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「なに、聖女様はご存じないかもしれんが、アラン一人でこの王宮を守っているわけではないですよ」
暗くなってしまった雰囲気に居心地の悪さを覚えていた時、唐突に割り込んできた大きな声にそちらを見てみれば、おどけた様子で笑う隊長が居た。
「失礼、私はタイラス・オルティスと申します。アランの上官です。タイラスとお呼びください、聖女様」
「…それじゃあタイラスさん。私のことは琴音と呼んでください」
親しみやすい雰囲気にこちらも自然と口元に笑みが浮かんだ。それに先ほどのアランさんとのやり取りを見ていても良い人な感じがしていたので、勝手に親近感を覚えていた。
同じように言葉を返せば、人懐こい笑みが返って来る。
「それは恐れ多い。が、聖女様直々にそう言っていただいたのですから、お言葉に甘えさせていただきましょう」
わざと大仰に振舞うように恭しく右腕を胸の前に持ってきたタイラスさんに、周りの騎士たちがおかしなものでも見るような視線を向けている。アランさんは一人だけ笑いをこらえきれないような顔をしている。
「こう見えても私も結構腕が立つほうなんですよ。ここに居るのはアランに負けず劣らず実力のある者たちです。アランがおらずとも何てことないんですよ」
「それもどうなんすか」
半目のアランさんのツッコミをタイラスさんは気にした様子もない。
ここに居るのは、と手で示された幾人かの騎士達は胸を張るように背筋を伸ばしている。
「アランはきっと役に立ちますので、コトネ殿について行かせてやってください」
「そんな、アランさんにはこの間も助けて頂いたのでとても心強いです…」
「アラン! 聖女様の期待を裏切ることのないように」
「はい」
どうやら私とレイノルフの間の嫌な雰囲気を払拭するため気を使わせてしまったらしいことに気づかないわけもなく…それはレイノルフも同じだったようだ。口を挟むこともなく成り行きをただ見ている。
「それでは話はこれで終わりとしよう」
解散を告げるレイノルフに頭を下げ部屋を辞する際、タイラスさんにもお礼を言った。
そして、迷惑をかけているという負い目も吹っ切ることにした。今まで迷惑をかけられたのだからちょっとくらい迷惑をかけても構わないはず、と。もちろん、こちらの言い分をかなえてくれることには感謝しつつ。