意外と単純なファビアなのです
黒髪に碧眼。
に恐ろしいほどの美形。
まさに、ディエゴ・フェルナンデスの特徴そのものだわ。
なぜ、気づかなかったのだろう。
ミルアー帝国が今次々と戦争に勝利し領土を拡大しているのは、皇太子であるこの男のおかげなのだ。
今は19歳のはずだ。
恐ろしいほどの美形のくせに戦争にしか興味がなく、戦略的知能に長けていて、血も涙もなく敵国の王を殺し、民を支配する。
それはこれから先も続き、ミルアーは大帝国にのし上がる。
そして、13年後、この平和な国、ガーディアンにも戦火が及び、突然の病に倒れた現国王の後を継いだレイナルド国王と王妃ファビアの退廃的政治により崩壊寸前だったガーディアンはわずか3か月で滅ぼされ、レイナルドは死刑。ファビアは捕らえられ塔の上に幽閉。死刑待ちのところを毒殺される。
ファビアは前世でディエゴに会ったことはなかったが、ずっと…恨んでいた。
この男さえいなければと…何度塔の中で思ったことか…。
その男とこんな形で会うことになるとは…。
「ありがとうございます。ディエゴ殿下であらせられたのですね」
ファビアから笑顔は消えている。
突然の衝撃にとても笑顔を作ることはできなかった。
「そんなことはどうでもいいことだ。おまえの家の馬車はこれで合ってるんだな」
「はい。さようでございます。ありがとうございました」
馬車に入るところまでエスコートをしてくれた。
「俺はもう行く」
ファビアは顔を見る事ができずそのまま頭をずっと下げたままでいた。
ディエゴが去り、御者が扉を閉めてくれるとファビアは眼を閉じた。
不思議と感情は何も湧いてこない。
仇であるディエゴ・フェルナンデスと会ったというのに、悔しさも、恨みも何も…。
なぜ?
もっと恨みたい。
もっと罵りたい。
なのに…。
そこにあるのは…自分への情けなさだけだった。
ああ…そうか。
わたしわかってるんだ。
ディエゴ・フェルナンデスが悪いわけじゃないって。
自分が悪いからだって。
いくら血も涙もない男とはいっても、ガーディアンが今のようにしっかりした基盤のある平和を築いていれば彼が攻める事はなかっただろう。
ガーディアンは資源も豊富で、肥沃な土地も広がっており、気候も安定しているので大陸では大国の部類に入る。
いくら平和ボケしているからといってその国を攻め落とすのは並大抵のことではない。
自分が悪いのだ。
こんなに安定していたガーディアンを不安定な情勢へと導いたのは自分だ。
世の中がまるで自分のために回っているかのごとく思っていた王妃時代。
その中でレイナルドが自分に振り向いてくれないことがどうしても許せず、狂ったように毎日パーティばかりしていた。
自分を戒める重鎮たちをすべて追放した。
すべての国費を使い尽くし財政は破綻しても意に介さなかった。
でもお金は足りないから税金を搾取し民衆を苦しめた。
民衆から王家への不満が募り、ミルアーが新興貴族を使って民衆を結集させ暴動が勃発した。
そこからはもう落ちていくばかりだ。
最終的に財力も兵力もなくなってボロボロの王家は、ミルアー軍に攻められ、わずか3か月しか持たなかった。
ミルアーが攻めたのは当たり前だ。
こんな国。すぐに潰せるもの。
悪いのは全部…わたし。
わたしがレイナルド殿下と結婚しなければいい。
レイナルド殿下がふさわしい王妃と結婚さえすればこの国はミルアーに狙われないはず。
待って…。
ファビアの頭にピンとひらめくものがあった。
ディエゴ・フェルナンデスにこの国を攻めても無駄だと思わせればいいのよね。
この国はしっかりしてるから攻めても無駄だと思わせる。
ディエゴは勝つ見込みのない戦はしないので有名だ。だからここは無理だと思わせればいいのよ。
そのためには…
仲良くなって、この国を知ってもらう。
で、攻められないように監視する。
それしかないわ!
意外と単純なファビアである。
幸い、顔は覚えられただろうし。
この国にいる間にもう一度会えないかしら。
で、国に帰られた後も、文通とかできれば言うことないのだけれど‥。
でも待って。かなり女性嫌いっぽかったわよね。
ってことは女っぽく近づいてもダメだから…。
あ、そうだ。いい手があるわ。
お父様に頼んでみよう。




