06
いつも気難しそうに眉間にしわを寄せているジェームズさんに、最初に抱えていた苦手意識は少しずつ薄まっていくのを感じた。最初こそただただ気難しくて神経質な人なのだと思っていたのだけど、それだけの人じゃないことがわかったからだ。
いつものように倒れこむまで治療をして次の日朝食を摂っていると、訪ねてきたジェームズが言った。
「今日からは倒れるまで治療する必要はありません」
「.....え?」
「倒れる前に休んでください」
まさかそんなことを言われるとは思っていなかったので、言葉が詰まった。
「毎日倒れるまで仕事をしているなど......この城でも貴方くらいのものです」
呆れたように言われたものの、その表情にはどこか柔らかさがあったので、不快に感じることはなかった。それどころか苦手意識がやんわり薄らいだ。
ここに来て体を気遣ってくれたのはセフィ以外には初めてだった。
「熱心に治療を施してくださるのはありがたいのですが、あなたが倒れては元も子もありません」
その言葉には首を傾げた。というのも、私だって好きで倒れるまで治療していたわけじゃないからだ。
正義感と己に与えられた使命感によって自分の体も顧みずに仕事をしていたと言えればかっこいいのかもしれないけど、私は生憎自分の命を削るような真似をしてまで働きたいとは思えない。
そこのところを大きく勘違いしている様子なので、言い辛いがそれを訂正するために口を開いた。
「あの、」
「はい?」
「別に私が熱心だからじゃないですよ.....」
存外表情豊からしいジェームズさんが微かに首を傾げた。
こういうことになっている経緯を話せば、固いと思っていた表情が少しずつ崩れていく。
「休日がなかったのですか?!」
「はい、休みは今のところないです」
今まで一度だって休むことがなかったので頷くと、とっつきづらい印象の顔が完全に崩れた。目は見開いて口もぽかんと開いている。この人でもこういう顔をするのか。そんな感想と共に、おかしくて笑いそうになった。
徐々に意識が戻ったらしいジェームズさんは今度は眉をぐっと寄せ、不機嫌な表情をしている。結構感情表現が豊かな人らしい。
「倒れるまで酷使し、休みもないなど...」
ぶつぶつと何事かを呟きながら眼鏡をくいっと中指で押し上げている。
どうやらこれまでの待遇について同情してくれているようだということはわかったので、単純に嬉しかった。
そして、この新しい私の担当となったこの人への苦手意識はだいぶ薄れていた。