イアン皇子
「わたしにそんなことを聞くのですか?」
第五皇子のイアンに手紙を書き、イアンが指定した時間に皇太子の執務室を訪問したところ、山のように積まれた書類を前に、ファビアを見ながらくすくすと笑った。
「ですが、ティナ皇女殿下とアナベル皇女殿下のお話ではイアン皇子殿下にお聞きするのが一番だと…」
「わたしは兄の執務の代理はしていますが、それはあくまで急を要するものだけです。重要なことは全部兄上がお決めになられる。わたしには決定権はありませんよ」
「ですが…」
「では兄に今日公文書を送る予定ですので、そこにファビア嬢の手紙も忍ばせておきましょう。その返事をお待ちするしかありませんね」
とのことで、脇机を借りてディエゴへの手紙をしたためている。
隣ではもくもくと公文書を読み、決済印を押していくイアン皇子の姿があった。横にはいつぞやに見たジャック令息の姿もある。
ジャックはディエゴとともに戦地には出ていないのね…。
手紙を書きながら盗み見ている限りではイアン皇子はとてもまじめな気質のように思う。
ひたすら書類に目を通し、チェックし、ハンコを押す。その単純作業をもくもくと真面目にこなされていた。
「ジャック。この書類は兄上じゃないとダメな案件だ。今日の送付物に含めてくれ」
「はい。かしこまりました」
そんな中ファビアは、舞踏会について自分が出席の必要があるのかないのかそれだけの指示を仰ぐ簡単な内容の手紙を書き、封をして、イアンに渡した。
「お願いいたします。イアン皇子殿下」
「わかりました。今日送る文書と一緒に送ります。では。もうよろしいですね」
そう言うとその後はイアンはもうファビアのことは見向きもしなかった。




