アクランド男爵家
今回短めです。
アクランド家の領地はガーディアン王国の最南端に位置し、南側はミルアー帝国との国境になっており、低山山岳地帯が広がり、そこで良質のケヌアの木が植林されている。もともと、この土地に群生していたものを強度を増すように品種改良し、植林を行ったのがアクランド家だ。その品種改良の技術がどうやらアクランド家独自のものらしく、それを開発したのがエリナの父であるアクランド男爵だったというわけだ。
「公爵令嬢様とお友達になったと聞いて、耳を疑ったものですよ。けれど、本当にいらして下さるとは…」
エリナと同じく、平凡な顔立ちの中肉中背のおじ様だ。
「いやあね。ケヌアの品種改良は何もわたしだけの功績じゃあありませんで。わたしの祖父のまたその祖父の代からずっとやってきたことなのですよ。ただただ、強く育ったケヌア同士を掛け合わせただけなのです。それでより強い品種が産まれるのです。ただ長い月日が必要でして、今までかかりましたがなぁ。アクランドの先祖たちも喜んでくれていることでしょうて」
強い品種同士掛け合わせるといっても、ケヌア同士勝手に受粉するのが普通なのだから大きな土地を囲い込んで特定の株同士を受粉させなければならない。とても大変な作業だが信じて事業としてずっと受け継いできたものだろう。これぞ平民のど根性だ。貴族にはない勤勉さと我慢強さが実を結んだのだ。
「ファビア嬢は、他の高位貴族のご令嬢とは全然ちがって、分け隔てがないのだとエリナが申しておりましたが、今お話ししてみてよくわかりました。ガーディアン王国にはあなた様のような方が必要です。そうしないと世界に置いて行かれてしまう。わたしも末端ではありますが、ガーディアンの貴族となることができ、ガーディアンを愛しています。ガーディアンの目を覚まさせていただけるのはあなた様のような方です」
一日中、エリナとともに男爵について回って、植林地を見学させてもらいながら話を聞いていたら、その日の晩餐でこのようなことを言われてしまい、ファビアは面食らった。
「必要だなんてとんでもないことです。わたしはただ興味があって伺っただけのことで…。わたくしなどガーディアンにとっては取るに足らない存在ですわ」
この国を滅亡させたような人間だ。必要な人間なわけあるまい。わたしなどがガーディアンに関わってはならないというのに。
ただ、レイナルド殿下が幸せにガーディアンを発展してくだされば…。
そのために今動いているだけだ。
「そうだわ。男爵。明日はミルアーの使節団がいらっしゃるのでしょう?わたしも傍らにいてかまわなくて?」
今回はミルアー帝国の皇帝陛下直属の部下がいらっしゃるという。
どうやら皇帝陛下の離宮を建造されるのに良質のケヌアを求めておられるらしいのだ。
「はい。それはもう。ミルアーの方々は女性が商談に加わる場合もございます。公爵令嬢様がいらっしゃったら大歓迎なさるにちがいませんよ」
「ありがとう。とても楽しみにしています」
ミルアーのことについて聞けるかもしれないと思うとファビアの心は躍るのだった。




