変わったミルアー帝国
ディエゴ・フェルナンデスとの再会は結局果たせず終わった。
どうやら祖国にとんぼ返りしたようで、あの舞踏会に来ただけだったらしい。
父のジーニアには、ディエゴ殿下に剣術を教えてもらいたいと頼んでみたが、もう明日には帰られるから無理だとはねつけられた。
それにしても前世ではディエゴ殿下なんてガーディアン王国の行事になど顔を出したことがなかったはずなのに…と少し不思議に思ったが何もかも変わってしまっているからディエゴ殿下も何らかの影響で変わっているのかしら?と安易に考えることにした。
「戦争好きの血も涙もない男とのうわさだ。そんな男に関わらないほうがいい」
ジーニアは始終眉根を寄せたままだ。
「だいたい、剣術を教わりたいなど、令嬢の言うこととは思えぬ」
「あら、剣術はこれからの時代必要ですわよ」
実際、ガーディアンは平和ボケが過ぎる。
いざとなれば戦わなければならないということを貴族や近衛兵もわかってるかどうか怪しいものだ。
今のガーディアンは基盤がしっかりしていてディエゴに狙われることはないとはいえ、これから先の事を思うと貴族はもっと防衛策を講じるべきなのだ。
「女性には必要ない。とにかく、デビュタントを迎えた以上、屋敷では領地のように外を駆け回るものではないし、きちんと招かれたパーティやお茶会には厳選して出席しなさい。わかったな」
前世のあまあまお父様はそこにはいなかった。
結構、厳しいことを言ってくれる…。
でもほんとはこれぞお父様なのよね。
あまあまばかりではダメなのよ。
仕方なく、ファビアは厳選して、どうしても必要なものだけに出席するようにした。
早くオフシーズンになって春には領地に戻りたい。
それだけを楽しみに。
そして、エリナと連絡をとることも忘れない。
2人きりのお茶会に招待してみたら、快く来てくれたのだ。
彼女との時間は楽しく、ガナディーに来てよかったと思える時間だった。
彼女はミルアーのことをいろいろ教えてくれる。
あのあともずっとどうやったらディエゴと連絡を取れるかということばかり考えていたファビアはエリナから必死に情報を搾取しようと耳を傾けた。
どうやら、ミルアーはガーディアンで噂になっているより、民と皇族の距離が近く、民は皇族に絶対的信頼を置いているという話だ。
本当に圧政を敷いているわけではないのだろうか。前世ではそう聞いていたけれど…。
「圧政などとんでもありませんわ。第一圧政を敷いておられたらミルアー帝国はあそこまで栄えませんもの」
まぁそれはそのとおりだ。
「とにかく新しいものを全部取り入れられるのです。女性の登用。民との交流。平民の政治参加。戦争をして領地を増やしておられるのは事実ですし、それはディエゴ皇太子殿下のお力ではありますけれど、決して手に入れた国を無下にされているわけではありません。むしろ前よりよくなったと民は喜んでいると聞きました」
実際にミルアーに足を運んだことがあるエリナがここまで言うのだ。やはり本当にいい国なのだろう。
前世とはミルアーも何か変わってきているのだろう。
「行ってみたいわね。ミルアー帝国に」
そんなに民が活き活きしているのなら、見てみたい。実際にこの目で。
「そうですわね。公爵令嬢というご身分上、簡単ではありませんわよね…」
「そうなのよ」
「そうだわ。今度夏にうちの領地にいらしてください。ミルアーとの国境にありますし、ケヌアの木の取り扱い商人が何度も屋敷にやってきますわ。ミルアーの人間ですから、きっとミルアーがどういうところかお聞きになれますわ」
「まあいいの?」
「ええ。ぜひに」
夏に領地に行く約束をとりつけたことでファビアはワクワクが止まらなくなったのだった。




