ディエゴ、認める。
プライベートで少し忙しくしており更新遅くなりました。
ディエゴは勘がいい。
この喧噪の中のとても遠い場所であっても、こちらに殺意を向けている人間がいることがわかるくらいには。
この殺意は、俺にだな。
気付いているやつがいる。
どこだ?
周囲に気配を配る。周囲360度…。そして上下…。
いた。あの建物の中だ。
刺客は屋台で並んでいる2人のファビア側のまっすぐ遠方に位置する2階建て建築の屋上から銃を構えている。
まずい。ファビアが巻き込まれる前になんとかしないと。
と、その時だ。
ファビアがはっとディエゴのほうを向くと、ガシッと肩を掴み、渾身の力でぶつかってきたのだ。
「おいっ!」
と同時に銃声が鳴り響いた。
ディエゴはすぐに刺客が屋上から消えていることを目視で確認し、次にファビアを確認した。
「っっおいっ!」
地面に倒れこんでいる。
もしかして…?
「おいっ!無事なのか?」
回りは大騒ぎになっており、遠巻きに着いてきているに違いないディエゴの部下が刺客を追っているはずで、市場の喧騒を鎮めてくれるはずだ。
それはもう任せておけばいい。
問題はファビアだ。
「おいっ!」
ディエゴの胸のあたりを嫌な汗が流れていく。
もしここでファビアがどうにかなっていたら…?
俺は…どうしたらいい?
「ディエゴ様…」
ファビアは顔をあげて、にっこり笑った。
「びっくりしましたけど、大丈夫ですわ。ただ…」
「どうした?もしや銃に当てられたわけではあるまいな」
「いいえ。大丈夫です。ただ、腰を抜かしてしまっただけですわ」
「声が聞こえたのです。とても恐ろしい…。ディエゴ殿下に対する悪意の声が…。だから怖くて…もう夢中で…」
地面にへたり込んだままぽろぽろとファビアのエメラルドの瞳に涙が伝っていくのを見てディエゴは慌てて、ファビアの前に自分の背中を出した。
「さ、ここに」
「え?そんなの無理です。恐れ多くも…」
「今更何を言ってる。歩けないんだろう?」
「はい。では遠慮なく…」
結局おとなしくおんぶされたファビアはディエゴの馬の前に乗せてもらい、ディエゴの別邸に帰宅した。
皇太子付の医師を呼び、診察を受けた後鎮痛剤を処方してもらい今ファビアは眠っている。
抜けた腰は明日にはよくなるだろうとのことだった。
その傍らでディエゴは寝顔を見ながらふぅーっと息を吐いた。
そろそろ認めねばなるまい。
自分がファビアに惹かれていることを…。
自分のために身体を張って守ろうとしてくれた。
どうしてだファビア。
どうしてそんなに違うのだ。
ふと気配に気づく。
「なんだ。入れ」
「は」
入ってきたのはジャックだ。
公務を山ほど持ってきたのだろう。
「殿下。刺客はやはり皇后からのものだと思われます」
「そうか」
ジャックがちらとファビアを見たようだったが、すぐに視線を逸らせる。
「よいのですか?ご令嬢を帰さなくても」
「そうだな。危険なことがあった以上、ここに置いておくのもはばかられる。明日俺がアクランドの領地へ送り届けよう。無印の馬車を用意しておいてくれ」
「かしこまりました。では手配します。公務はどうされます?」
「ここでやる」
「はい。では用意します」
一度ジャックが出て言ったので、ディエゴは大きくため息をつく。
帰すのか…。
帰したくないな…。
このままここにいてほしい。
ずっとファビアの笑顔を見ていたい。
あーーー。くそっ。
ディエゴはそっとファビアの額にかかる黄金の髪をはらうと、そこに唇を寄せた。
そして、はっと我に返ると、自嘲の笑みを浮かべた。
俺が恋だと?
笑わせるな。
ったく、今何年生きててこんなことになってる?
しかもファビア・ロンズディールに?
意を決してファビアの傍らを立ち上がると、そばに会った机に身を沈める。
さぁ朝まで公務を片付けねばならない。
徹夜だな。
仕方あるまい。




