57話.暴れ狂える、穢れた牙。
最条の野郎がゲームの中に俺達を引きずり込み、なんとか脱出できたと思ったら……。
今度は斑穢牙の野郎が社会見学を始めるだって?
もう、あんな長い間ゲームやらされただけでもいっぱいいっぱいなのに、また何か嫌な予感がする場所に連れてかれるなんざ頭がいっぱいいっぱいだ。
あ、そういえばあんなに長い間ゲームの中にいたのに全然時間進んでねぇな。
尚更疲れるぜ。ここから、またかよ……。
「アァ? 皆様、なんですカ? そのお顔は一体」
うわぁ、もう皆斑穢牙という男に萎縮しきっちゃってる。
こいつに直接暴力振るわれてるのは俺だけだってのに――あと伊賀もか。
気持ちは分からんでもねぇけどな。
「でっさー先生、どこ行くんですかぁー?」
「命の大切さについて、学べる場所ですかねエ。さア、ついてきなさい。駐車場にバスがございますので」
……何もなければいいんだがな。
「おい、伊賀、大丈夫か?」
「――んっ? あ、あぁ。またあのジジイにやられたのか俺」
「そうだ。これから社会科見学らしいんだけど……社会見学だっけどっちだっけ、まいいや。とりあえず仲間は多いほうが助かる、行こうぜ」
「おぉう……」
壁の中から伊賀を引きずり出し、さっさと教室を出る。
斑のヤツ、遅れたら何言ってくるか分かんねぇからな。
バス。
乗り場に皆、集まったみたいだ。
「にしてもさぁー、いーきなり社会見学なんてなんだろねぇー」
「きっとお菓子工場だよぉ~~!! 甘いものいっぱい食べさせてもらえるんだぁ~~!」
「ヘッ、くだらねぇ事ではしゃいでんじゃねぇよお前ら」
「……」
「そうだぞ十三不塔共。下らないことで盛り上がってないで順子、順子で一気通貫になって並べ!」
「うっわぁ~男子の皆陰気くっさぁ~! どぉ~してこんなツマんないのしかいなくなったのかなぁ~?」
「お前達、和対々和の言う通りだ。喧嘩している暇があるならさっさと並んでおけ」
「……ピョッ」
「はぁ、ライブハウスが恋しいぜ……」
「バスやだなぁ、またお腹がつっかかって皆に迷惑かけちゃう……」
「あのー、皆さん! 整列してっ! 整列して~っ!」
「もう皆集まってるのか……」
「伊勢崎殿! それに伊賀! 貴殿らが最後ですぞ!」
「はいはい、ったく気絶上がりなんだからもうちょっと気遣えっての」
「伊賀くん、大丈夫……?」
「んっ、あぁ。問題ねぇよ」
「ケェ~、にしても随分私のクラスの人間も少なくなりましたわね」
「おうっ、伊勢崎! どうだぁ、最近! バイクノッてるぅ?」
「扇奏寺さんっ! あれから全然ですねぇ……」
「じゃ、今度エンジン蒸かそうよ! いいだろ?」
「……フッ、構いませんよ」
「よっしゃー!」
それにしても、イジメっ子共をボッコボコにしていたらこんなに人数少なくなっちまったか。
卍のヤツに、御伽のヤツに、俺が宇宙から持って帰った高天原のヤツに、扇奏寺さん。
伊賀に安藤のヤツと、明治さんと、狐鶴綺さん。
そいで、性懲りもなくまだまだ俺をイジメてくるイジメっ子共8人。
そんで、俺を含めて……。
全員合わせて、17人ってとこか。
まだ懲りずに俺をイジメてくるヤツら……。
17番の和対々和滔々郎。麻雀が好きなのかしらねぇがおデコにでっかい丸が描かれてる。
19番の冥提灯蒙太。いつもフード被って黙ってて、良く分かんねぇ奴だ。
20番の竜殿凱。トカゲみてぇな切れ目してる乱暴者。いっつも率先して俺をイジメてくるクズ。
30番の畜羽鶏子。コイツは……良く分かんねぇ。
32番の天糖甘子。コイツからはくどいほど甘ったるいにおいがする。
34番の冰華花凪。委員長気質なのか知らんが、ひどいイジメっ子であることに変わりはない。
37番の骸鯏屍澱。漠然としたやつだ。何考えてるか分からねぇし眠くなるような喋り方をする。
39番の楽囃棘嘩。水色髪の騒がしいヤツ。何か知らねぇけど、めっちゃムカつく。
これで全部と思うと、本当に沢山復讐してきたもんだな。
まぁいい、このまんま全員ボッコボコに復讐しきっちまおう。
「あっれぇ~? 伊勢崎じゃ~ん」
「ハッ! おい伊勢崎ぃ~。一発ぶん殴らせてくれよオォ~イ!」
来た来た。
数は少なくなったが、まーだ俺の事をいじめようとしてくるやつ。
だがよぉ、そろそろこっちの力とそっちの数、拮抗してきてるんじゃないか?
……まっ、やらねぇけどさ。
コイツらがクソみてぇなイジメっ子だって事は身にしみて分かっているが、校長の力によって操作されている可能性が高い。
ボッコボコにして病院送りにしてやるのもいいが、それをするなら元を断つ方がいい。
――校長打倒に近付くためにも、俺は早くリバース・ワールドに行かなきゃいけない!!
社会見学、これから一体何が起こるっていうんだ。
「えっ、伊勢崎の事まだイジメるの?」
「えっ、なんでぇ~? アサリちゃんやんないの?」
「やぁ~……あの新しい先生やりすぎだし、流石に可哀想じゃない?」
あぁ、やはり斑のヤツの過剰な暴力は逆効果でもあるみたいだな。
まさかまだ成敗してないイジメっ子からストップがかかるなんて。
「遠慮ハ、いらないと思うのですがア?」
「ヒッ!!」
ま、斑のヤツ! いつの間にバスのとこまで来てたんだ!?
さっきまでは影も形も……!
「骸鯏サン……。あの伊勢崎一族の末裔のゴミをぶん殴りぶっ叩きぶっ潰してイジメるのは至極当然の行いだと思うのですがなぜ止めようとしているなぜ尻込みしているなぜ躊躇している……??」
「ああいえ! そんな事、な、ないです……!!」
女生徒の頭も容赦なしにガッツリ掴んでやがる。
この男、一体どんな生き方してきたんだ。
「でハ、社会見学に行きましょうか……。皆サンとっととバスに乗るように」
これだけで済ませるのか?
あの容赦しないクソッタレで有名な斑穢牙がなぜだ……?
そういえば言っていたな、1年3組の生徒をあまり殺さないよう校長に怒られたって。
あっ。
「斑穢牙先生! もしかしてその顔の傷って校長にオシオキされた傷なんじゃないんですかぁー!?」
ククク、言ってやったぜバァーカ――
いてぇ、なんだ?
視界が、耳が遠い、何もかもがぐにゃぐにゃ揺れてるみたいだ。
空と、斑の野郎の顔が見える……。
「フゥーーッ……。フゥーーッ……。伊勢崎くん、あまり私を怒らせない方がいい。貴様を殺さないままどこまでもいたぶり続ける事なんて私には造作も無いコトォーーー…………」
ああ、俺ぶっ倒されたのかこの一瞬で。
心が痛い。ズキズキする。
波紋が激しく揺れる、うぐ、痛い、痛い……!!
「ダァァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!!」
「!?」
「ハァァァァァーーーーーー!!!!!!」
斑の野郎が引いたッ!
水底から見ていたような視界が、水中から聞いていたような聴覚が!
一気に、一気に現実にギュンと引き戻された!!
「フゥッ、フゥッ……!!」
心臓の鼓動が激しすぎる!!
なんだこれは!!
いや、分からない。分からないが、とにかく……。
感覚がもとにもどってよかった。
「斑穢牙ッ……行くんだろう、社会見学」
「……アア。そうですねエ、行くとしましょう」
斑のヤツ、バスの方にあるいていった。
「――フゥッ……!!」
なんだこの、心臓の鼓動は……!
痛い、痛いほど脈打ってる……!!
「伊勢崎くんっ!! 大丈夫!?」
「あ、ああ。大丈夫だよ、明治さん……」
ちょっと地面にはっ倒されたくらい、今の俺には屁でもねえ。
ゾロゾロとバスに乗っていく皆。
俺達も乗ってやるとするか。
――あれ、運転手がいねぇ。何か怪しいな。
まぁいい。鬼が出るか蛇が出るか、どっちだろうと構わねぇぜ。まるっとぶっ潰してやる。
「デハ、皆サンお乗りというコトなので……」
!!
この気の揺らぎ、まずい!!
何かがまずいと感じる!!
「皆ッ! 今すぐバスから出ろ!!」
「――なりませんねエ」
斑のヤツ、何の躊躇いもなく化け物に変貌した!!
「――ッ!!」
バスの中が絶叫に包まれる。
「何だアレ――うっ!!」
「おい、伊賀! 大丈夫か!!」
「あ、頭がイてぇ……!! 何か、何か、あ、頭が、ああああ!!」
……あの姿は本当の入学式で斑が披露した姿。
伊賀の頭が、思い出そうとしているのかもしれない。
「オドロケちゃん助けてっ!!」
「え゛っ、何で私ぃっ!?」
「お、落ち着くんだ……筒子が1つ、筒子が2つ、筒子が3つ……!!」
「みみみみみ皆おおおおおおおおおお落ち着けけけけけけけ」
「ヒッ、ヒカゲちゃんが一番落ち着いてない!!」
「…………」
「おっ、おいモウタ!! モウタ!! き、気絶してやがる……!!」
バスの中は混沌に満ちている。
誰も彼もがまともな判断を取れていない状況。
まあそうだよな、あんな化け物見ちまったらそりゃ落ち着きも失うわ。
でもお前達初見じゃねえんだぞ、思い出せ!
「あああああ!! 何されますの!? 私達何されますの!? 助けてくださいましぃぃぃ!!」
「もおこの学校やだああああああああ!!」
「……ぴょ」
……アイツだけは本当に呑気だな。
1年3組30番・畜羽鶏子。
何故かいつも鶏の着ぐるみを着てて、ぴょ、ぴょ、しか言わねぇ。
だからといって温厚かと言うと別にそうでもない。
コイツは良く卵を投げてくる。弁当には卵の殻も混ぜてくるし、鳥のフンをぶっかけてくることもある。
そん時はコイツも同じだ。口ではピヨピヨ言うが顔は他のイジメっ子共同様楽しそうな顔してる。
コイツが一番分からねぇ。だが少なくとも、校長には操られているはずだ。
「入り口は塞いでやりましたア!! さア皆さん、良い子ならしっかり座って待っておケエ!!」
……関係はねえ。
斑穢牙。
コイツは1年3組の生徒を殺しちゃいけねぇと校長に言われている。
「誰が待つか馬鹿野郎ッ!!」
バリーン!!
窓を割って脱出してやればいい!!
「皆っ! 窓から逃げろ!!」
「……アア??」
そうだ! 斑のヤツは殺すことができねぇんだから逃げちまえばいい!!
俺が窓から脱出すると他の奴らもバンバンと窓を開け始める。
――なるほど、そういう魂胆だったか。
あの渦巻だ。
赤黒い大きな渦巻が迫ってきている!!
もう隠す気はねぇのか?
あの姿も、この渦巻きも、いったいどういうつもりだ?
「きゃっ!」
「わぁー」
「よっと……ふぅ、危ねぇ」
「明治さんっ!!」
「伊勢崎くん!! この渦って……」
「……」
俺は明治さんの事を聞いたし、リバース・ワールドの事も知っている。
隠すつもりはないのに、言及するのをためらってしまう。
「皆無事か!」
「ヒカゲちゃん!! 早くヒカゲちゃんも出て!!」
「早くしないと危ないよぉ」
「ああ、今から私も行く――」
しかしここからどうすればいい。
この渦巻き、この渦巻きが丸見えになってるんだ!
――プロレマ部の皆に助けてもらおう!
それしかねぇ、早く急がねぇと!
「ヒ、カゲちゃん……?」
「あ、あ……!!」
――何が起きた!!
「おい、皆! 何が起きた!」
「い、伊勢崎!! お前、お前ええええええ!!」
「――!!」
冰華花……凪……。
そいつが宙に浮いている。
真っ白く長い物が冰華花の腹を貫いている。
それは――鋭く伸びた穢牙の爪だった。
爪が縮こまりズルンッと抜ける。
冰華花はそのまま地面に落ちた。
「ヒカゲェーー!!!」
「ヒカゲちゃん!! ヒカゲちゃあん!!」
メキメキと鳴る破砕音。
それは、アイガがバスの窓枠を握り潰す音だった。
「ハァーーー……構わないでしょう。アナタ達が逃げようとするなら、先生としてはしっかり正してやらなければなりません。アア、殺してしまったらまたカイム様に叱られてしまうやもしれませぬ……まア、私の研究に使えるからどーでもいいんですけどネ」
ギチギチ……。
アイガがスズメバチみてぇな口の牙を擦り鳴らす。
「ヒカゲちゃん! しっかりしてぇ!」
「天糖!! 早く逃げないと、何かヤバいの迫ってきてるからぁっ!!」
「ヤダァ!! ヒカゲちゃんを置いてけない!!」
「アア、アア!! アナタ達は何故こうモ腹立たしい!! もう我慢の限界だア! ブッ殺ォス、全員ブッ殺ォォォス!!!」
アイガの野郎が地面に降り立つ。
アイツらは。アイツらはクズみてぇなイジメっ子だ。
操られているんだろう。だが、素のアイツらを知らねぇ俺からしたら醜いクソ野郎に変わりはねぇ。
――だからよぉ。
「グアッ!!」
「――伊勢崎ィ!!」
素のコイツらを知らねぇままってのは気分がわりぃ!!
咄嗟にかばっちまったが……コイツの爪、やはり相当硬ェ、そして強ェ……。
「私ハ今、殺すつもりで爪を解き放ちましたが……」
ビチビチッ。
跳ねる魚みてぇにアイガの爪が収まる。
「何だ貴様。貴様は何の力も持たない雑魚のはずだ、何故貴様は私の爪を防いだ何故軽傷で済んだ何故私の爪が貴様の身体を貫けなかったのだ伊勢崎拓也アアアアアアア!!!」
「――伊勢崎クンッ!!」
全力で迫りかかるアイガの長い爪……。
ああ、確かに分からねぇ。何でコイツの攻撃が防げたのか。
だが、守らなきゃいけねぇと思った。
守らなきゃいけないと感じた。
何が面白くてイジメっ子共を守ってんのか知らねぇが、だがよ……。
「これ以上もう傷付けさせねぇ、誰一人」
力に、溢れる――。
「もう校長のお達しなぞ関係ないゾ!! 何度でもブッ殺して貴様を後悔サせてやる!!」
勇気に、溢れる――。
「もうテメエの犠牲者を増やしたりなんかさせねぇ」
心が守れと、叫んでる――!
「くたばれ雑魚がアアアアアア――」
斬れた。
アイガの爪が。
「――ハ?」
心の波紋が、激しく震える。
心臓の鼓動が、無限に轟く。
「アイガ。お前は途轍もなく強い、そう思ってる」
心の波紋は白い剣となり、心の波紋は白い兜となり、心の波紋は白い甲冑となり――
「境太郎先生も、お前に容易く殺されてしまった」
心の波紋は全身を流れ、纏わりつき――
「お前に勝てるなんて微塵も思っていなかったけど……」
俺に絶大な勇気を与えてくれる。
「今は全然、負ける気がしねえ」




