり剃っている。

髪は切れなかったのだろう。さっきは後ろで束ねていたのであまりわからなかったが、今は肩に垂らしていて、またそれが色気たっぷりだったりする。


「少し痩せましたわね」


2人してソファに腰掛けながらファビアはディエゴの全身を観察する。

戦地にいると食べたいときに食べられるわけではないのだろう。もともと引き締まっていたのにさらに痩せたように見える。


「そうだな。腹いっぱいは食べていないからな。まぁそれは明日から食べれば回復するさ。南部はこれで片が付いた。さすがにもう俺は結婚式まで戦地には行かなくていいだろう」


「ほんとですか?」


それはどうだろうと思いつつ、ファビアはディエゴの手を取る。


「ファビア。悪かったな。手紙の返事もできなくて」


「いいえ。戦地ですもの」


「ああ。もともと筆不精だからな。それに戦地に紙と筆がなくてな」


「ええ」


そんなこと。もう無事で帰ってきてくれたらどうでもよかった。


「明日の舞踏会に何とか間に合った」


ディエゴはほっとしたように言うと、笑った。


その笑顔があまりに今まで見た中で屈託ないものだったので、ファビアは胸のドキドキを収める事ができない。


「ファビア。俺は疲れている。ベッドの上で話してもいいか?」


えっ?

心の準備が…。


ドキドキがさらに高まる。


「ええ」


ディエゴに手を引かれるままにファビアのベッドの中にディエゴが入ったので、それに引き続きファビアも入っていく。


ど、どうすればいいの?

今?

今夜?

そういうことになるってこと?


身体を固くしていたら、ディエゴはそっとファビアの手をとった。


え?

手?

それだけ?



「お前の事だ。今頃は宮殿中を把握しているだろうな」


「え?」


「宮殿どころではないか。ジュリアード中探索しているだろう」


「あ、バレてました?」


ディエゴがくすくす笑う。


「そのへんは心配してなかったよ。好奇心のかたまりみたいなやつだからな。おまえは」


「まぁ。失礼ね」


ぷくっと頬をふくらませるとディエゴがひょいとファビアを自分のほうに抱き寄せた。

いよいよかしら…。


ファビアが身構えていると…


すーすーと規則正しい寝息が頭上で聞こえ始めた。


え?

ええっ?

眠ってる?


まあそりゃそうか。

戦争帰りだもの。

疲れ切っているわよね。


ファビアは一気に脱力していくのを感じた。


自分だけがどうやら気を負いすぎていたらしい。

ディエゴが自分を抱きしめて眠っている。

それだけでなんて幸せな事なのだろう。


そのぬくもりがうれしくて、ファビアもぎゅっとディエゴにしがみついた。


「ディエゴ様。お帰りなさい。ずっとそばにいますわ」


ファビアが静かに言った中、ディエゴはリラックスした表情で久しぶりに深い睡眠に誘われていたのだった。


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