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弟アラン

「姉さま。ぼくのプレゼントは気に入ってくれた?」


自分と同じエメラルドアイを持つロンズディール家長男、アラン・ロンズディールだ。

7歳になったファビアの弟は、先ほどの誕生日パーティでは、ファビアの愛馬メイサのえさと称して、丘の上に生えているメイサの好物キュリアスの実を大量に袋詰めにしてくれていた。


「ええ。とっても。あとで一緒にメイサにあげにいきましょう」


ぱあっと明るく顔を輝かせたら母のキャロライナが笑ったところとそっくりだとファビアはいつも思う。


「うん」


「まぁアラン。ファビちゃんのものではなくてメイサのものをあげるなんて、それじゃ将来女の子にモテないわよ」


キャロライナ夫人がアランと同じ表情でにこやかに笑う。

そしてその横でほほ笑むと、キャロライナ夫人の額にそっとキスをしている父、ジーニアをファビアは見て見ぬふりをした。

そのまま口にまでしそうな勢いだ。


まったく、一回仲良くなったら人目も気にせず仲良くするのやめてほしいんだけど…。


父の性格は自分と同じ。

だからわかるのだ。


父は以前の母のように何でも言うことをきく女性は好きじゃない。

ほんとは、ずけずけと自分の間違いを指摘されるほうがいいのだ。


そういう勝気な女性の方が好きだってわかってるのにお母さまは従順なものだから…。


きっと今でも根は従順なのだと思うが、それでも言いたいことは言う様になったおかげで父との仲は劇的に改善し、前世ではいなかった弟のアランが産まれたというわけだ。


「それはそうと、ファビア。来月にはガナディーに戻るぞ。わかってるな」


不安そうなジーニアの声にファビアは苦笑する。


「はい。わかってます」


今まで何を言ってもガナディーには出向かず領地に引きこもっていた娘だ。また気が変わったと言い出すんじゃないかと不安で仕方ないのだろう。


けれど、名門ロンズディール公爵家の娘としてさすがにデビュタントをしないわけにはいかない。

ふつうの貴族令嬢なら14歳でデビューするところをあーだこーだと理由をつけては16歳まで引き伸ばしたのだが、これ以上はもう無理だ。

ついにこの秋に開催される秋の大舞踏会でデビューする。


それでも目立ちたくないから、できるだけ地味にしようと画策はしている。

そうじゃないと今まで領地に引きこもっていた意味がないもの。


父にもさんざん、目立たないようにしてほしいとはお願いしているけれど…。


とにかく目立たないように…。

それに…1番会いたくないあの方はいらっしゃらないものね。


「お父様。けれど、わたし社交シーズンが終わったらまたこちらに戻りますからね」


確認するように自分と同じエメラルドグリーンの父の瞳を見る。


「ああ」


苦虫を噛み潰したような表情のジーニアはしぶしぶうなずいた。



本当は自慢したくてしかたない娘なのに、どうしてこうも内向的なのか…。

16歳にしてこんなに美しいというのに…。


「しかしだな」


反論してみるも娘には弱くすぐに説得されてしまうのだ。


「わたしはメイサと戯れていたいのですわ」


乗馬が好きな娘。

思えばこの子の母も乗馬や剣術を嗜む活発な娘だったなと思い出す。


母親に似たのか…。


しかし、ファビアの乗馬は群を抜いてうまいことも確かだ。

女性とは思えないほどの手綱捌きで馬を乗りこなす。


剣術も少し習ったようだが、腕前はいいと報告を受けている。


世間ではこういう娘をじゃじゃ馬ということを知っていた。


しかし、それを以てしても、ファビアの美しさはすばらしく、自分の美貌を受け継いだこの娘をこんな田舎に埋もれさせておきたくはないのだ。


なのに娘は貴族の社交界には興味を示さない。


「ふぅ~」


ため息をつくと、妻のキャロライナが肩にトンと手を置いた。


「気長に待ちましょう。ジーニア様」


この妻も最初は従順なだけの面白味のない女だと思っていたものだ。

けれど、今は…それなりに愛している。


何よりも、娘を大切にしてくれるし、息子を生んでくれたし。

それに…まあこう見えて、気が強いところもあっていい女だ。


「まぁそうだな」


ジーニアはキャロライナの額に口づけを落とした。


夫婦仲はとてもいい。

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