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ミルアーへ?

「ここにはいつまでいる?」


まさか…。


「あと2週間ほどいるつもりですけれど…」


「俺は明日ここを発つつもりだが一緒に来るか?」


「ほ、本気で言ってるのですか?」


何なのこの人??


「2週間後にはここに送り届けてやる。ミルアーの帝都『ジュリアード』に連れて行ってやるぞ」


ほんとなのだろうか?

信用していいのだろうか?


けれど…

見たい。


そんなに発展した国なのなら。

ぜひ見たい。


「い、行きたいです…が…」


躊躇してしまうのは、やはりこの男が戦争狂だという噂の為かもしれない。

信用できるのかと疑ってしまう。


「ならば決まりだな」


「ま、待ってください!」


また強引だ。


ファビアが焦ると、クククっと肩を震わせて笑った。

この笑い方、前も見たわね。と思っていると、


馬の腹を蹴り、突然駆けだす。


「ちょっ!」


あわててファビアも馬を駆ける。

追い付くのが大変だ。


ファビアがやっと追い付いたら、ディエゴはもう肩を震わせずに『ははははははっ』と大笑いしている。


「な、なにがおかしいのですっ!」


「いや、お前が追い付いてくるとは思わなかったんだよ。びっくりしたんだよ。ここに今いたから」


「そんなの別に驚くほどの事では…」


ファビアは乗馬がうまい。

けれど、ファビアにとっては仲良しになった馬と一緒に走っているだけの話だ。


「それより、一度馬を休ませましょう。のどが渇いたと言ってますわ」


「は?」


しまった…。つい…。


ディエゴが怪訝に眉を寄せている。


「ほらつらそうにしてますでしょう?」


なんとかごまかし、川辺で腰を下ろし、2頭の馬は仲良く川の水を飲んでいる。


どうやら初対面の2頭だが楽しそうに話している。両方牝馬だからだろう。


「おまえは、馬の言葉がわかるのか?」


自分の腕をまくらに川辺に寝転がったディエゴが空を見たままぼそりと言っているがファビアは無視することにした。


「あの。ディエゴ殿下。ジュリアードでは小麦を細くした長い筒状のものを食べると聞いたのですけれど、本当ですか?」


「ああ。パスタのことか?本当だ。あと、そうだな。海産物もこの国にはない、イカやエビ、貝となども食べる。


「まぁ。やはり本に書いていることは本当だったのね…。すごい。早く見てみたいわ」


ファビアの顔が輝いている。


ディエゴは活き活きしたファビアを目の当たりにして、自分の胸の奥に感じたことのないなにか違和感みたいなしこりがあることに気づいた。

なんだ、この感じは…。


それは今まで戦争ばかりしていたディエゴは感じたことのないものだ。



俺は…この女…ファビア・ロンズディールを知りたいと…思っているだけだ。


それだけの話だ。



寝そべりながら考えにふけっているディエゴを尻目に、ファビアは馬2頭のところに寄って行って何やら楽しそうに馬に話しかけている。

馬は馬で楽しそうにファビアに頬を寄せていた。


あの女は、ファビアは馬の思ってることがわかるのか?

そういう能力を持っているのだろうか?


ずっと見ているとファビアのその笑顔に自然と見入ってしまっている自分に気づく。

そして、あわてて否定するのだ。

自分の奥に湧き上がりつつある感情を。



「大変ですわ。ディエゴ殿下!」


と、ファビアが慌てたように駆けてきた。


「雨が来ます」


「は?」


どう見ても穏やかな夏の空だ。

このあと夕立が来るとでもいうのか?


「なぜそう思う?どう見ても夕立など起きそうにない空だぞ」


「えっと…。何て言ったらいいのかわからないけど…来るの。馬が感じてるんです。だから来るわ」


やっぱり…。馬の考えていることがわかるのだ。


「おまえ、馬と会話できるんだな」


「だったらどうなんです?とにかく馬がそう言ってるの。帰りましょう。雷も来るって言ってる」


「……」


驚きだ。

本当に動物と話できる人間がいるとは…。


「わかった。では帰ろう」


自分にとっては馬は何も日頃と変わらない。

けれど、ファビアにはわかるらしい。


不思議な能力だ。


駆け足で屋敷まで戻ると、すでに後ろでは雷の音が鳴り始めていた。


男爵とエリナは戻っていて、2人の帰りを待ちわびていた。


「びっくりしましたわ。ファビア様。使節団の人たちを屋敷に連れ帰ろうとしたらいらっしゃらないから」


エリナは心配そうに待っていた。

心配そうなところ悪いと思いながら、明日からジュリアードに2週間行ってくるというと目を見開いて仰天している。


「そんなの大丈夫なのですかっ!ガーディアンとミルアーは友好関係を結んでいるわけではないのですよ!」


エリナの言うことはもっともだが、ファビアにとってはミルアーの帝都を見たい気持ちのほうが強かった。

それに、ファビアが死のうが生きようがガーディアンにとってファビアは無用のものであることは確かだ。

ファビアが死んだら家族は悲しんでくれるだろうが、しょせんガーディアンにとっては悪女なのだから死んだってかまわないのだ。


「まぁ大丈夫よ。公爵家には知らせないでね」


今頃、ディエゴも男爵に説明しているはずで、取引先の皇太子から言われて断れるはずもなく、だが預かっている令嬢は自国の公爵令嬢となるとどちらをとっても大変な事になることは眼に見えていて、男爵には悪いなと思いつつもそれでもミルアーを見たいという好奇心には勝てなかった。


ごめんなさい。男爵。


ファビアは念のため、男爵は悪くない、悪いのは自分だという手紙を一筆書きしたためておいた。



そして、次の日。

ファビアは馬を一頭借り、アクランド男爵領を出て、前世からは初めて、他国へと足を踏み入れたのだった。

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