レイナルド殿下の予期せぬ訪問
この回、いつもより長めです
「フ、ファビア様!!大変ですわ。」
デビューして2年目の社交シーズンに入り、先日ガナディーのタウンハウスへ入ったところで、のんびりと午後の紅茶を楽しんでいたら、侍女のリズが大慌てでサロンに飛んできた。
リズはガナディーに来た時にタウンハウスで雇ったメイドで、ファビアと気が合ったため、そのまま領地にも同行させたものだ。
領地からまたガナディーにも同行してきている。
「どうしたの?」
ファビアはおもむろに顔をあげた。
まったく、このお嬢様は…。
とリズはほれぼれと主人の顔を眺めた。
なんてお綺麗な…。
根はあんなにもおてんばだというのに。
そのギャップがたまらないのだけれど…。
あ、いけないわ。それより今は。
「王太子殿下がお越しなさいました」
「は?」
ファビアの顔が真っ白になった。
「どういうこと?」
「わかりません。先ぶれもなしに申し訳ないが、とのことで…こ、これをファビア様に」
中を開くと、レイナルドの字体で
『突然の訪問申し訳ない。先ぶれを出したかったが、途中の宿でトラブルがあり、出せずに直接来てしまった。無理にとは言わないが、少し顔を出せないだろうか?』
先ぶれなしに来たのでどうしても無理なら対応しなくていいとは言っても、王太子殿下が来て対応しないわけにはいかない。
それにしても途中の宿とは?
「リズ。用意をお願い。お父様とお母様は?」
「今、お二人で観劇に…」
「アランは?」
「ご友人のお家で本日はお泊りを…」
もうっ!肝心な時に誰もいないじゃない!
「仕方ないわ。わたしが対応するから、ドレスは青の先日お父様から頂いたものにして頂戴」
「かしこまりました」
大急ぎだ。
待っていただいている間に対応する者もいないなど…。
とりあえず最速で用意し、ファビアは応接室へ到着すると息を整え、扉をノックし、中に入っていった。
「王国の太陽、王太子殿下にご挨拶申し上げます」
顔を下げたまま入ったファビアにレイナルドの懐かしい声が響いた。
「かしこまらなくていいよ。今日は突然来てしまった僕が悪いんだから。顔をあげて」
声を聞くだけでキュッと胸が締め付けられる気がした。
用意することに必死で忘れていた。
レイナルド殿下と会うなど…してはいけないことだったというのに。
怖くてあげたくない顔をあげたら、そこにはまばゆいばかりのレイナルドがいた。
一年前より背が高くなり、もう立派な大人だ。
銀糸の髪がキラキラと輝いているように見えた。
18歳…よね。
この年に、ファビアがダダをこねて、レイナルドの婚約者になり、いやがるレイナルドを言いくるめ、この1年後に結婚式を強引に挙げたのだ。
「恐れ入ります。このようなところまで足をお運びいただきましたのですから、お茶をお召し上がりくださいませ」
「そうか。わかった。悪いね」
レイナルドが座ったので、ファビアも向かいのソファに腰を下ろす。
「君にこれを」
ファビアは眼を見開く。
レイナルドの従者が持ってきた、その花はガーディアンでは見たことのない大ぶりのオレンジ色の花の鉢植えだった。
「なかなかこちらでは見かけないものだったのでね。めずらしくて持ち帰ってきたのだよ。カンディアナの花でマリウアだ」
そうか。カンディアナの留学からもう帰国されたのだわ。
もしかして…
「もしや帰国途中に寄っていただいたのですか?」
「ああ。一刻も早くこの花を届けたくてね。南国の花なのでガーディアンの寒さでこれから先の冬を越せるかわからないから」
「そのようなこと…わたくしどものために…していただかなくても…」
なぜ?
こんなこと…前世では…
「いや…その…」
何やら言いにくそうに頭を掻くレイナルドを見てファビアはびっくりしてしまった。
ど、どうされたの?
こんな表情前世では見たこともない。
「今日はちょっとお願いがあって…来たのだ」
「はあ…何でございましょうか?」
こんなはにかんだような表情…
「秋の舞踏会で、僕を君のパートナーに選んでもらえないかな?」
「……」
パートナー…
ん?
「は?パートナーですか?」
ど…どういうこと?
きっと声が裏返ったに違いない。
「僕では君のエスコートはさせてもらえないかな?」
不安そうなその表情にファビアはブンブンと頭を横に振った。
「わたくしなどが殿下のパートナーなど…務められるわけがありませんわ。もっとふさわしい方が…」
「それは…何か理由でも?僕にダメなところがあれば直すから言ってほしい」
「へっ?」
また声がうわずる。
「滅相もございませんわ。わたくしの方がただ殿下にふさわしくないと…」
「そんなことあるわけないじゃないか。とにかく、考えておいてほしい。公爵にも話を通しておくから」
「いやあの…殿下…」
「それでは失礼するよ」
ファビアの反論など無視…。
レイナルドはさっさと帰って行ってしまった。
つ、疲れた…。
体力は自信があるし何も疲れないけど、こういうことは…ほんと大概にしてほしい。
それにしてもどうやって断ろうか…。




