イケメン冒険者は百合の花がお好き
私の名前はレイ・スウォルト。
今は『グレタス』の町で冒険者をやっている。
冒険者としてのランクは『A』――『F』ランクが一番下で、『S』ランクが一番上だ。
つまり、単純な冒険者としての評価は上から数えて二番手になるのだが……私がこの位置に甘んじているのには理由がある。
本来ならば、誰しもがSランクという位置を目指して頑張るのだろうが、Sランクの冒険者になると、世界各地で起こる『災害指定』と呼ばれるレベルの事件に関わらなければならなくなる。
命が惜しいのか、と聞かれれば――別にそんなことはない。
ただ、そうなると……私の今のパーティメンバーにも危険が及ぶ可能性がある。
もとい、パーティを組めなくなる可能性があるのだ。……それは、私が困る。
「もうっ、お姉ちゃんはどうしていつも寝癖のまま出てくるのよ!」
「んー、エルネが直してくれるから」
「部屋で直すから一人で出ないでくれる!? もう……っ」
「だって、エルネは着替えるのが遅いから」
「お、女の子にはいろいろと準備があるの! お姉ちゃんが早いんだからっ」
「それくらい普通」
私の前では、そんな光景が繰り広げられていた。
姉のアイナと、妹のエルネ。
双子でありながら、似ても似つかぬ性格である二人は、容姿はそっくりであった。
まだBランクとCランクの冒険者であるが、いずれも将来は有望だと言える。
冒険者としても――そして、
(尊い……)
『姉妹百合』としても。
そう、私の趣味は『百合』。いわゆる、女の子同士が「きゃっきゃうふふ」なことをしたり、恋愛関係になったりすることが趣味なのである。
正直に言えば、冒険者になるつもりもなかったのだが、元々剣士としての才能もあったことと、私の容姿が周囲から評価されたことも理由にあった。巷では、私は女性であるにも拘わらず『イケメン』と呼ばれているらしい。その評価はどうなのだろうと思うが、そのおかげで――パーティメンバーを選びたい放題だったのだ。
今でも色んな人からパーティに誘われるが、私が目を付けたのはこの双子。
仲良く二人でしかパーティを組まないというタイプであったが、私が必死に冒険者として名を挙げて努力してきた甲斐もあってか、すんなりとパーティを組むことができた。
こうして、目の前で姉妹百合を楽しむ権利をゲットしたのだ……やったぜ。
「レイ、今日はどの依頼を受けるの?」
「尊い」
「え?」
「はっ、いや……すまない。今日は、そうだな……」
依頼の貼ってある掲示板を見るふりをして、双子姉妹の百合百合しい行為を見ていたから、依頼のことを何も考えていなかった。
今日は一応、仕事をしにやってきたのだ。
いや、『一応』とか言うと色んな人に怒られるかもしれないけれど。
「レイ、今日は森の方に行きたい」
ぐいっと、アイナが私の手を引いて言う。
普段はやる気のない表情……というか、いつもやる気のない表情をしているアイナだが、上目遣いでそんなことを言われると、とても断りづらい。
だが、私が気にするのはアイナの行動を見たエルネの表情。
少し怒ったような表情を見せながら、私のもう片方の腕を引く。
「今日は森じゃなくて、海の方に行きましょ! 森ならもう連日言ってるんだし」
「森の方がいい。もっと奥に行きたい」
「海! 絶対海よ!」
私の腕を引っ張り合いながら喧嘩をする二人。
姉妹の喧嘩百合……尊い――ではなく、私はハッとした表情をして今の状況に危機感を覚える。
姉のアイナが私に近づいたのを見て、エルネが嫉妬してしまっているのだ。
二人の『姉妹百合』はそれで完成しているのだから、確かに私という存在が間に入るなどあってはならない。
何故なら、私は『見る専』だから。
「そんなことで喧嘩しなくても大丈夫。今日は両方行こう」
「いいの?」
「え、でも……海と森では方角が反対よ?」
「海辺に沿って行けば、別の森に出られるからね。そちらの依頼も受ければいいさ。それでどうかな?」
「まあ、レイがそう言うなら……それでいいけど」
「わたしも」
「じゃあ決まりだ」
ふふっ、素直な二人はとても可愛らしい。
私の言うことは素直に聞いてくれるので、正直助かっている。
何故か、たまに私がいくら言っても話を聞いてくれないこともあるが……そこは人として譲れないものがあるのだろう。
今日も双子百合を目の前で堪能しながら、私は冒険者として程ほどに活躍するつもりだ。
***
「いい、お姉ちゃん。今日はあたしがレイの前で活躍するところ見せるんだから」
「いや。今日もわたしが活躍して褒めてもらう」
「絶対あたし!」
「わたし!」
――双子の二人が、レイのことを陰で取り合っているということは、本人は全く気付いていないのであった。
見るのが好きなのに、実は双子姉妹から愛されているという百合を短編にしてみました。