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いつものように体が重く、うだうだしながらベッドの中にいるとセフィに「今日は殿下とお約束があったんじゃ?」と言われ、急いで起き上がった。
身支度を素早く済ませて朝食も素早く...とはいかなかった。あまり食欲がないところに詰め込むのでどうしたって時間がかかってしまう。
「そろそろ伺わないと」
「えっ! もう?!」
慌てて食べかけでフォークに刺さっていたままのレタスに似た葉っぱを口の中に詰めこみ、水で胃へと流し込む。
***
「おはよう」
「おはようございます」
レイノルフはほとんど表情が変化しないというのにいつも通り、何故か爽やかな印象を受けた。 王太子の執務室なので流石というべきか、中はとても広く、調度品は品が良いもので揃えられている。きっと価値があるものばかりなのだろう。
素人目にはよくわからないが。
腰かけるよう勧められ、テーブルを間に挟んで向かい合うように設置されているソファへと座った。
「体の調子は?」
「...え? あ、大丈夫です」
「まだ痛みが残っていると聞いている」
「はい、けど大したことはないです」
セフィかジェームズさんから話を聞いているんだろう。
昨日お風呂に入るときには赤紫色に皮膚の色は変化していたものの、見かけほどの痛みは感じていない。傷口があるわけでもないので、思っていたよりも軽い怪我でよかったと思ったくらいだ。
何より、あのまま助けてもらえなかったら…と、考えると怖すぎる。
それよりもレイノルフが怪我の具合を聞いてくるとは思わなかったので、少々面食らってしまった。
「君は………いや、医者に診てもらってくれ」
何かを言いかけてやめた様子に気にはなったが、それ以上食い下がるほどものでもなかったので彼同様に口を閉じた。
「早速だが、今日君に時間を取ってもらったことについて話したい」
「はい」
「この間のことを考え、君には護衛をつけることにした」
「えっ、」
驚きの声を上げた私を一瞥し、するりと視線が流れる。それを追いかける形で横に視線を向ければ、先ほどから気になっていた存在――見覚えのある青年と目が合った。
少し口元を緩めた彼は、この間私を助けてくれた騎士だ。
「一度顔を合わせたと思う」
「はい、あの時助けてもらいました...。今更ですが、ありがとうございました」
あれから会うことはなかったのでお礼さえ言えてなかった。次に会ったときにはお礼を言わなくてはいけないと思っていたので、ようやく言えてホッとした。
お礼にはにこりと柔和な笑みで応えてくれた。
「アラン・フラゴメーニと申します。これから聖女様の護衛の任に就くこととなりました。よろしくおねがいいたします」
騎士らしくすっと伸びた背筋を曲げ、丁寧に頭を下げられる。