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たらこのエッセイ集

顔 ~顔の見えない登場人物についての考察~

 皆さんは、「顔」についてどうお考えだろうか?


 なんて聞かれても意味が分からないだろう。

 心臓や肝臓についてどう思うかと聞かれても返答に困る。


 聞きたいのは見た目についてではなく、「顔」という器官についてどのように認識しているか……だ。


 そう聞かれると、どう答えればいいか分からなくなると思う。

 私もこんなこと聞いておいて、自分でどう答えればいいのか分からない。




 人は顔を見ることで、他者を見分けているらしい。


 人の脳には無数の顔のパターンが記憶されており、その記憶と目の前の顔とを結合させた後で、名前が検索されるとか。

 また、脳の一部が損傷すると顔が見分けられなくなり、よく見知った人物の顔を見ても誰なのか分からなくなることもある……らしい。


 ちょっと調べただけでも、興味深い情報がいくつも出て来た。

 しかし、今回語りたいのは顔をどう認識するかではない。


 そもそも顔が見えないと人はどういう心理状態に置かれるのか。

 そのことについて考察したい。


 もし、フルェイスのヘルメットをかぶった人がコンビニに入ったらどうなるか。

 実際にやらかしそうなことではあるが、もしやったら問題になる。

 間違いなく注意されるし、下手したら通報されて大騒ぎになるかもしれない。強盗が入って来たと勘違いする人もいるだろう。


 だが……仮にもし、注意されなかったとして、当たり前にその人物がヘルメットで顔を隠したまま、普通に会計待ちの列に並んでいたらどう思うか。

 たとえ強盗でなかったとしても、やっぱり怖いのではないだろうか?


 それは多分、仮面でも同じなのではないかと思う。

 何かで顔を隠している人は周囲を不安にさせる。


 通勤電車に一人だけ仮面をしたサラリーマン風の男がいたら、やっぱりちょっと怖いと思う。それがガスマスクや、能面や全身タイツでも同じ。やっぱり顔が見えない人は怖い。


 人は顔を見て他人を見分けているので、その情報がシャットアウトされると、得体のしれない生き物に思えるのだろう。


 創作の世界では、あえて人の顔を認識させないことで、ユーザーの不安をあおる作品がしばしば見受けられる。

 代表例としては、映画「激突!」があげられる。


 この映画は追い越したトレーラーの運転手から追跡される主人公の恐怖を描いた映画で、煽り運転を繰り返す運転手の姿は最後まで映し出されない。

 あえて正体を明かさないことで、作品を見た者はより強い恐怖を運転手に感じるのだ。


 顔を見せずに不安をあおるのは、何もパニック映画だけではない。


 私が昔読んだ絵本で、迷子になった妹を幼い姉が団地の中を探して回る話があった。姉は必死になって妹を探すのだが、なかなか見つからずに不安が募っていく。

 その途中で、一人の男性が女の子の手を引いて歩いているところに出くわす。

 男は読み手が不安になるような言葉を女の子に投げかけていた。


 そのシーンを読んでいた私はとても不安になった。

 男の顔が描かれていなかったからだ。


 絵本は幼い姉の視点で描かれており、男は首から上が見切れていて描かれていない。顔が見えない男が迷子の妹と同じくらいの女の子を連れている。

 それだけで言い知れぬ不安を感じてしまう。


 そのシーンでは特に何か起こるわけでもなく、姉は別の場所へと移動し、無事に妹と再会する。

 めでたし、めでたしで終わった物語だが、やはり不安は残った。あの顔の見えない男の正体と、彼に手を引かれた女の子がどうなったのか、気になって仕方がない。


 その絵本を書いた方は、あえて男性の顔を書かなかったと話していた。

 別に恐怖を煽る意図はなかったそうだが、その演出のおかげで印象深い作品になったのだと思う。事実、私はタイトルは思い出せなくても、そのシーンだけは今でも覚えている。


 人は顔の見えない相手に不安を感じる。

 あえて顔を見せずに恐怖を煽るのも、創作では一つの手段になると思う。


 だがそれは、あくまで視覚的情報による手段。

 小説では難しい……と、思えるが、割と簡単かもしれない。


 顔の描写をしなければいいだけなのだ。


 他のキャラに関しては、きちんとキャラクターの容姿を地の文で説明して、特定の人物だけあえて顔に関する描写を省けばいい。

 そうすれば、顔のない登場人物の出来上がりである。


 といっても、そんなことをメインキャラクターでやったら読者は困るだろう。微妙な準レギュラーや重要モブなら別だが……。


 しかし一人だけ……顔を書かなくても許される登場人物がいる。

 それが主人公だ。


 一人称視点の物語であれば、「顔」に関する書く必要はない。鏡などを見て確認しない限り、読者にその情報を示す機会はないだろう。

 あえて読者に主人公の「顔」を認識させず、ストーリーを進めるのもありだ。

 それが意外なオチに繋がったら……なんて考たら、それだけでワクワクしてしまう。


 ふと……このエッセイを書いていて思ったのは、私自身が主人公の顔を書くのが苦手……ということだ。顔について言及するのがとても面倒に感じる。

 なので、顔を書かなくてもいい主人公にしてしまう場合が多い。

 エタらせてしまった未発表の主人公は常に顔を包帯で隠していた。なろうで連載している作品はそもそもスケルトンなので顔について言及する必要がない。


 それ以外のキャラクターの顔を書くのはなんとも思わないのだが、どうしても主人公の顔だけは言及しにくい。

 その理由は自分でもよく分からない。


 顔。

 それは他者を認識する際に最も重要な情報源となる。


 それが上っ面の情報であることを全ての人が知りつつも、我々は顔の形、あるいは顔による感情表現を重要視する。


 もしその情報がシャットアウトされたとき、人は顔の見えない人物についてどう思うのだろうか?

 そんなことを考えながら小説を書いてみたら面白いかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 顔がない、というのは表情から思考が読み取れない、そのことに対する恐怖、っていうのはあるのかも。 日本人は目で表情を作るから、サングラスは嫌うけれど、マスクにこだわりは無い。 欧米人は口で表情…
[一言] ミステリー(ホラー?)を書いてる私としては、あえて顔を出さない表現‥‥うまく使いこなしたい。 私も主人公は顔の描写‥‥と言うか、登場人物の容姿の描写も含めて、大まかな髪型とか雰囲気(“活発…
[一言] すんげーどうでもいい感想ですけど。 それだと名探偵コ●ンの全身黒タイツ犯人はどうなるんだろう? とか考えてしまった。
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