6話.狂犬、襲来。
昨日は疲れたからかぐっすり眠れたが、今日は学校が楽しみな反面不安要素がある。
昨日ボコボコにされた林が鬱憤を晴らすために俺へのイジメをエスカレートさせるかどうかだ。
林茂は細身の雑魚だが、やつが寄生している樋口は非常に恰幅が良い。
林の過激なイジメに樋口が乗るという可能性もある、イジメられる相手を選ぶ……命を守るためには、そんな屈辱的な選択すら考えなければならない。
「おはよう、お母さん――」
「やっぱり美味いっすね、流石っすよ母ちゃん!」
「いいのよ、好きなだけ食べていってね」
まるでここが自分の家だとでも言わんばかりに伊賀千刃がリビングについている。
もう既に男とは思えない程に髪が伸びきっていて、顔つきすら変わっている。
着ている男物の制服も、若干ぶかぶかしているように見受けられる。
そして千刃の一際目立つ特徴……頬の切り傷跡。やっぱり昨日の女は……。
いや、昨日のあいつはツインテールだったし、女物の制服だった。本当に偶然似ているだけかもしれない。
「って、なんでいるんだよお前!」
「あ? いいだろ、俺んち朝飯出してくんねーのよ」
焼き魚をガツガツ頬張って、飯をかっこんでいる。
かと思いきやがっつり味噌汁を飲み込んで、一息ついている。
朝から元気なやつだ。
「そんなに焦らなくても拓也の分はもちろんあるから安心してね」
「いや俺の分こいつに出してたらぶん殴るよ流石に」
「すいません、おかわりいいっすか!」
「あらあら、食べ盛りね」
随分と傲慢な野郎だな、人の家に押し入って朝飯をねだり挙げ句には飯のおかわりか。
……しかしお母さんがこいつの存在を許容しているなら仕方ない、俺も早く朝飯食って支度して、学校に行かないと。
「――なんでついてくるんだよ」
「いいだろーが、どうせ学校行くんだしよ」
無邪気に笑顔を浮かべて、肩をぽんと軽く叩いてくる。
なんだか妙に馴れ馴れしい。
俺にイジメを仕掛けた悪の根源だというのに、こう友好的に接されると調子が狂う。
そういえば通学路は一緒みたいだけど、こけしさんとばったり会ったりするかな。
教室についてイジメられる早朝に見たことはなかったし、案外家を出るのが遅いのかもしれない。
「どうせお前、隙を見て俺をイジメるつもりだろ?」
「は? もう卒業したんだよそういうのは。イジメはカッコ悪い事だ、それをお前に思い知らされたのさ」
「伊賀、お前……」
どうやら彼を改心することができたようだ。
そう、イジメは確かに辛い。だからこそ、その心を思いっきり相手にぶつけてやるんだ。
そうすればイジメっ子にも、心の叫びというものは届くということだ。
絡まれないことを祈ろう。先輩だろうと同学年だろうと関係なく、俺はよくイジメられるから。
「おい伊勢崎ぃ! ちょっと金貸せよ!」
とはいえ、来てしまったものは仕方がない。甘んじて受け入れよう。
……なんだろう、こうして仲間ができていくたび自信がついてくる。
ちょっぴりだけどイジメが怖くなくなった、そんな気がする。
「あれ? 伊賀じゃんキモ、なんでそんな髪の毛長いの」
「うるせぇ殺すぞタコ」
千刃はイジメに屈しないスタンスをむき出しにしている。
俺にもあれくらいの勇気があれば入学初日、何かが変わっていたかもしれない。
登校し教室に到着するや否や、林が俺の顔をぶん殴ってきた。
「てめぇやっと学校来たじゃねぇかよこの野郎! おう樋口の兄貴、このクソガキが昨日ナマこきやがったんですわぁ!」
伊賀は林の事を止めなかった。
流石に教室内では数の差で不利すぎる。
ここで下手に反逆をすれば集団リンチをくらって命が危ないかもしれない。
「おい伊勢崎ぃ、林に逆らったってんのはマジなのか? あぁ?」
樋口だ。
太い腕でむんずと俺の胸ぐらを掴み上げる。
「なんとか言えやゴラァ!」
樋口の一喝が教室中に響き渡った。
その勢いに退く取り巻きすらいる。
「そ、そんな事……」
「デタラメこいてんじゃねぇぞタコァ!」
林が俺のケツにアッパーを食らわす。
予想外の部分からの衝撃だ、俺は思わず声を上げてしまう。
「もう一度聞くぞ、伊勢崎。お前は、林に逆らったのか? どうなんだ、ん?」
丸刈り坊主の樋口は、凶悪な眼で俺を睨みつける。
林が犬なら、こいつは狂犬だ。
制服はボタンを外し、ワイシャツ越しにぼってりした腹を当ててくる。
「さーん、にーい」
樋口がカウントを始める。
俺はなんて答えれば、最小限に被害を留められるんだ……。
素直に言ったら、何が飛んでくるのか分からない。
事実がどうだろうとこいつらは俺に暴力をふるうためにイチャモンをいくらでもつけてくる。まともに考えちゃいけないんだ。
「いーち……」
逆の腕、拳を露骨に引いた。
カウントが終わるまでに答えられなければこいつが飛んでくるぞと、脅しているのだろう。
俺はやっぱり、否定をするしかなかった。
樋口に殴られるよりは、マシだ。
「俺は、やってない――」
――強い衝撃音が辺りに響き渡る。
「おやめなさい」
皆が音源の方に顔を向ける。その正体は、黒板を殴りつける境太郎先生だった。
長い腕を引っ込め、樋口の元へとやってくる。
恰幅こそ違えど優に見下せる身長差、流石の樋口もその額に汗を浮かべていた。
先生は二本指で、眼鏡を軽く持ち上げた。
「度が過ぎますよ、樋口猛くん」
「せっ、先生……」
樋口は引っ掴んだ俺をゆっくりと下ろし、
「すんませんっした」
境太郎先生に屈服の謝罪を送った。
直接的な先生の注意がこんなに効果的だったとは……イジメが無くなる未来も近いかもしれない。
昼休み、イジメられながら弁当を食べていると机の中に紙が入っている事に気付いた。
そこには、『今日の昼休み、裏庭に来てください』と書いてある。
いつの紙だろう。今日入れられたのならいいのだが、とりあえず早めに弁当を食べて行ってみよう。
学校の裏庭、あることは知っていたのだけれど行く機会はなかった。
中央には噴水があって、それを囲むように植え込みが、そこに接するように黒い金属のベンチがある。
ベンチにはすごく細かい装飾が開けられている。
しばらくすると人がやってきた――なんとそいつは、林と樋口だった。
「ちゃんとお利口さんに来てくれたんだなぁ、伊勢崎ァ!」
「これで周りの目を気にせずボコせるぞ」
ぼきぼきと樋口が拳を鳴らし始める。
こいつら、きっと人に見せられない程に残虐な事を始めるつもりなのだろう。
だからここに俺を誘い込み、存分にイジメを楽しむってわけだ。
あの紙が罠だったとは、思いもしなかった。
――成る程、だからいつの日かも分からないような書き方をしたのか。
馬鹿だから想像できなかったんだろう。
こういう思慮に欠けた手紙には今後注意するとしよう、同じ手口には引っかからないためにも。
「な、何するんですか……」
「とりあえず、腕一本いっちまうか」
樋口は平然と言ってのけている、それが過激な事だと分かりながら。
いや、だからこそなのかもしれない。自分が世間から外れていると気付いているからこそ、上手くやりくりするためこのような策を練ったのかも。
自分の悪を自覚しながら、これが俺の本性であるから仕方ないとでも言わんばかりに悪事を働いているのだ。
「お願いします、それだけはやめてください!」
「あ? 今更おせぇんだよ、気合入れろや」
俺の腕をガシッと掴みにかかる樋口。林は後ろでヘラヘラとしている。
「――なんてな」
「なんだと?」
逆に腕を掴み返し、樋口の巨体をこちらへ引き込む。
流れに乗って背負い、すぐさま後方へと投げ飛ばした。
「ぐおっ!?」
後頭部を思いっきり地面に打ち付け、間抜けな声を出す。
林は目前の光景に呆然としている。
「一本いっちまうのは、お前の方だな」
掴んだ腕は放さず、樋口の肩を思いっきり蹴り押さえる。
一気に引き抜けば――肩からボキッと嫌な音が鳴る。
「うおおぉ……」
痛さに唸る樋口、これでもう奴の右腕は無力も同然だ。
片腕を使えない樋口に恐怖など感じない、押さえる足を軸に回転して流れるように反対へ。
勢いを乗せたまま両足で左肩を挟み込み、腕を思いっきりに引き伸ばした。
「ぐあぁぁぁ……!!」
「ひっ、樋口の兄貴ぃ!!」
ハッと我に返った林が俺に向かって来る。
無理矢理にでも極め、樋口の両腕をこのまま無力化させてやる――
「――オッルルルルァ!!」
スプリングのように跳ね飛ぶしなやかな脚が林の側頭を打ち抜く。
瞬間林の身体は地へと衝突、遠心力を乗せた頭蓋がブロックを叩き反動と共に崩れ落ちる。
流星が如く現れた女は足を降ろすと同時、ツバを吐き口元を拭った。
「よくのうのうと学校に来れたもんだな、お前」
「……お前は昨日のッ!」
ツインテールの女は崩れ落ちた身体に追い打ちをかけるが、林は追撃の蹴をかわし転がり膝から立ち上がる。
ヤツが時間を稼いでくれたおかげで無事に樋口の腕を無力化できそうだ。
腕ひしぎに容赦などいらない、肘の内がブチブチに千切れるくらいに引っこ抜いてやる。
ピアノ線の切れる感触と共に樋口が唸り歯を軋ませる。
「これでもうまともに腕は動かせないな」
残りは林だ。
しぶとくふらつきながらも立ち上がっているがあの不意打ちだ、相当ダメージは来ているだろう。
「お前、やっぱりそうなんじゃないのか」
「知らねぇな」
伊賀千刃、とぼけてはいるが間違いなくヤツなはず。
しかしここで明かすには確かに都合が悪いかもしれないな。
「樋口の兄貴ィ……仇は取りますぜェ」
「口の割にはボロボロじゃないか」
林はまだ闘志を捨てていない。鋭くギラつく病犬の目は確かにそう唸っている。
フラフラな身体に向かって一発、蹴りを入れるために踏み込む。
蹴り上げた右足を噛み付くように掴み上げられるがそのまま押し込む。当然抵抗されるが構わない。
林は俺の足を内側へと捻るが想定済の行動だ。
足に力を込めたのは回転の支えとするため。奴の捻りを利用し左足で跳躍、身体を一回転させ林の左側頭部にかかとから蹴り込みを入れる。
「ぐべっ!!」
着地と同時、よろけつつも粘り強く俺の足を抱え込む林に追撃をかける。
同じ要領、足を跳躍させ右の頭を蹴り飛ばす。
「ぶごぁ!」
――両側からの蹴撃、それでもヤツは俺の足を放さない。それは最後の意地のようなもの、弱々しく支えているのみに過ぎない。右足で振り払えばすぐに拘束は解けるだろう。
だからこそ利用させてもらう。身体の回転はうつ伏せで留め、両手で身体を支える。
そのまま飛び退くように地面を押し込む。ヤツの腕をすりぬけ、右足が腹に直接ねじ込まれる。
「くぉぉっ……!?」
左足をブレーキとして下げ、飛び込む身体を急停止。
林は後ろへよろけるように後退。二、三歩して衝撃を流しきったのか踏み留める。
俺はそのまま横に転げて動きやすいように道を開けてやった。
女がよろける林目掛けて一直線に走る。
林の首元を腕でかっさらい、力いっぱい地へと振り下ろした。
渾身のラリアットにより林の身体は墜落するよう地面を転げ回る。
――が、終わらない。
林は衝撃に反発し、爪で地面をひっかき下ろす。根性の足で地を踏みしめ、揺れながら立ち上がる。
その目は尚も闘志を捨てていない。がむしゃらながらも前進を選んだのだ。
「樋口の兄貴ィィィ!!!」
俺は思わず、その覇気に尻込みしてしまう。
「えっ」
女――恐らく千刃もその行動には呆気に取られたようだ。千刃の攻撃をつきかえすよう、林もまた千刃の首元に腕をかけラリアットを直撃させた。
「ぐぁっ!?」
千刃の頭が、地面に打ち付けられた。
そしてヤツの目は俺を見た――
「ヒッ」
想起してしまった、やつから食らったイジメを。
俺がいじめられっ子で林がイジメっ子という力関係の差が脳裏に再浮上した。
思わず顔を守るように腕を構えてしまう。
林は狂ったように足を走らせる。俺の前へやってくるとその勢いを乗せたまま、俺の顔を蹴り抜いた。
顔を守っていたからこそダメージが軽減できたものの、ひどく腕に痺れが残る。とてもボロボロの人間が出せる力とは思えなかった。
――奴の足は止まらなかった。
そのまま倒れた樋口の元へと走り、その胸ぐらを掴み上げたのだ。
体格差は凄まじいはずだ、しかし林はそれを軽々と持ち上げてしまった。
「樋口の兄貴ァァァ!!」
樋口の顔に――林は何度も左へ右へと拳を入れたのだ。
「いっで、いで、何すんだお前――」
「俺あ何度も兄貴のためにためにと耐えて耐えて耐え抜いたってんのに兄貴あ伸びておねんねしとってんのはさぞかしいい身分でござりゃあありませんかぁええあああぁぁ!??」
永遠に続くと思える程その拳は激しかった。
既に皮が剥けボロボロだ。それでも林は拳を止めず、樋口の顔を殴り続けた。
――放置していれば、樋口はこのまま死ぬかもしれない。
「ぼぶっ、うぶっ、ぶっ……」
「兄貴ア答えてくだせァ俺あいったいなんのために耐えて時間を食ったんですかア兄貴が食うはずだった痛みまで一身にくらうためですかア俺は所詮兄貴イとってァそんな価値しかございませんとでも申しますつもりですかあ!」
「林、俺の前で人をイジメるな」
「……あんだァ? 誰だおどれア?」
止めなくっちゃいけない、真の狂犬を。
「おい千刃、絶対に気を抜くなよ」
「何度も言わせるな、俺は千刃じゃねぇ」
女は頭をおさえつつ俺の横に立つ。まだラリアットの跡が痛むのだろう。
「ああ、伊勢崎かあ。丁度良いやあ、面貸せコラ」
掴み上げていた樋口をゴミのように投げ捨て俺に近付いてくる。
もはや林は理性すら失っているようだ。
乱暴に俺の肩を掴み、拳を引く。その動作で肩が引き千切れると思うほどに、林のリミッターは外れていた。
俺は逃げない、それに乗る。
奴の拳を真正面から受ける――同時に首を横に回し、衝撃を流しきる。
振り切った奴の拳を確認した。この一瞬、奴の拳が引く瞬間だ。
引いた肩、右の拳に力を込める。
逃げなかったからこそ見えた道だ。林の胸ぐらを掴み返し、顎を上へと殴り上げる。
衝撃に膝をつく林。
「千刃、いくぞ!」
「だから違うっつってんだろうが!」
やつが再び起き上がる隙など与えない。
膝を持ち上げる動作の瞬間……俺と千刃、二人の足がその顔面を思っきし蹴り抜く。
後ろへと倒れる林――拒むよう両手で逆立ち、衝撃を利用した跳躍で一気に跳ね上がり、勢いに任せで俺達に殴りかかる。
気は抜かない、それは先程決めた約束だ。
二人同時に、その拳を受け止めていた。
「――なんだよ、息ぴったりじゃん。なぁ千刃」
「黙っていろ」
林はすでに逆の拳で追撃を狙っている。その動きを見逃さない。
わざとふらせ、後ろに回り込む。
拳を振り切った瞬間、千刃は後ろから林を羽交い締めにした。
「放せやゴラアアアァァァッッ!!! オイッ!!!」
ここまでガッチリと極まってしまえばもう抜け出すことはできないだろう。
ジタバタとなけなしの抵抗をしているが、千刃はしっかりそいつを抑え込んでいる。
「そうだ。なぁ千刃、お前は林をどうしてやりたい?」
「だから俺は伊賀じゃねぇ。そうだな、さっさと締めて意識を落としてぇよ」
忘れていたけど、これは復讐だったっけ。
こいつの暴れっぷりについつい必死になってしまったけれど。
「じゃあ俺はちょっとばかし水責めでもしてやろうかな、噴水の水でも使って」
「あぁ? そんな暇あんのかよ」
「それを決めてくれるのはコイツだよ――なぁ、林」
「えらそぉに指図してんじゃねぇぞゴラァァァ!!!」
千刃、しっかりと林を抑え込んでいる。
「林、質問だ」
「あァ?」
「俺とそこの女、どっちが強い?」
「テメェそれで復讐のつもりかァ笑わせんじゃねぇかやれるもんならやってみろやオラアアア!」
決まりだ。
「千刃、そこでしっかり抑えていろ」
「何する気だよお前」
「ぶっ殺オオオオオオオす! ぜってぇにテメェラ二人とも俺がぶっ殺してやるわワレァァァ!!」
こういう場所には決まって長いホースがある。
ビンゴ。校舎近くですぐに見つかった。
噴水の噴出口、そこにホースの一端をぶち込んでやる。
すぐさま反対側、勢い良く水が噴き出してきた。
「――復讐させてもらうぜ」
抑え込まれた林の口、その喉奥に思いっきり端っこを突っ込んでやる。
「ゴボッ! ゴボボボボッ! ゴボッ! オボッ! オボボボボボボボッ!!!」
林の口から勢い良く大量の水が逆流してくる。同時に嘔吐すらしているようで、色の濁った水が徐々に混ざってきた。
しかしそれもまた、すぐさま透明な清流へと浄化される。
「苦しいか、林。俺はお前以上に苦しかったよ」
耳元でボソリとつぶやく、
「死んで俺に詫びろ」
狂犬のようにギラついていた目は次第に老犬のように衰えだしていき、グルンと上を向くようになっていた。
逆流し続ける水にまみれつつ、しかし確実に分かるほどにその額には脂汗が浮かび上がっている。
激しかった抵抗も目に分かる程大人しくなり、いよいよ千刃の腕に身を預ける形になる。
だらんと身体が下がりつつあるため、ホースが喉奥から抜けないようにしっかりと押さえ込む。
いよいよ完全に白目を剥き、無抵抗な身体は一度、二度大きくビクついたっきり動かなくなった。
しかし気は抜くな。こいつの事だ、今にも動き出すかもしれない。
――とはいえそろそろ頃合いだろうか。ホースを引き抜く。
「意識も落ちたし、一石二鳥だな」
「……樋口の方がやべぇ奴だと思っていたがこいつの方が格段凶暴だったな。助太刀に来て良かったぜ」
千刃が羽交い締めを解くと林の身体はどさりと倒れ込む。
もはや抵抗はできないだろう。
「助かったぜ、千刃」
「だから違うっつってんだろ」
林茂……樋口猛の取り巻きだと思っていたが、真に狂っていたのはコイツの方だった。
しかし樋口猛もコイツもイジメが大好きな根っからのクズであることに変わりなかった。
その真っ黒に汚れきった腹の底は大量の清流を用いようと洗い流すことはできないだろう。
お前は自らが慕った人間すらも傷つけた。
数々の人間を無闇にいたぶってきたイジメジャンキーが。
イジメの報いを受け入れろ。
――昼休み終了五分前、予鈴のチャイムが鳴る。
昼休みいっぱいを復讐のために使ってしまったらしい。
放課後、明治さんに部活見学をさせてあげる日だというのにここまではっちゃけることになるとは思いもしなかった。
「そろそろ授業が始まるな。着替えてこいよ、千刃」
「だーかーら、俺は伊賀でも千刃でもねぇって言ってんだろ!」
……それにしてもこいつはなぜ隠そうとするんだろうか、バレバレなのに。




