フェルナンデス家の人々
深々とカーテシーで挨拶を交わしたときの印象は、見た目はディエゴとそっくりだというところだ。瞳の色が黒いところがちがうだけで、ほんとにそっくり。
ただ、あまり感情を感じない人だと思った。
晩餐の間中、ジロジロとファビアを観察している視線は感じた。
そしてその隣の皇后だ。
同じような黒っぽい茶色の髪に同じような色の瞳だが、少し髪はウエーブしている。
美しい人だったが、始終ファビアを値踏みするように見ていた。
皇帝と皇后で違うのは、皇帝の視線には悪意はあまり感じなかったところか。皇后の視線はすべて悪意でできているかのように感じた。ガーディアンの王妃からも悪意の眼差しを向けられていたが、それは蔑みの視線だったのに対し、皇后の視線はそのまま悪意だった。
なによりも皇后が放った一言。
「ようこそ」
という冷え冷えとしたその声が、あのとき、ディエゴを銃撃した時に聞こえたあの女性の声だったそのことに震え上がった。
キャロライナはこの場の空気が凍り付いていることに震えあがっている。
さすがにジーニアとアランは正気を保っていたが…。
ファビアは負けまいと気を張りつめていた。
ここで屈するわけにはいかない。
晩餐が始まってからしばらくして遅れて入ってきたのが第六皇子のアーグフルト・フェルナンデスらしい。
彼も黒っぽいくるくるの茶髪に茶色の瞳をしている。
皇后に似た美丈夫でディエゴとはまた違った魅力がある。
ファビアと同じ年だったはずだ。
「遅れまして申し訳ございません」
声はディエゴと似ているが、少しディエゴより冴え冴えしい感じがした。
ファビアは立ち上がり、完璧なまでのカーテシーで頭をさげる。
「ガーディアン王国より参りました、ファビア・ロンズディールにございます。よろしくお願いいたします」
「へぇ。なかなか美人だね。兄上」
頭を下げたままだが値踏みするような視線を感じる。
「当たり前だ」
ディエゴがさらりと無表情で言ってのける。
ディエゴが合図したので顔をあげ、席に着いた。
アーグフルトはすでに席に着き、運ばれてきた前菜に口をつけている。
まったく、座っていいよの一言がないのか。お前には。
ディエゴがいるから今日はいいが、明日からもここで食事をさせられるのなら食事にありつけずに終わる可能性にぞっとした。
「まさか外国から連れてくるとは思わなかったよ。兄上。ダイアナの事はどうするつもりなの?あの子ずっと待ってたんだよ」
ダイアナ?
なんか聞いたことがある。
ファビアは頭の中で前世の記憶の糸を辿り始める。




