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聖女ではなく奴隷  作者: 雨花
城下の聖女
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次のステップ

 王位継承の争いの火種として、駒のように扱われるのには正直納得いかない。

 だが、わたしが話したフィンさんは、本当に聖女を利用して王位継承権を手に入れようと企むような人なのか。

まるでそれで確定しているように話す宰相補佐の言葉を全て信じるつもりはないが、それでもその話は胸にとどめておくことにした。


 その上で西の辺境の子供たち……いや、王都以外の子供たちにも治療を行うべきだと考えて、これからの治療計画を立ててほしいと話した。

 こんなときばかり都合よく王家を利用しているかもしれないが、この国の人のことなのだから手伝ってもらったっていいだろう。

何せわたしには他の地域の状況を把握するための手段がない。

それらの手段を模索している時間があるのなら、パイプも手段も揃っている王家を頼ったほうが早い。

 それに関してはレイノルフは快く引き受けてくれた。

王都が一番深刻な事態であることは変わりがなく、他の地域に関してはやはりもう少し王都の事態が収束してからになるだろう、とは言っていたものの、とりあえずフィンさんとの約束を果たせたことにホッとした。



***



 話すべきことは話し終わり、なんとなく解散の流れになった。

 わたし達も忙しいけれど、レイノルフ達ももちろん忙しいだろう。

何より雑談をするにしても、レイノルフと何を話せばいいのか思いつかない。それは向こうも同じだろう。

なんとなくではなく、この流れは自然だと言える。



「少しいいだろうか」

「はい?」



 ジェームズさんや宰相補佐、騎士の人が外へと出ていくのを見送るために扉の前に立っていると、レイノルフに声をかけられた。

 何故か目の前で立ち止まっているので何事かと訝しく思っていたので、声にそのまま不審げなものが出てしまった。

 見送るために並んで立っていたリリーは、察したように先に扉から外へと出たので、部屋には必然的にレイノルフと二人になった。

扉は開いているものの、一体なんだ? と警戒してしまう。



「……こうしてまた訪ねてきてもいいだろうか」

「え?」

「……フィンには王家と繋がりがあると思わせていたほうがいい。こちらの都合に付き合わせることになり申し訳ないが」

「……いえ、そのほうがいいかもしれないですね」



 わたしだって、王位継承を賭けた争いの原因に臨んでなりたいわけがない。

むしろ無関係なところに居たい、というのが本心だ。

 だけど聖女であればそこから逃れることができないというのであれば、できるだけ争いの火種にならないように振舞うべきだと思う。


 例えば、わたしがフィンさんの方についたとして、王位継承権をレイノルフが譲るということはないだろう。

 そうすればどうなるか。

内戦なんかが起きたら、その責任の一端はわたしにあるということになる。

 そしてさっきの話から考えれば、わたしは王妃に担ぎ上げられる可能性が高い。

 それなら現状を維持するためにも、王家とのつながりがあると思われていたほうがマシだ。

少なくとも、レイノルフがわたしを王妃に望んでいるとは今までの振る舞いからも考えられない。


 内戦が起きる可能性も低く、王妃になる可能性もない。

 それを考えれば、聖女として召喚されてからの冷遇については、一時的に忘れてあげることだってできる。



「忙しいかもしれないのでお相手できないかもしれませんが」


 今日のように話し合いのために訪ねてきたのではなく、ただただフィンさんに縁が切れていないことをアピールするためなら時間がないことを先に告げておく。

後から、王太子であるレイノルフを招いておいてもてなさなかった、と怒られることがないよう。


「ああ、わかっている。邪魔はしない」


 了承も得られたことなので、改めて頷いてこの約束を承諾した。

 それでもまだ移動しないレイノルフを訝しく思いながら見つめる。



「昨日のように手紙をあの箱に入れてくれ。事前に尋ねる前に都合を聞く」

「わかりました」



 これからのことを考えると忙しくなることはわかるが、それよりもようやく次のステップに進めることに改めて嬉しく思った。

 元の世界に帰るためにできることは、今のところ黒煙病に罹っている子供たちを治療することだ。

今までも王都の子供たちを治療していたとはいえ、ようやく違う地域のことにも目を向けることができるところまで来たのだと思うと、不安があるものの喜びの方が勝る。

 意図せず声は張り切っているように大きく響いた。

 ようやく話も終わっただろうと思ったのだが、依然としてレイノルフは立ったままだ。

扉の方へ誘導するように移動したが、促されることもなくそこに居る。

 なんなんだ……。何か声をかけるよりも先にレイノルフが視線をこちらに向けた。

ペリドットにそっくりな瞳と目が合った。



「急に訪ねて悪かった」

「……いえ」



 まさかそんなことで謝られるとは思っていたので、びっくりして言葉に詰まった。

 きっと驚いた顔をしていたのだろう。レイノルフはわたしの反応に居心地が悪そうに視線を反らした。



「……お茶もうまかった」

「え? あ、いえ……」



 ――なんだこの雰囲気。

 居心地が悪そうなレイノルフの気持ちがうつったみたいに、わたしも足がむずむずしてしまい、靴の中で意味もなく指を動かしてみる。

 わたしが知っているレイノルフは、あまり感情を出さない。

クールと言えば聞こえはいいけど、あまりにも感情が読めないので、そこがとても苦手だった。

 そのレイノルフの感情が少し読み取れる。

 そうして伏し目がちでいると、ぼんやりフィンさんに似ていると感じた。

フィンさんの柔らかな雰囲気はレイノルフにはないものの、どこか似ている。

 ――フィンさんのことも呼び捨てだったし、もしかしたら仲がよかったのだろうか。

 ふと沸いた疑問は口にすることなく、そのまま胸の中に置いておいた。



「それではまた」

「はい」



 最後に馬車へと乗り込んだジェームズさんの言葉に軽く笑いながら答えた。

せっかく来てもらったのに、結局ジェームズさんとは話すことも出来なかった。

 馬車に乗った王太子御一行を見送り、思わず大きく息を吐きだした。


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