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ヴァンパイアたちの後日談  作者: 朝姫 夢
ヴァンパイアと子爵令嬢
10/12

ヴァンパイアと令嬢とハロウィン1

 全3話となっております。残りの2話はハロウィン当日である明日の夕方投稿します。

 この1話のみ、ハイル視点です。2話からはリーファ視点となります。

「兄上!!」


 ある日のことだった。唐突に執務室の中に駆け込んできたノエルが、どこか興奮気味に私を呼ぶ。

 一体何事かと首を傾げながら、とりあえずは緊急事態というわけではなさそうだとその雰囲気から察して冷静に問いかけた。


「どうしました?」

「見てください!ニッポンという国のハロウィンの様子です!!」


 それに対する答えは、ノエルが懐から取り出した写真の数々ですぐに判明したのだけれど。逆にこの様子から、次に何を言いたいのかを察して。


「…………行きたいのですか?」

「はい!!」


 素直すぎる元気な返答に、さてどうやって予定を調整しようかと頭を悩ませるのだった。




「あら、ではいっその事お二人ともヴァンパイアのお姿で参加されてはどうです?」


 ノエルの希望で、私たち兄弟夫婦全員で参加という事になって。それならばしっかりと話し合える場を設けようと、昼間にお茶の席を用意して説明したら。私の唯一であるリーファが、開口一番そんなことを言いだす。


「まさかリーファ……私たちに瞳も耳も牙も隠さずに、人間の前に出ろと?」

「これは昨年の様子なのですよね?こんなに様々な仮装をされている方々がいらっしゃるのですから、本物か偽物かなんて誰にも分かりませんわ」

「私も、リーファ様に賛成です。せっかくですもの」


 にこやかな顔をしてそういうリーファに、ノエルの唯一まで賛同する。そうなれば当然、ノエルが否を唱えることなどあるはずがなく。


「サーシャがそういうのなら、僕は構わないよ」


 案の定笑顔で、自分の唯一の額に口づけていた。まぁ、一番楽しみにしているのであろうノエルがそれでいいと言うのであれば、私としては構わないのだけれど。

 とはいえ。


「手間もかからず楽ではありますが…そうなると女性陣はどうするのですか?」


 私たちは普段通りでいいとしても、女性陣はそういうわけにはいかない。何かしら用意をしなければいけないだろうと、そう思って問いかけた私にそれはそれはいい笑顔で、義理の姉妹である二人は顔を見合わせて頷いて。


「決まっているではありませんか!」

「当日のお楽しみということにしてくださいませ」


 当然のようにそう答える二人は、言葉を交わさずとも同じ事を考えているようで。ここまで仲が良くなってくれたのは嬉しいと思う反面、少しだけ嫉妬心を覚えてしまうのはもはや避けられないヴァンパイアの性なのだろう。何せあのノエルですら、珍しく複雑そうな顔をしていたのだから。


 けれどまさかハロウィン当日に、その嫉妬心が優越感や喜びに変わるとは、私たち兄弟はこの時予想すらしていなかった。だから当日まではこそこそと、二人だけで何やら楽しそうに話している姿を見かけては、私たち兄弟は二人して複雑な感情を抱いていたというのに。

 いや、だからこそ。いざ用意した衣装を纏った二人を前にして、一瞬惚けてしまったのは致し方のないことだったと言えるだろう。


「……なるほど…ヴァンパイアと貴族令嬢の組み合わせですか…」


 何とかすぐに平常心を装うことに成功したけれど。内心では私たち"ヴァンパイア"に相応しい姿を考えていてくれたことに、言葉では言い表せないほどの喜びを覚えていた。


「これが一番正しい姿でしょう?」

「あの頃の正装を仕立てるなんて、なんだかわくわくしました」


 はしゃぐ二人の姿は、色彩こそ違えどもはや本当の姉妹そのもののようで。そしてだからこそ思うのだ。流石、私たちの唯一だ、と。私たちを最も喜ばせる方法を、彼女たちは本能的に知っているのではないかと考えてしまう。


「とても綺麗だよサーシャ。僕の唯一」


 とろけてしまいそうな表情で、ノエルが自分の唯一を抱きしめているけれど。これほどまで弟の気持ちが良く分かると思ったのは、もしかしたら初めてかもしれない。それほどまでに、たったこれだけで私たちは満たされる。

 だが、そうなると。


「……リーファ。その姿という事は、つまり…その細く白い首筋に噛みついてもいいという事ですか?」

「なっ…!も、もうっ…!!そういうことはっ、そのっ……こ、こういう場所で言うものではないでしょう…!?」


 けれど否定はしない、と。その事実に、二人きりの時であれば許されているのだと分かるから。珍しく若干赤くなった顔をしながら上目遣いに睨みつけてくるという可愛いだけの存在を、私も腕の中に閉じ込めた。そのまま耳元で、小さく甘く囁くことも忘れずに。


「では…屋敷に戻ってきたら、美味しく頂きますね?」

「ぅっ……はい…」


 どちらの意味でも美味しく頂くつもりでいる私に、リーファは当然気付いているのだろう。だから恥ずかしそうにしながらも、どこか嬉しそうに私に身を任せてくる。その仕草さえ愛おしくて。抱きしめたまま、頭に一つ口づけを贈った。




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