マチルダ・ミラージェスの正義感
「デーゼ?ですか。それは…わたくしも初めて耳にする毒草ですわね…」
「ええ。でも、調べられないかしら?実は今その毒草がガーディアンに入ってきてるんじゃないかと思うのよ」
「ええっ!」
マチルダが驚き、そして怪訝な表情を浮かべた。
そりゃそうだろうと、どう切り出したものかとファビアは悩みながらも話を進める。
「わたくし、マチルダ嬢とお友達になってから薬学に興味を持ったの」
「え、ええ」
好奇心旺盛なファビアならあり得る話だからマチルダも特に驚かない。
「だから薬草学の本をお父様におねだりしてミルアーの最新のものを手に入れてもらったのよ」
本当はディエゴにもらったもので、その中に少しではあるがデーゼの記載がある。
「ほら、ここよ」
『シナモンに似た独特の香りがあるため、食べ物に混入する際は味付けの濃いものに限る』
「この香りがしたのよ」
「それはどこでですか?」
「この間の舞踏会の宮殿の庭の方へ出たときにね」
「まあ。それは本当ですの?」
「ええ。シナモンではない…そうね…もうちょっと辛味を連想させるような…」
実際に嗅いだのだから信憑性があるというものだ。
マチルダは考え込むように顎に手を当てている。
「けれど、使おうとしているから、誰かが取り寄せたのですわね」
「そうよ。王宮でというのが引っかかるのよ」
マチルダの中でファビアは予想外の令嬢だった。
普通の令嬢ならシナモンの匂いがしたなら、どこかでシナモンティーを飲んでる人がいるのだろうくらいにしか考えないだろうが、ファビアはそこで興味を持って調査するような普通じゃない令嬢だということくらいとっくに理解している。
王宮でということはもしかしたら…
「それは調べてみた方がいいかもしれないですね」
マチルダは父に似ている。
容姿ではなく中身の方だ。
薬草学に精通して、正義感が強いところだ。
父であるミラージェス伯爵が前王を助けた人間だ。表向きは病を治したということになっているが、実際のところは毒殺を防いだのだということは伯爵家と王家のみが知っている極秘事項である。
今度のことも調べる必要があるだろう。
「ええ。お願いするわね」




