舞踏会の前の一幕
不定期なアップですみません。
「とても評判になっているよ。君の令嬢は」
「は。恐れ入ります」
自分が王都ガナディーでひとりの時にさんざん娘自慢をしていたからというのもあるが、ついにファビアがガナディー入りし、ガナディーのロンズディール公爵家タウンハウスのメイドたちが自慢げに他家のメイド網を通じて、ファビアの美しさを吹聴しているらしく、かなり美しいらしいと噂が噂を呼んでいる。
「いつまで隠しておくつもりかね。この頃では一目見ようと君の屋敷の前に馬車の行列が出来ていると聞くぞ。秋の大舞踏会まで待てぬとな」
「隠しているなどとはめっそうもございません。陛下」
決して隠したいわけではないのだ俺は。とジーニアはひとりごちた。
なのに当の娘はガナディーに入るや否や部屋に引きこもったままだ。
少しでも部屋を出たら弓矢が飛んでくるとでも思っていそうな勢いだ。
領地ではあんなに外でばかり遊んでいたというのに。
おかげで日に焼けていた小麦色の肌もすっかり白くなり、一層美しく輝いているからそこはいいのだが…。
「舞踏会では君がエスコートするのかね」
「はい。そうですな。娘は他の男性では嫌だと申すものですから」
エスコートしてもらう人間もいろいろ吟味して候補としてはあげたが、なかなか適任もおらず、本人が父がいいというのだから致し方あるまい。その日はキャロライナには我慢してもらい、家で留守番をしてもらうことにした。
まあキャロライナを連れてきて悪い虫がついても困るからな…。
「そうか。ならば、デビュタントのダンスを踊ったら、すぐにわたしのところへ連れてきたまえ」
「陛下のところに?ですか?」
もしかして…これは。
「ああ。評判の令嬢をこの目で見たいだけじゃ。わかったな」
「はい。御心のままに」
もしかしなくてもこれは…
もしかしなくても、留学先から一時帰国している王太子と引き合わせたいということだ。
他の男と踊る前に…。
うーむ…。
自分としてはこれ以上のことはないが、ファビアが「うん」というかどうか…。
ジーニアはまた大きくため息をつかざるを得なかった。
しかし陛下の命に背くわけにはいかない。ファビアをなんとかして連れて行かねば…。