帝都ジュリアード
アクランド男爵領からジュリアードまで馬で1日。
もっとかかると思っていたファビアはその近さに驚く。
そして、その都は、あまりにもガーディアンと違っていた。
一番はその建物の違いだ。
木造建造物というのは全体的に温かみのある街を造るのだとファビアは感じた。
そして民はとても活気に満ちている。
ガーディアンの民も幸せそうではあるが、この国の民は幸せというよりは、活気づいているという言い回しが合っている。
ガーディアンは御上に守られているという安心感から幸せを生んでいるが、この国は自分たちで自分たちの生活を守るのだ、作っていくのだという活力がみなぎっている。
新しい国だからだろう。
市場には人があふれ、街の中央公園では行商達が集い、辻馬車があふれ、屋台やレストランは人がいっぱいで…。
とにかく、人々は活力的に働いている。
そういう町だった。
馬でそのまま街を通り抜けると、少し郊外に自分の祖母から受け継いだ別荘があるのだとディエゴは案内してくれた。
確か前世の王妃教育の記憶ではミルアー帝国現皇帝には何人も皇子皇女がいたはずで、ディエゴはその何番目かの皇子だったが、小さいころに早世した者もいたり、身体が弱いとかいろんな理由で、ディエゴが何につけても能力がすぐれていたので現皇帝が皇太子に据えたのだということだったはずだ。
ディエゴの母君は生まれがあまりよくなかったはずで、皇太子に据える際、反発もたくさん出たと耳にしたことがある。
おばあ様の別荘ということは母方のということだろうけれど…。
さすがにディエゴの母方のおばあさまの血流までは王妃教育で習わないのでさっぱりわからないけれど…。
と思いつつ、その屋敷に着いてみると、こじんまりした小さな町屋敷という感じだった。
おそらく元平民の屋敷。
「お忍びの時はここを使っている。公爵令嬢が使うような屋敷ではないが、許せ」
「いいえ。十分です。ありがとうございます」
前世の最後を塔の上で迎えたファビアにとってはベッドがあって、フカフカの布団で眠れ、そしておいしい食事があるだけで十分だった。
「侍女についてだが…」
「お気になさらず。たいていのことは自分でできます」
ドレスはひとりで着られそうなものを持参している。お風呂も一人で入れるし大丈夫だ。
「ふっ…」
ディエゴが笑った。
「おまえは公爵令嬢とは思えぬな」
「ええ。わたくしの母は産まれは平民でした。ですから、そんなにたいした身分ではありませんわ。自分のことくらい自分でできます」
一瞬ディエゴの眉がピクリと吊り上がり、そしてまたファビアをじっと凝視する。
うっ…
これほんとに…
ファビアはじっと見つめられるたびにたじろがないように必死だった。
「そうか。気にしていないのならいい。明日からずっと俺がつきっきりというわけにはいかないから護衛をつける。なんでもコイツに聞いてくれたらいい」
「ジャックと申します。何なりとお申し付けください」
「ありがとう。いろいろ教えてくださいね」
ファビアはミルアー語で答えた。
ジャックは気を遣ってガーディアン語を使ってくれたけれど、ここではミルアー語を使うつもりだ。
ジャックは、歳はディエゴと同じくらいのシルバーに碧眼のイケメンだった。おそらくディエゴの側近だから、公爵家かどこかの人間だろう。
せっかく来たのだ。
思い切りミルアー帝国の帝都ジュリアードを堪能しようとファビアは思っていた。
この2週間。全部見て回らなきゃ。
忙しくなるわー。




