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市場散策

「ジャック様。今度は市場へ出てみてもいいかしら?」


「市場ですか?」


「ええ。だからあなたはわたしの護衛じゃなくて、夫のふりをして頂戴」


「え?いや。ですが…」


まったく、この令嬢にはタジタジになるとジャックは心の中で毒づく。


こんな令嬢、会ったことないぞ。


小さいころから幼馴染として育ったディエゴから助けてほしいと言われてきてみたら、女がらみでびっくりして、さらにそれが隣国の公爵令嬢と聞いてびっくりして、そしてこの性格…。


好奇心のかたまりというかなんというか…。


うーん…。


「お願いよ。どうしても見たいの。市場が」


この美しい顔をこちらに向けて懇願されたらうんと言わざるを得ないじゃないか。


「わかりましたよ。ファビア嬢。行きましょう」


仕方なく、実家の公爵家の執事に連絡し、平民用の服を都合させる。


「ありがとう!」


大喜びで破顔されたら…どうしようもないな…。


市場でも大興奮している。


ほんとに公爵令嬢なのか???





市場から屋敷に戻ってきたら、ディエゴが来ていた。

どうやら、ファビアが滞在中は、ディエゴは夜はこちらで過ごすつもりらしく昨日もこちらに泊りこんだようだ。


平民の服を着て2人して帰ってきたのを見て、ディエゴはさすがに口をあんぐり開けて出迎えた。


「いったいどこに行ってきたんだ?お前ら」


ディエゴの眉が吊り上がっている。


「市場ですわ。ホントに楽しかったですわ。だって、ガーディアンでは見たことのない食材がほんとにいっぱいあって…ほんとは買って帰りたいくらいだったのですわ。けれど、我慢しました。あ、そうだわ。ディエゴ殿下にお土産がございますの」


ファビアが粗末な袋の中から包み紙を取り出す。


「これ、平民の間で大流行の『密たらし餅』というものですって。とてもおいしかったのでディエゴ殿下にも買ってまいりましたの。どうぞ召し上がってください」


ディエゴが中を開けるととろーりと黒い蜜にまみれた餅が入っている。


なんとなくスッキリしないものを感じながらもディエゴはその餅を口に運んだ。


うん。うまい。


「どうですか。殿下」


こちらを窺うようなそのファビアの活き活きした表情を見ると、胸の奥がふわふわした気持ちになる。


「うまい」


「でしょう?」


ファビアがジャックと顔を見合わせている。

それを見て、ディエゴはむっとしてしまった。


「で?お前たちはなぜそのようななりをしている。それではまるで…」


「だって市場に護衛を連れていくなんて目立って仕方ありませんわ。平民ならば夫婦のふりをするのがよいと思いまして」


「夫婦?」


言葉にとげがある。とジャックは思った。

ディエゴが怒っている。


今まで片眉だけだったのが両眉つりあがってるじゃないか?


「いや、まあ仕方なくってところですよ。殿下」


言い訳がましいがここはちゃんと言い訳しとかないと。


「ほう。まぁよい。ファビア!」


呼び捨てにされて、ファビアは一瞬びっくりして顔をあげた。


「え?あ、はい。どうしましたか殿下」


「お前は今から湯あみでもしろ。それが終わったら夕飯だ。わかったな。ダイニングで待っている」


「はい」


なんとなくディエゴの機嫌が悪いと思ったのだろう。ファビアがきょとんとしている中、ディエゴが指で合図したので、ジャックはディエゴとともに部屋を出た。


ううっ…これは落ちるな…。



ディエゴの部屋に入った途端…。


「ジャック。任務とはいえ、楽しかっただろうな」


これは静かな雷だとジャックは思った。


「いや…その…」


タジタジな自分が嫌になるが女がらみのディエゴなど想像できず、どういう雷が落ちるのかなど経験がないのでわからないのだ。


「ほう。やはり楽しかったと見える」


その後しばらくディエゴは無言だったが、しずかに言った。


「いい。今日は帰れ。また明日…いや…いい。明日は俺が対応しよう」


「え?ですが…公務が山のように…」


「うるさい!公務はここに持ってこい。ここで片付ける」


「は?正気ですか?」


「当たり前だ」


完全に…落ちたな。とジャックは思った。

このディエゴが恋に落ちるとは…。

誰が想像しただろうと…。


いやでもファビア嬢なら…わかる気も…。


ファビアの笑顔が思い浮かんでフルフルと打ち消した。


「わかりました。明日の朝手配します」


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