48話.天才VS凡人、究極のラストゲーム。
夜、部屋の窓からコンコンと音が鳴った。
カーテンを開けてみると、天馬先輩のウサギがいた。
スマホと、それと一枚の紙を咥えて待っている。
とうとう尻尾を見せたか、冴田……!
紙とスマホを受け取ると、ウサギはぴょんと跳ねてどこかに行ってしまう。
どれどれ、なんて書いてあるんだ……。
『冴田が再びスマホに接続したので、デンキウナギを忍ばせておいたッス。これでいつでも冴田の居場所を掴めるッス』
でかしたぜ先輩……!
このままずっとスマホを使えねぇってのは本当に癪だったからな。
鬱憤晴らしてやるぜ、冴田の野郎……!
スマホの電源をつけてみるとやはりカッコつけた「S」マークが居座っている。
イヤ~ンな音は昼間に停止したっきりもう流れないようだ。
「――全くやってくれたね、伊勢崎……バカの分際で生意気なんだよ……!」
「で、結局ゲームはどうなるんだ?」
俺が冴田の事を見つけるゲーム。
タイムリミットを迎えるとエッチな大音声が流れてゲームオーバー……というものだったが。
結局、俺はゲームオーバーのままなのか。
「ハッ、君如きに見つけられる僕じゃない! ゲームはモチロン……ゾッ、コウ、だぁ!」
「でもよ、もう既にお前の居場所は突き止めてるんだぜ?」
「……言ったな。言ったな!? はい、どこでしょおーーーー!?」
「それは、直接明日会いに行ってやるよ」
「ギャッパパ! パパパパパパパパパパァァァ!!! プルルルルルルッ! プルルッ!」
何だコイツ……。
「嘘ついてもムダムダむぅぅぅーー……ダッ! 僕の居場所を突き止める事なんてお前如きにゃ不可能ダァァァーーーー!!! ピョオオオオオオオオオオオオ!! ピョロロロロロロロ!!」
まぁ、確かに俺だけの力じゃ難しかったかもしれないな。
「まぁいいさ、今日はもう遅い。明日を楽しみにしていろよ、冴田」
やかましい声が止まった。
「――あっ、バレたぁ!? 僕、バレたぁ!?」
「バレバレだよ、お前耳痛めて休んだだろ」
「ククク……まぁ、僕が誰だかバレたところで君の状況は変わらないんだけどネッッッッッ!!!」
キザな「S」マークがシュンっと奥に引っ込んでいった――
「――バァッッッッッッッッ!!!!!!」
「うわぁっ!!」
ビックリしたぁ……!
「拓也ー、どうしたの?」
「なっ、何でもないよ!」
「ギッヒヒヒヒヒ! ざ、ま、ああぁぁぁぁぁ~~~~~~レロレロレロレロ」
これは、ホログラムって奴か……!
冴田の野郎のいけ好かねえ顔が、スマホの中に浮かんでやがるッ!!
「そう、僕が誰だか分かったところで、結局君は僕を探し出すしかなぁぁぁい」
コイツ、顔がやかましいな……!
「さぁ、僕を見つけてごらん! 伊勢崎ィ……」
「ああ、明日テメェをボコボコにしてやるよ」
「楽しいゲームの、はじ、まり、だぁ――」
「――ニヒッ!」
いやみったらしい笑顔で挑発をかけたまま、冴田のホログラム顔はスマホ画面のはるか向こうまでフェードアウトしていった。
明日学校で天馬先輩に聞いてみよう。
アイツがどこにいるのかさっさと突き止め、さっさとボコしてスマホのハッキングを解いてもらう。
――消えてった冴田の顔が突如として画面中央に現れる。
何を話しかけても真顔のままで、どうやらアイツはスマホとの接続を切ったらしい。
デンキウナギは電波に乗って飛んでいく。
電波先の情報を伝えるのは、やはり天馬先輩の元に帰った時なのだろうか。
まぁ、もしそうだったら冴田は調子に乗って通信を続けてくれそうだし好都合かもしれない。
明日は月曜日、最高の週明けにしてやろう。
「で、今日は冴田の野郎をボッコボコにするのか」
「まぁな」
スマホはしっかり持ってきている。
今日の昼休み、天馬先輩のところに行って、冴田の居場所を特定してもらうんだ。
ちなみにスマホの画面には――
「それ、電源切れないのか?」
「切れた電源をつけるのは大丈夫なんだけど、消すのは無理みたいだ」
相変わらず冴田の真顔が映りっぱなしだ。
起きてからまだ冴田の接続はない。昼休み頃には調子に乗ってくれてればいいのだがな。ダメなら、放課後でも全然いいだろう。
「あ、先生」
「伊勢崎くん、それに伊賀くん……」
境太郎先生が、校門のそばに立っていた。
「おはようございます」
「はよーっす」
「……おはよう、ございます」
日に照らされ光る眼鏡の奥では、どんな目をしているのだろうか。
先生は、温かいのか冷たいのか分からない目をよくする。
教室に着いたらビンタをかまされた。
ぶん殴られ、トイレの水をぶっかけられ、ハチの死骸を食べさせられた。
「どうだァ、伊勢崎ィ!」
「辛い」
「ギャハハハハァ!」
辛かった。さて、ホームルームが始まる時間だ。
今日はいつも通りの明治さん、ホームルーム直前に教室に入ってきた。
リバース・ワールド……あの赤く暗い、不気味な世界。
明治さんの席は空いていた。
あの小さな肉の塊たちが抑圧された人の気持ちから生まれるのならば、明治さんは気持ちを抑えるということが全く無いのだろうか。
いつしか明治さんのお姉さんに聞いた話では、友達に無視をされ続けても全く気にしてなかったという。
あまり物事を深く気にしないタイプであれば、リバース・ワールドには影響しないということなのだろうか?
「それでは出席を取ります」
今日は新たに帆垣と愛島が欠席だ。
授業が頭に入らない。
授業よりも、気になることが多すぎる。
リバース・ワールドの事、伊勢崎復讐計画の事、父さんの事。
今もこの空間を裂けば、裏にはあの肉の塊の子供達がいるのだろうか。
「――聞いていますか、伊勢崎くん」
「えっ、あ、はい!」
「この三角形のタンジェントはいくつですか」
えっ、あぁっ、指名されたのか!
簡単だぜ、教科書に書いてることをただ読めばいいだけ――
「そこのタンジェントはおっぱいでぇぇぇぇぇーーーーーーす!!!!」
――俺の絶叫が、教室中に響いた。
クラスの視線が俺に集まるのを感じた。
クスクスとした笑い声も聞こえてきた。
無論、俺はこんな事言ってない――アイツ!! まさか俺の声を作って!!
「これは違うんですよ! これは冴田のヤツが、ほら!」
クラス中にスマホの画面を見せてやった。
アイツのホログラム顔が映ってるんだ、これで証明は簡単だろう。
「……伊勢崎くん」
「はい!」
「ふざけないでください!!」
な、何がですか先生! 何でコレを見てそんな反応が――
「!?」
す、スマホに映っているのは、俺の顔だった!!
「伊勢崎キモ……」
ボソリとつぶやかれる声。地味に効いた。
完全に弄ばれている、冴田の野郎に……!
皆の誤解を解くことができねぇ、これじゃ俺は完全にただの変人だ!
「冴田アァァァァァァ……!!」
俺が画面を睨んだ瞬間、ホログラムは冴田の顔に戻る。
そして、白目を剥き舌を出して笑った。
「……タンジェントは、1です」
「正解です。45度の三角形では――」
淡々と授業は続行される。
俺は座席で居心地の悪さを感じながら、この残りの授業時間をどう考えたらいいのか自問した。
やっと昼休みの時間が訪れた!
ここまで俺は冴田のおちょくりに何度も耐えてきた!
あれからも何度も何度も冴田は奇声を発し、俺は怒られ、笑われた!
事情を知る仲間たちは気にしていない様子だったが、しかし許せねぇ!
境太郎先生の呆れた顔を見るのは、初めてだった!!
「伊勢崎ィィ、今日のテメェ随分きんもちわるかったなぁ……」
「お前のせいでまともに授業受けられなくてストレス溜まってんだよ殴らせろやオラァ!」
そうだコイツらがいたよ。
数が少なくなったとはいえ、やはり多勢に無勢。俺はさっさと逃げさせてもらう!
「キキッ! キキキッ! ウキィィィィーーーー!!!!」
「ギャッ! なんだ!」
「伊勢崎がサルになった!!」
俺はサルのモノマネをし教室をめっちゃくちゃに飛び回ってやった。
皆俺を追いかける事に苦労し、そのまま俺は教室から飛び出して逃げていった。
「ちょろいぜ」
さぁ、このまんまスマホを部室まで持っていこう!
「待ってたッスよ、伊勢崎くん」
「天馬先輩!」
天馬先輩の頭の上で、デンキウナギが渦を巻いて座っている。
「冴田の居場所は別校舎三階にあるコンピューター・ルーム……つまりこの、真上ッスね」
「なっ、真上!?」
「エッ、なんで!?」
スマホから冴田の声が漏れてきた。
――ガラガラガラッ!
勢いよく引き戸を開ける音が上からした!
――ダダダダダダ!
廊下を走る音が上から響いてきた!
「先輩、行ってきます!!」
「うん、気をつけてね」
逃さねぇぞ冴田!
本校舎と別校舎を繋ぐのは二階の廊下のみ。
俺のいるプロレマ部の部室がまさに二階。
つまり冴田の取れる行動は、階段を降りる、ただその一択のみだ。
俺は、別校舎の階段で待っているだけで良い。
――ドンドンドンドン!
階段を降りる音。
折り返し地点に、汗だくの冴田が現れた。
「よぉ、冴田」
「あぁ、ハハ……ハハハ!」
ヤツの尖った顎から汗が垂れている。
眼鏡は曇っているようだ。
「て、天才の僕が君を迎えに来てやったんだ、感謝するといいよ……」
随分と声が荒い。相当疲れたみたいだな。
「で、これでゲームは俺の勝ちってわけだな?」
「そう、なるな……天才の僕とはいえ、パソコン無しではハッキングの解除もできない。コンピューター・ルームまで来てくれ……」
なんだ冴田のヤツ、随分と素直だぞ。
ハッキングを解いてくれるなら、解いてもらった後に三十回くらいボコボコにすればそれでオッケーだ。
コンピューター・ルーム。
一列一列の白い机にパソコンが沢山並んでいる。
窓側は黒いカーテンで一面覆われているが、光を補うためか蛍光灯の量がやけに多くて眩しい。
「ゲームはひとまず、君の勝ちだ」
「そうだな。じゃあ早速ハッキングを解いてもらうぞ」
「――ファーストゲームは、ね!!」
グッ、全く予測できなかった、その腹キックは……!
「早速始めよう、僕と君のォォ……ラストゲェーム!!」
「なんだその話、聞いてないぞ……!」
「当たり前でしょ――」
「――言って、ないもぉぉぉ~~~~~ンンンンンンンン~~~!!! ンヒッ!」
限界までこっちに顔を近付けて挑発してくる冴田。眼鏡の縁が顔に当たる。
「だって君ィ、自分の力で僕を見つけたわけじゃないだろォ~? 伊勢崎ィ~? イィ~? それを世間では、なんて言うでしょぉーか……」
「……」
「ズル、だよねぇ……えぇぇ~?」
舌がベロン――
「頬を舐めるな気色悪ィ!!!」
「――ギャアアアップ!!!」
顎にアッパーをかますとヤツの眼鏡が天井まで吹っ飛んでいく。
天井にぶつかり反射した眼鏡は、ぶっ倒れた冴田の顔に戻ってくる。
「僕を痛めつけたところでぇスマホのハッキングは解除されないって事、ご承知ィィィ~……???」
鼻血まみれの顔で笑っていやがる。
確かに俺としてはそれは困る。そいつを分かってて、こいつは挑発しているんだ。
「って事で……僕の綺麗な顔を傷つけた分。僕にも一発叩かせろ。それでチャラだ」
「そうだな、それくらいなら構わないさ、ハッキングを解いてくれるならな」
よろよろと起き上がる冴田。
握り拳を作り――
「ア゛ッ!!!」
「なっ、ぐあっ!!」
アイツ、目を狙ってきやがった……!!
くっそいてぇ、こいつ畜生めがぁぁ……!
「アキャキャキャキャキャキャ!!! い~ぃ、気味ぃぃぃ~!! サイコーーーーーー!!! ホォーーーー! ホッホ!! ホォォーーーー!!!」
腰に手を当て、パタパタと羽ばたくように踊る冴田。
「じゃあそろそろ始めようかァ……ラスト、ゲィーーンム……!」
「クッ、覚えとけ、冴田……!」
上機嫌そうな冴田はウキウキと歩き、奥のパソコンの前でどかっと座る。
「伊勢崎、さっさとパソコンの前につけ! ゲームが始められないだろ!」
何を突然真面目ぶってんだコイツは!
とりあえず俺は近い席に座った。
少し離れているが、冴田とは向かい合う形になっている。
「それじゃあ、ゲームの説明をしよう。僕のパソコンにはハッキングを解除するプログラムがある!」
「なんだと……?」
あのパソコンの中に、そいつがあるのか……!
「君の勝利条件は、僕のパソコンをハッキングし、そのプログラムを奪う事だぁ!」
「なるほどな、敗北条件は何だ?」
「そりゃぁもちろんタイムオーバーだよォ……!」
制限時間内にヤツのパソコンをハッキングし、プログラムを持ってくればいいってコトか。
ハッキングなんてやったことないけど、とりあえずやってみるしかねぇ!
「まだ授業があるだろォ~~? 昼休みが終わるまでに、つまりあと三十分以内に盗めなかったら君の……お前の……! 負――」
「なるほど分かったぜ。そうなりゃ時間が惜しい、さっさと始めさせてもらうぜ!」
「オイ待てヨォ!!! 人が喋ってる途中だろうがバァーーーカ! 伊勢崎! 伊勢崎バァァァァアーーーーーー!!!!」
テメェも授業あるだろ!!!
そんな元気ならお前も授業来いや!!
こうして俺と冴田のハッキング勝負が始まった。
幸い俺と冴田のパソコンはローカルネットワークとやらで繋がっているそうで、そこを通せば簡単に冴田のパソコンにアクセスできそうだ。
「ウフフフ……!! 伊勢崎、君はこう考えているね? ローカルネットワークを通せば簡単に僕のパソコンにアクセスできそうだ……と」
「それはどうかな!」
あっさり思考を読まれちまった。まさか冴田のヤツ、何か策があるのか!?
「ククク……! ファイヤウォール、オン!」
「よし、冴田のパソコンに接続できそうだ――」
な、何だ? 繋がらねぇ!!
「ヒッッヒーー! もしかして君はぁ! ファイヤウォールを、ご存知ない!?」
「ファイヤ、ウォール……」
「ファイヤウォールとはウイルスを侵入させないアンチウイルスソフトさ!! これで僕のバックドアはシャットアウトされ、君の通信は僕のパソコンには届かなくなったんだよ……ペェ!!」
クッソ、よく分かんねぇ単語をつらつらつらつらと……!
「お前がパソコンに詳しいことはよく分かった」
「ここから先……何かできるならやってみ、ナ!」
クッ、俺は一体どうすればいいんだ?
完全に手詰まりだ、だが諦めるな! 諦めなければ、糸口は見えてくるはず……!
「ファイヤウォールが何だってんだ。お前がファイヤウォールを使うなら俺は……!」
「ンフゥ~~~???」
速攻で作り上げたアンチアンチウイルスソフト……頼む、動いてくれ!!
「俺はウォーターウォールでお前のファイヤウォールを鎮める!!」
「ンブッ!! ンップフゥ! なぁ~にを言って――ああーーーーーッッッッ!!!???」
うまくいったみてぇだ!
炎は水に弱い! お前がファイヤなら、俺はウォーターだ!!
冴田のファイヤウォールはこれでまともに機能しなくなった、侵入するなら今のうちだ!
「フッ、ファイヤウォールが無くても、僕のパソコンのバックドアは全部シャットアウト済みだ!!」
「それがどうしたぁー!!」
クソ、何故だ!
冴田のパソコンに接続できねぇ!
「ファイヤウォールはバックドアを全部閉じるソフトだぁーーーー!!! バックドアを閉めれば誰も僕のパソコンにはアクセスできないんでぇーーーーーす!! イィィーーーギギギギギギギ!!!」
なんだ、そんな事か。
「ドアが閉まってるなら、開ければいい」
さぁ、ヤツのパソコンのバックドアとやらを開けてみろ、俺のパソコン!!
「うおおおおおおおおお!!」
「ア、エェッ!? なんでだッ、嘘だろォ!?」
バックドアをぶち開けたみてぇだ――
「ダメダメダメェェェェェー!!!」
なッ、せっかく開けたバックドアが……閉まりやがった!
「ハァッ……ハァッ……!! まさかバックドアを開けてくるとはな、伊勢崎ィ……でもねぇ、ドアが開くなら閉めればいいんだヨォーーーー!!」
「クッ!」
「――ニヒッ!」
開けたら閉められる!
ならば、閉められる前に通り抜ける!
俺の指はかつてないほどに動いている! ヤツのパソコンに侵入するため、あらゆるバックドアを開けている!!
だがヤツもそのスピードに追いついている! 俺がバックドアを開ければ、ヤツがバックドアを閉める!!
気付けばこの攻防だけで10分が消費された!
「僕のタイピング速度に追いつくと思ってるのかァーーーー!!! グヘヘヘヘヘヘヘ!!! グッヘェ!」
「冴田ァ!!」
「ア゛ァ゛!?」
「気付いてないみたいだが、俺はもうとっくにお前のパソコンに侵入しているんだぜぇ!」
「ベェッ!? 嘘だろォ!?」
――そう、結果はそうなる。
貴様がバックドアを閉める手を緩めたそのスキに、俺はバックドアをこじ開け侵入した――本当に!!
「ダァァァァァァーーーー!! 伊勢崎お前本当に僕のパソコンに侵入したのかよォーーーー!!」
「だから言っただろ!!」
「まずい、僕のパソコンには校長先生が大切にしてる『伊勢崎復讐計画』ファイルが残ってるんだぞ!! それだけは、それだけは絶対に死守しないとォォ!!」
「え――?」
校長、先生……?
「校長先生が、何だって?」
「ん? あぁ、僕は校長に頼まれて『伊勢崎復讐計画』に関する極秘ファイルの管理を任されているんだ」
「――!?」
こ、校長、先生が……?
嘘、だろ……?
「あれ、これ言っちゃいけないヤツだったっけ――マ、いっッかァ!!!」
「俺にそのファイルを寄越せェェェーーー!!」
「渡すわけがないだろォォォォーーーーーーー!?」
一度パソコンに侵入してみせれば、もうファイルを取ることは簡単だ!!
現にもう見つけてしまっている、俺のスマホのハッキングを解除するプログラム!!
だが、それより断然、その極秘ファイルの方が気になった!!
「言えェ! 冴田ァ! そのファイルはどこにあるゥゥゥゥ!!!」
「ギャハハハハハハハハハ!!! 探せるもんなら探してみぃぃぃぃぃぃ~~……テっ♪」
こうなりゃ、俺は賭けに出る――!
部屋にはただ、キーボードを打鍵する音が響いている。
それは俺と冴田の本気のせめぎ合いの証拠だ。
だがよ、冴田。俺はもうバッチリ分かっちまったぜ。
お前が何をしているのか――!!
「――なるほど、キーボードをカタカタさせるフリをしてずっと極秘ファイルを色んな所に移し替えていたのか!!」
「ナッ!? お前、伊勢崎――!!」
それはこっちのセリフだ。
まさかそのカタカタ音がブラフだったなんて……!
俺はキーボードの接続を外し、わざとカタカタしながら冴田の席までやってきた。
「こうすればこっちのもんだ!!」
俺はキーボードとマウスを、冴田のパソコンから抜き取り――
「――ワアアアアアアァァァァァァァーーーーー!!!」
今だ!
これで極秘ファイルの位置が固定された!
ヤツが再接続するうちに、俺はマウスでそのファイルをかっさらう!
――やったぜ、成功した!
「これで、極秘ファイルを手に入れさせてもらったぜ。冴田」
「グキキキキキキ……!! キキッ! キキキキッ! キキキキィィィ~~~~!!!」
冴田のやつ、悔しすぎるのかすごい勢いで歯ぎしりしている。
鼻息も荒い。どうやらこれは、俺の勝ちみたいだな。
校長先生の、『伊勢崎復讐計画』に関する極秘ファイル……。
これを見れば明らかになる。この計画の全容……。
信じられねぇ、校長先生が……!
ダブルクリックし、ファイルを開く――
「――あれ」
画面が真っ黒になり、冴田の顔が画面に現れた。
「グッヒッ!……ンフフッ! ンフフッ!――グッヒッ!……ンフフッ! ンフフッ!」
「偽物ファイルに釣られちゃってパソコンファックされるおバカさんはここかなァ~~~~!!!???」
「パーッパパッパパパパパッパァー! パーッパパッパパパパパッパァー!」
なんだ、これは。
やかましい冴田の声がしたと思えば、軽快な音楽が流れ、画面内では冴田の顔がぐるぐるしたりあっちこっちにいったり、増えたり減ったりとおおやかましだ。
「残念! 残念! 偽物! 偽物! おバおバ おバおバ おバカっっさァ~~~~ン!!」
延々と、冴田が茶化してくる……。
いくらキーボードを叩こうと、一切受け付けない。
仕方なく俺はパソコンを強制終了し再起動させる――
「グッヒッ!……ンフフッ! ンフフッ!――グッヒッ!……ンフフッ! ンフフッ!」
「偽物ファイルに釣られちゃってパソコンファックされるおバカさんはここかなァ~~~~!!!???」
ダメだ……! ずっと、このまんまだ……!
「クッククク……フフフゥッ! フゥッフゥッフハハハッ! バァァァアアアーーーーーハッハッハッハッハ!!! 笑いを堪えるのがこんなニィニィニィニニニニニニニッ!……辛いなんてナァ~~~~~~~~ハハハッッハッッッハァッ!!!」
偽物、ファイル……!
「そう、僕も一芝居うたせてもらったよ……グヒッ! 極秘ファイルをこんな所に入れておくわけがないだろバァァァァァ~~~ッッッカァーーー!! カァァァァァーーーーー!! フゥゥーーーーーーー~~~~~!!! フッフゥー!!」
残り時間、5分。
「伊勢崎きゅんっ! きゅん、きゅん、キュンっ! またやろうよ……! バックドアの、あぁ、けぇ、しぃぃ、メぇぇぇぇ~~……エ!!! 隣のパソコン使えばァァァ~~~!? ピピピヒィィィィイィ~~~~!! ピッピッピッピ!!!」
「ああ、そうさせてもらおう」
お前と攻防している間に俺は必死にこいつを作り上げていた。
最強の、ウイルスを。
「ん、何だいそのUSBは。あ、伊勢崎くんでもUSBって知ってたんだねェェヘヘヘェ~?」
「この中には、俺が必死で作り上げたウイルスが入っている。そいつを今、貴様の元に送ってやる!」
「どんなウイルスを送ってこようと、ム・ダ・な・の・に!! バックドアが開かない限り僕のパソコンに侵入する事はできッッッッなァァァァァ~~~~~~~いィィィ勝ったアァァァァッハハァ!」
「――復讐させてもらうぜ」
隣のパソコンを起動し、俺はすぐさまUSBをセット!
内容物を冴田のパソコンにぶちまけてやれ!!
「あっ!……残り1分ダァ♪ 伊勢崎くん。時計、見テ♪」
「食らいな、俺のウイルスを」
「まぁ~~だ言ってるのかいウイルスなんて――なッ、なんだこの光はァ!!」
冴田のパソコンから、異様な紫色の光が漏れ出している様子だった。
「――誰がパソコンのウイルスだと言った。ウイルスといって油断したな、冴田ァ!!」
「まっ、まさかァ、これはァ……! これはァァァァ~~~~~!!!???」
「あぁそうだ! 俺が貴様に送ったのは、インフルエンザウイルスだァァァーーーー!!!」
その量、2ギガバイト!
食らいな冴田! 2ギガバイトのインフルエンザウイルスを!!
「アッ、ブガッ、ブグッ、ブッ、ウギッ、ウギィッ!!」
冴田の肌は途端に紫色になり、目玉がひん剥いた。
苦しそうに喉を掻き毟っている。
「死んで俺に詫びろ」
「パファッ――」
泡を吹いてぶっ倒れる冴田。
1年3組8番・冴田天之助。
俺のスマホをハッキングし、挙げ句の果てには俺の顔と声になりすまし俺の社会的評価まで貶めやがった。
サイバーを利用した陰湿なイジメは許しがたい、そしてそれ以上にお前は奇妙だった。
てめぇは自分が天才だと信じてやまなかったが……お前の敗因はその慢心にある、イジメの報いを受け入れろ。
キーンコーン、カーンコーン。
――昼休みの終わりを知らせるチャイムが、鳴った。




