王宮散策
2022/10/10 本文追加してます。
すみません。
「リズ。少しリンジーと庭に出てくるわね」
「お庭にですか?」
大丈夫なのかと不安げな表情のリズに問題ないと余裕の笑みを浮かべる。
「大丈夫よ。リンジーがいるし、わたしもここで生きていく以上積極的に行かなきゃならないしね」
「は…い…」
歯切れの悪い返事だ。
不安はある。
そもそもディエゴとあの家族、特に皇后と第六皇子の関係は絶対に良いとは言えないし、あの皇后がディエゴ暗殺未遂の際に後ろで指示していた声の持ち主に違いないし、ディエゴの婚約者である自分がその人たちから狙われていることは重々承知だ。
いつ殺られてもおかしくはないだろう。
けれど、ディエゴと共に生きたいと思ったのは自分なのだ。ディエゴと共に生きる以上、ディエゴの運命を受け入れる必要がある。
このフェルナンデス家に立ち向かってやろうではないか。
そのために毎日、動くつもりだった。
幸い、ディエゴがつけてくれた護衛のリンジー・ウインストンに2本の剣を帯刀してほしいと頼んだところ、快諾してくれた。もちろん1本はいざというときにファビアが使えるようにだ。
どうやら頭もいい女性騎士らしい。
髪も短くしており見た目はどうみても少し華奢な男性に見える。しかも美男子。
なのに話すと声は女性だった。
リンジーはミルアー帝国のしきたりにも詳しかったので、わからないことは何でも聞くことにした。
「ねぇリンジー。まだ婚約者であるわたしが王宮の職員たちと言葉を交わすことは禁じられてはいないわよね?」
このへんのことまではよくわからない。
そこまで家庭教師は教育してくれなかった。
固く禁止されているならさすがにやめようとは思うが…。
「はい。それはありません。王宮職員たちはファビア様が婚約者として王宮に滞在中であることを全員報らされています。ミルアーは開かれていますので、王宮内、どこに行かれてもかまいませんし、職員とはどんどん仲良くなられていいと思いますよ」
ファビアはどんどん王宮の中を探索していくことにした。
初日の今日は、農園を見てみることにする。
ミルアー王宮の前面に見事なバラ園があるが、裏には大規模な農園があった。
ガーディアンの王宮には農園はなく、とても興味深かったので行ってみると、10名くらいの職員が活き活きと働いていた。
職員たちは、ファビアを確認すると一斉に深くお辞儀をする。
どうやら、ファビアのことをディエゴの婚約者だと認識しているらしい。
そのお辞儀に歓迎の意を感じ、ディエゴが王宮で愛されているということをファビアは認識した。
農園を見ていくとまずは季節の野菜類がたくさん植えられており、そのさらに奥には温室がある。
「少しいいかしら?」
職員の手を止めることになる。威圧的に話してはならないとファビアは確認をとってから話すようにした。
「はい。皇太子妃殿下様」
うやうやしく腰をさげる。
まだ妃殿下じゃないんだけどねとくすぐったく感じながらも特に否定せずファビアは続けた。
「温室の中を見せていただきたいのだけど、みなさんの手をわずらわせたくはないわ。手がすいた時に案内をお願いできないかしら?」
「はい。かしこまりました」
ファビアに言われて、断るはずはなく、その男性に呼ばれて1人の女性がやってきて温室を案内してくれた。
温室の中にはミルアーよりさらに南の年中暑い場所でしか育たないような植物が植えられており、だいたいは薬として使われるものらしかった。
おそらくこの中には毒となるものやその解毒剤となるものもあるのだろう。
そういうものはおそらくあの中、厳重に鍵がかけられているところにあるに違いない。
さすがにそこまで案内を頼むわけにはいかず、ファビアは満足して温室から出てきた。
それにしてもすばらしい農園だ。
「ここで収穫したものは王宮の食卓以外にも出荷しているの?」
「はい。作物はかなりの量が穫れますので、市場に出荷しています。王宮産のものは質がよく庶民にも人気が高いのです」
そうなのか…。
さすがミルアーね…。
「王宮産を庶民が口にできるのはすべて皇帝陛下のおかげです」
うやうやしく頭を下げる。
皇帝陛下の信頼は厚そうだ。




