世界は暗雲に包まれる
栄暦100年。
人間の支配する大陸に相次ぐ異常現象が巻き起こった。爆発的に水量の上昇する海。数ヶ月に及ぶ日照り。家をも軽々しく吹き飛ばす嵐。それらは全て何かの予兆を差しており、当時大陸を統治していた王国『アリーリア』の王『リア王』は、世界に派遣された高名な賢者を呼び寄せた。
「これは、どういった状況なのだ!? 誰か答えを持つ者はいるか!」
殆どの賢者が眉間に皺を寄せる中、一人の若年の男が手をあげる。彼は最年少で賢者に選ばれた逸材。リア王は、思わず期待の視線を送る。
「おそらく、何か得たいの知れぬモノの目覚めと思います」
「得たいの知れぬモノだと? それは何者だ」
「人間ではありませぬ。おそらく……魔王」
若者の名は『ウル』。
彼の意見にその場にいた全ての者が唖然とする。なにせ、『魔王』などおとぎの国の稚拙な物語。誰しもそう思っているからである。
「なにをいっておるのじゃ、若き才能が聞いて呆れるわい」
「師匠。貴方もおわかりなのでしょう。これは冗談などではありません。全ての原因、状況を考慮して考えぬいたことです」
白髪の賢者とウルが言葉を交わすのをじっと見ていたリア王。
彼もまた王族でありながら、元賢者の一人であり、ウルの意見を真っ向から否定する確証がないということがわかるくらいには知識を持っていた。
「しかし、魔王とはまた――本当ならば、手の内ようがないぞ」
「王はお気づきになっておりませんか?」
「ウルっ! なんと無礼なっ!」
「よい。私は何を気づいていない? 教えてくれ、ウル」
彼はニヤリと笑う。
「その稚拙な物語が本当ならば、魔王に対なす存在もいるではありませんか?」
王の表情にもやっと勇気と希望の色が見え始めた。リア王は、精一杯の大声で叫ぶ。
「皆を呼べっ! 直ぐに勇者を探しだすぞっ! 手遅れになるまえにっ!!」
この号令から一年も過ぎぬうちに、ウルの推測通りに『魔王』が復活。世界は魔王率いる魔族軍団とエルフ、ドワーフ、人間の連合軍団による戦争の火蓋が切って落とされたのである。
長き戦いの末、三種族の英雄と勇者『アレクロスト』によって魔王は打ち滅ぼされ、世界はまた平和な時を獲得した。
そして、時は過ぎ――栄暦600年。




