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聖女ではなく奴隷  作者: 雨花
城下の聖女
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光の乙女教団

「今回の犯人に関してだが、おそらくは教団が関係してるだろう」

「前から警戒してきた光の乙女教団ですね」



 アランの言葉に隊長であるタイラスは重々しく頷いた。

 今回の聖女襲撃事件に関しては、騎士団の中でも最優先して解決すべきこととして動いていることもあり、アランが目覚めた時にはもう今回の首謀の目星はついているようだった。

捉えた今回の犯人二人に関しては、重要参考人として毎日聴取を行っているのだが、思うように口を開かないらしい。

 教団の思想に染まっているからこそ口が堅い。だからこそ秘密を守るために自死する可能性もあるので普段は身動きできないように椅子に縛り、猿轡をかましているそうだがいつまでもその状態というわけにもいかない。と、タイラスがぼやいた。

 アランが意識を失っていた間にわかったことに関して話を聞きながらも、あの男達から話を聞き出す場面に参加できなかったことを少し惜しく思う。何故こんなことをしたのか、自ら問い詰めてやりたかった。


 だが、悪手であろうと、あの場合にはあれが最善だったとアランは今も思っている。

 聖女であるコトネを守るということが、護衛騎士としてアランが最優先して行うべきことだったからだ。

 ご丁寧に毒まで塗られていた矢に関しては「とりあえず動けなくするため」と、男は語っているそうだ。

今回はアランが矢を受けることになったが、男たちにしてみればその相手は別にコトネでも構わなかったらしい。あの場に居た者をとりあえず矢で動けなくするというのが計画だったらしく、あまりにも杜撰なものに驚かされた。

 あの毒に犯されてしまえば、まず抵抗などできないことをアランは身をもって知っている。だからこそ、矢に射られたのが自分でよかったと改めて思った。だが、同時に一つの疑問が浮かんだ。


「あの教団は聖女を象徴としたいんですよね? それなのに何故その聖女を傷つけていいと考えるのか……」


 件の教団を調べた結果、その名前からも想像できるように聖女を象徴としているものだったはずだ。

 黒煙病が時折流行るのは神がこの地上に住む人間に罰を与えているからで、聖女はその罰に抗うために人に与えられたただ一つの手段―――神の御慈悲なのだと。

すべてが神の掌の上で行われていることだという考えだったはず。

 アランからしてみれば馬鹿馬鹿しいとしか思えない教えを説いていた。


 そんな考えを持ちながら聖女を傷つけるというのが矛盾しているように思えた。



「それは俺も思った。普通大事にしそうなものだろうってな。で、聞いてみたんだ。お前らにとって聖女は大切なものじゃないのかって。そんじゃあ治療で金を稼いでいる聖女は魂が堕ちてしまってるらしい」

「……はぁ?なんですかそれ」



 瞬間的に怒りが沸いたのは、そのお金を稼げるようになる迄をずっと後ろから見てきたからだ。


「彼女は別に私利私欲を満たすために金を稼いでいるわけじゃなく、正当な対価としてもらっているだけにすぎない。それもお金のない庶民には無料で治療を施してるのに何も知らない外野が知った風に……」


 思わず悪態をついてしまったアランを、タイラスが驚いたように目を瞠っている。

つい熱くなってしまったことが恥ずかしく、咳ばらいを一つするとタイラスが口角を意地悪く吊り上げた。


「ずいぶん聖女様贔屓になってるじゃないか」


 にやにやと笑っている上司にバツが悪くなってアランは黙った。なんせ彼は、アランが聖女の護衛という仕事を任命されたときに乗り気じゃなかったことを知っている。そしてその理由についても凡そ見当がついているだろう。

 そもそもアランは聖女の存在を信じていなかった。当たり前のように語られているおとぎ話ような話を小さな頃は信じていた。寝物語の一つとしてこの国の子供たちは聞かされているのだ。だが、次第に現れない聖女に存在を疑った。弟のエドが黒煙病になった時には都合よく聖女の存在に縋ろうとしたが。

 そしてついに現れた聖女には“本当に黒煙病を治せるのか?”と疑問を抱いた。今思えばただの八つ当たりでしかないのだが、エドを失っていたこともあり、どうにも半信半疑だったのだ。


 だが今では護衛という立場で聖女であるコトネを一番近くで見てきた。

黒煙病に犯され、生死を彷徨っていた子供が何もなかったかのように元気になる姿を何度も見たのだ。その奇跡のような力は疑いようもない。

だがその力は奇跡と一言で片づけるべきものではないと、コトネがカイルを助けるために力を使い、辛そうにしているのを見て初めて知ったのだ。


 だというのに、金を稼げば魂が堕ちたという言い草。

 彼らの偶像からはみ出る行いをすればすぐさまそれを悪だと断言する傲慢さ。

型にはまっているものでないと認められない。

そしてその型は彼らの都合のいいようにできている。


 聖女の名前はコトネと言い、理知的な瞳をしているが、時折子供のようにはしゃいだりもする。

残念ながらアランの前では素を出してくれないが、リリーの前では随分とくつろいだ様子で大きく口を開けて笑っている姿を見かける。

普通の女性のように見えるが行動的で、聖女の常識を破って城から出たと思えば今では立派な治療所を作り上げてしまった。

治療にお金をとることもあるが、それを私利私欲を満たすために使っているわけではない。この治療所を運営するための資金として、そして新しく始める事業の資金として使っている。

彼女が来てからこの国は間違いなく良い方向へ進んでいるのは間違いない。


 それらすべてはきっと教団側にとってはどうでもいいことのだろう。

おとぎ話の聖女のように慈悲深く微笑み、この困難な状況を優しく正しい方向へと導いてくれる。言ってしまえば聖女然としたもの以外は不要なのだ。


 だが、アランもこうして実際にコトネと関らなければ同じように思っていただろう。いや、それよりも質が悪いことに未だに逆恨みをしていた可能性が高い。

もっと早く来ていれば、エドは助かったのに、と。

 だが今ではそれが間違っていたと、己の愚かさを後悔している。

 コトネはこの世界に突然召喚されたのであって、そこに彼女自身の意思はない。それでも懸命にその力を使ってくれているのだ。

 召喚したのはレイノルフだ。唯一の存在である聖女を召喚できる力を持つこの国の王太子。

そのレイノルフにも事情があり、すぐに召喚することが出来なかったのだと何となく今は察している。


 誰かが悪いわけではないのだ、と自分の中で答えを出せたことがアランにとっては大きな一歩だった。





 結局持ち帰れる情報というのはあまりなかった。

 ただ教団が黒幕であることは殆ど確定しているので、そのことに関しては話すことが出来そうだ。だが、その教団に今回の責任をとらせることが出来るのかというとそれは難しいだろう。

男たちは自分たちが教団の者であることを認めないだろうし、仮に認めたとしても今度は教団が知らぬ存ぜぬを通すことになるだろう、というのがタイラスの見解だ。それにはアランも同意した。

謂わばトカゲの尻尾切りだ。

 この結果を伝え、当事者であるコトネはそのことに怒りや恐怖を覚えるかもしれないが、きっと知りたいだろうと思い、この結果は今のところ伝えることになっている。



 リハビリを兼ねて徒歩で城から帰ると、診療所の前に置いてある簡易的に作った椅子に座ったカイルの後姿が見えた。その隣にはラルフが立っている。珍しい組み合わせだ。あの二人はあまり仲が良くなかったように思う。

近づくと「はーあ」と大きなラルフのため息が聞こえた。


「コトネ遅いな」

「まだそんなに待ってないだろ。嫌なら帰れば」

「コトネに話があるから無理だ」

「大した話じゃないくせに」


 カイルの冷たい返答が聞こえているのかいないのか、ラルフは先ほどのように大きなため息をついている。その様子に思わず笑いが零れた。コトネに治療を受けて以来、何かと理由をつけてラルフはここにやってくるようになった。


「斡旋所なんかに行かなくても護衛くらい俺が紹介したのに」

「……護衛?」


 思わずラルフの言葉をなぞるように声を発すると、ハッとした様子でこちらを見た二人の顔色がみるみるうちに悪くなった。

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