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舞踏会の前にI

なんで急に…。

あんなこと。


ずっと恋していた。

好きで好きで仕方なかった。


なのに、前世では一度も振り向いてくれなかった。


一度だけあった婚儀の夜の冷たい営みを思い出し、ファビアは一筋の涙を流した。


どうしてわたしを?


レイナルド殿下…。




コツリ…。


窓に石ころが当たった気がした。


え?


もしかして?


大急ぎで窓際に立つと、1階にディエゴが立っている。


「今日は道具を持ってないからこれを受け取れ」


という声とともに下からロープが飛んできた。


ひょいと受取り、近くにあった、柱に括り付ける。


「OK」


ディエゴがするするとロープを伝ってあがってくる。


さすが、慣れたものだ。


「遅くなって悪かったな」


ディエゴの碧い瞳を見て、ファビアは泣きそうになった。


「バカ」


「なんだよ」


「心配したんですよ。ガーディアンからはいなくなったってレイナルド殿下から聞いていたので、もう帝国に戻ったのかと思っておりましたわ。あ、けれどその前にお礼を言わないと、助けていただきありがとうございました」


あの時、ディエゴを見てとても安心した自分を感じた。

ディエゴが来てくれなかったら間違いなく死んでいただろう。


「どうしてあんなところに?」


「ん。まぁな。話せば長くなるが…」


ディエゴはひょいとファビアの手をとると、ソファの上に促し、2人で腰掛けた。


「1か月ほどこの国にいなかったのはカンディアナ王国へ行っていたんだ。例の毒薬の件でな」


「カンディアナに?」


「ああ。カンディアナからあの毒薬がミルアーにもルートがあったみたいだったんでな。それを調査してるうちに解毒剤のこともわかったわけだが、結局その件でこっそりガーディアンに入っていたところだった。そろそろ王妃が動くことはわかっていたから常に目は光らせていたんだが、ドンピシャでおまえらがあの酒場に向かったもんだからな。俺もそこに向かったというわけだ」


「そうだったのですね」


「カンディアナの上部も今かなり腐ってきている。革新派がかなり準備してる段階だからな。ほら、今からだとあと5年後に革命が起きただろう」


「あ」


前世では革命が起きて、あそこにもはびこっていた純血信仰が崩壊したのだったわ。


「では、デーゼを国外に売りさばいている組織があったということですか?」


「そうだ。俺もガーディアンのおかげでそのルートを事前に知ることができてよかったよ。前世でこの毒にやられて殺されたやつらがミルアーにもいたからな」


「まぁそうでしたの」


「そうだ。今思えば…だがな。あの時は風邪が悪化して死んだと思っていた」


「王族の方ですか?」


「うん。そうだな。俺の母親だ」


「え?」


そんなにさらっと…。


「今世ではもうちょっと長生きしてくれるかなと思うとな。まぁうれしいもんだ」


そしてふっと笑った。


「それで?治ったみたいだな。ピンピンしてるじゃないか」


上から下までファビアを見流され、少しこっぱずかしくなる。

今夜着しか着ていないんだったわ。

よく考えるとはしたないったら…。


それにさっきから久しぶりに手を握られているのがとてもなんだかくすぐったい。


「ええ。おかげさまで。過保護な家族とレイナルド殿下のおかげでずっとこもりっきりでしたからね」


するとディエゴはクスクスと笑う。


「それがふつうの令嬢に対する反応だよ。おまえが少しずれてるんだ」


「まぁ失礼ね。あなたもかなりずれていますわよ」


ぷいっと横を向くと、ディエゴはまたハハハハと豪快に笑った。


とても、久しぶり。

こういう楽しいディエゴとのやりとり。


「聞いた話では王妃が処刑になるんだって?王女も島流しだと?」


「ええ」


やはり。すべてディエゴはもうすでに知っている。

この人の情報網はどうなっているのかしら。


けれどきっとあのことは知らないわよね。

さすがにまだ。


「どうするんだ?王太子と舞踏会にはいくのか?どっちみち誘われただろう?」


うっ…

そんなことまで知ってるわけね。


「どうして何もかも知ってるの?ええ誘われましたわ。それまでに返事が欲しいと、そう言われました」


「返事?」


ディエゴが眉をつりあげる?


あ、それは知らなかったのかしら?


「ええ。プロポーズされたんです」


「え?」


ディエゴの手が一瞬固くなったように感じた。


「もし結婚する気があるなら舞踏会にエスコートをしたいと。すべてわたしの意志で決めてほしいと」


要するに、ジーニアには何も言わないということだ。外堀は埋めないと。


「そうか」


ディエゴの声も堅くなったように感じる。


「よかったじゃないか。前世からずっと好きだった男に…好きだと言ってもらったのなら、何も迷うことないだろう?」


ディエゴの冷たい声がファビアの心にぐさりと刺さった。


迷うことない?


「どうしてです?わたしは…」


「なぜだ?怖いのか?また捨てられるかもしれないと。そんなことはないだろう?前世とは違う。何もかもが変わってる。だから大丈夫だろう?おまえは晴れて、王太子妃だ」


どうしてかとても早口に思える。

いつもは冷静なディエゴが。


「ディエゴ殿下…。わたしは…」


「いいじゃないか。祝福してやるよ。前世を知る同志としてな」


「そんな言い方…」


あまりにディエゴの言い方がぶっきらぼうに思えて、ファビアは眼に見えない涙を流していた。


「今度会うときはお前の結婚式だな」


「そんな…」


「そろそろ帰るよ。おまえの元気な姿が見られたら俺はそれでいい」


「ディエゴ殿下っ!わたしは」


ファビアは自分の気持ちを言おうと立ち上がったが、ディエゴは無視して窓をひょいと抜けた。


「またな。ファビア」


その笑顔が今日は脳裏に焼き付いて離れない。


どうしてそんな言い方するの?


わたしは何も決めていない。


誰もレイナルドと結婚するなんて言ってないのに…。


ひどすぎるわよ。ディエゴ。

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