エリナ・アクランドと友達になる
「エリナ嬢はかの有名な木材事業のアクランド家よね?」
「え?ご存じなのですか?」
貴族令嬢で家門の事業内容について語る女性は少ない。
ガーディアン王国では貴族女性は男性についていくものだと教えられ、男性の仕事や趣味に口出しすることははしたないとされている。
エリナはアクランド家に自分以外の子どもがおらず、将来のために父からいろいろ教育されていたので事業内容に詳しいが、他の令嬢にはそういう話をしたことはなかった。
「ええ。ミルアー帝国への輸出で一財産築いたと聞いているわ」
「そうです。ミルアーでは木材を使って建築物を建てることが主流化していて、ガーディアンで採れるケヌアの木がとても良質で建築に適しているんです。父がミルアーへ出向いてケヌアの良さをアピールしたのが実ったのだと思います。ミルアーでは重宝していただいておりますわ」
「エリナ嬢はミルアー帝国へ出向いたことがあって?」
「はい。父について何度か」
「ミルアー帝国では新しい考え方が主流になってきているのでしょう?女性の方も職を持っている方が多いと聞くわ」
「そうですね。帝国の宮殿省庁職員の中にも女性の方はたくさんいらっしゃいます。女性でも能力のある方はどんどん力を発揮できる国ではありますわ。ただ、新しい国ですから、治安はまだよくありません。ガーディアン王国のように男性がしっかりしている国は平和ですから」
この王宮でミルアーばかりを持ち上げるのがよくないことくらいわかっているエリナは最後にちゃんとガーディアンをほめることを忘れない。
「そうなのね」
ファビアは考え込むようにデザートを口に運んでいる。
ミルアーに興味がおありなのかしら。
「ねぇ。エリナ嬢。今度また…」
ファビアが何か言いかけた時だ。かなり向こうから大慌てで小走りにやってくる男性が見えた。
ファビアとそっくりの美男なので、父親なのだとすぐにわかる。
「ファビア!何をしているのだ」
少しあわてているようだ。
「何をってお父様。デザートを食べているのですわよ」
「勝手にダンスホールを抜け出してはならない。今日はさすがにおまえのわがままには付き合えない。挨拶がまだ終わっていないのだぞ」
ジーニアがファビアと一緒にいたエリナを振り向いた。
「ファビアのお友達かい?悪いが、ファビアを連れていくよ」
エリナはやはり高位貴族とは思えない、ファビアの父公爵の自分への思いやりのある声掛けを聞いて、親子なのだなと考えを新たにした。
ガーディアン王国にも平民のなりあがりをバカにしない高位貴族もいるのだと。
「わたくしは、公爵令嬢様にお助けいただいた者です。もう大丈夫ですのでどうぞお気になさらずに」
「あら、エリナ嬢。また会うことになるわよ」
ファビアはにっこりと最強のキラースマイルをエリナに向けて、そのままジーニアに手を引かれテーブルを後にしたのを見て、エリナは完全に自分はファビアに落ちたなと思った。
第一美しすぎるし、あんなに飾り気のない令嬢。今までいなかった。
とても好きになってしまった。
テーブルに取り残されたエリナはしばらくそこに座ったまま残りのデザートを味わっていたのだった。