46話.簒奪・惨殺・斬殺、修羅場咲きリンクリング。
【お詫び】
予約投稿ミスって間違えて投稿してしまいました。
目が覚めると、そこは保健室だった。
「――あ、伊勢崎さん!」
……やれやれ。
俺を出迎えたのは、ずっと隣で待っていたであろう愛島有架だった。
「良かった……私、伊勢崎さんが死んじゃったかと思って――」
「気安く触るな」
差し伸べられた手を俺はすぐさま払いのけた。
テメェの本性はとっくに見え透いてんだ、優しくする素振りを見せようとしたって無駄だってことを教えてやる。
「……で、これは」
俺の身体に大量に巻き付けられた包帯、そしてガーゼの数々。
「――私が、伊勢崎さんを手当てしました」
「へぇ、流石。手が込んでんじゃねぇか」
この話はほぼ間違いなく本当だ。欺けると思うなよ、愛島有架。
お前のその腐ったにおい、プンプン漂ってくるんだ。
「――フンッ!!」
「えっ……」
ブチブチブチィィ!!
いらねぇ、こんなものは。俺に包帯なんざ必要ねぇ。
「テメェが何を考えてるか知らねぇが、勉強不足だったな。俺にはそんな同情心は必要ねぇ、むしろ逆効果だ」
さて、今回は何分気絶したかな?
おや、時計を見た限りじゃ昼休みがそろそろ終わるっつー時間か。5時間目に遅れねぇようにしねぇと。
「クッ――」
「ムリしないでください、伊勢崎さん――」
「その手をどけろォ!!!」
愛島……貴様の策には、ゼッテェ乗らねぇからな……。
「……伊勢崎さん」
「今度は何だ、どんな手を使って俺を騙してくるつもりだ?」
「私は……私は確かに、今まで伊勢崎さんに対して無関心すぎていたかもしれません……」
「なんだ、泣き落とし紛いのことをするつもりか? 無駄無駄そんな魂胆じゃ俺を騙すことなんて――」
「私はッ……! 私は、伊勢崎さんを、助けた、かったんです……!」
世迷い言を。
「今までの私には勇気が無くて……! でも、イジメと戦っている伊勢崎さんを見て、私ッ……私ッ伊勢崎さんを支えなきゃって思ったんです!!」
「…………」
「伊勢崎さんはクラスの皆から見放されていて、気付いたんですッ! 見てるだけの私も加害者なんだってッ! だから伊勢崎さん、あなたのことを支えさせてください!」
「どうとで言っていろ」
愛島の言葉を無視し、教室へと戻る。
血まみれのアザまみれのまま戻ってきたせいか、帆垣の野郎がギョッとしている。
まぁ、帆垣以外もギョッとしているがな。
「あれ、伊賀は?」
「知らんな、余が愚民の事などいちいち気にかけると思うか」
安藤の野郎は相変わらずだ。
伊賀のヤツは、どうしたんだろうな。
明治さんにも聞いてみるか――
「――あ。いっ、伊勢崎さん……」
愛島のヤツが見ている……厄介だな。
こいつの魂胆が見えねぇ今、明治さんと仲の良いところを見せるわけにはいかねぇ。
「さて……授業を受ける準備をしないとな」
教科書に血がつかないよう慎重に取り出す。
五時間目。
今日の五時間目は現代文。担当はモチロン境太郎先生だ。
……愛島の野郎の視線が気になるな。チラチラとこちらを見ては、そわそわしている。
「うっ、お、お腹っ、お腹が痛いですわっ……!」
「……狐鶴綺さん、どうしましたか」
「どうもこうもお腹が痛いと言っていますの……!」
狐鶴綺さん、実際に顔色がよろしくない。
食あたりでも起こしちまったか?
「では、愛島さん。狐鶴綺さんを保健室に連れて行ってもらえますか」
「はっ、はい! 分かりました――」
「――ちょっと待ってください!!」
愛島、テメェさては仕込んだな――!?
「……どうしましたか、伊勢崎くん」
「俺が! 俺が狐鶴綺さんを運びます!」
「とは、言いましても……保健係は愛島さんなので」
怪しい……このタイミングで愛島が指定されるなど!!
確かに、確かに保健係は愛島だったな! 今思い出したが……が、しかし!
「どっちでもいいから……はっ、早くしてくださいましっ……」
「狐鶴綺さん! 大丈夫ですか!?」
「どこをどうみたら大丈夫に見えますの……!」
結局愛島のヤツがサッと狐鶴綺さんを連れて行ってしまった。
もしかしたら今のではっきり悟られたかもしれねぇ、狐鶴綺さんとは仲間だってことを……。
――ぬかった!!
――かも、しれねぇ……。
伊賀のヤツがいなくなった事といい、不穏なにおいがする。
愛島、やっぱりテメェじゃねぇのか……?
五時間目の終わり。
保健室に向かう途中で、俺は帆垣にラインを送っ――ああ、そうだ。
一応朝に少し充電したが、スマホは電源を切ってある。
もしもまたアイツが出てきたら公共福祉的な意味で厄介だからな。
保健室に行くと、狐鶴綺さんがベッドで休んでいた。
「伊勢崎……お前、何しに来たんです」
「狐鶴綺。愛島に何か変なことはされていないか?」
「えぇ……? ここまで介抱してもらって、それだけですわ……」
「そうか。一応、愛島には気をつけておけ。アイツは危険かもしれない」
「あぁ、アンタが言うなら用心しますわよ……。ちょっと……今は、一人にしてくださいまし……」
「……分かった」
相当辛いようだ、そっとしておこう。
もしかしたら伊賀がいなくなったのと同じように、狐鶴綺までいなくなっちまったかもしれねぇ……そう思っちまった。
俺は俺で、愛島を疑いすぎる節があったのかもしれないな。
教室に戻ると、もう六時間目の始まる時間だった――
「――!!!」
明治、さんは……?
いない。
愛島のヤツも、帆垣のヤツもいねぇ!
――やられたッ!!
「クソォッ!!」
「伊勢崎くんッ、どこに行くのですか!」
授業の準備を始めている境太郎先生に止められた。
「先生……明治さんが、いません」
「…………」
「愛島のヤツも、帆垣のヤツもいない……これは、誘拐事件です」
境太郎先生は黙っているままだ。
「先生から聞きたいことは山程あります――が、先生! 今はこれだけ教えてください!」
「……」
「先生は、この事件に関与していますか?」
「……私は一切関与していません」
「分かりました、それだけで十分ですッ!」
「――伊勢崎くん!」
「なんですか、先生」
「お気をつけて」
「……はい」
奴らがどこに行ったかは分からねぇ……!
分からねぇが、何となくなら――
――なんだ、この感覚。
水面に生まれる波紋のようなものが、俺の心に響いている。
波紋が、助けを求めて心の中で響いている。
糸が出ているみたいだ。
どっかから、こっちまで。俺の波紋が響いてる。
俺を呼んでいる――!!
待っていてくれ、すぐに向かう……。
この短時間で何があったのかは分からねぇ。だが、この波紋が俺の心に響き渡る限り俺はこの足を止めねぇ!
――傷口から血がッ! 吹き出してくるみてぇだ!
関係ねぇ、俺はただ突っ走るだけだ……動け、俺の足!!
俺自身、今はどこを走っているのか分からねぇ。
だが感じる。さっきまではどこか遠いところから響いていた……波紋までの距離が、着実に近付いていっている!!
――辿り着いた。
なんだここは……看板に書かれているのは『屠殺場』の文字。なかなか物騒なところに導いてくれたな、一体この中に何があるんだ……!!
駐車場に停められているのは一台のトラックのみ。
トラックでの移動……あり得るかもしれねぇ。愛島がトラックを使って誘拐したってんなら!
とはいえヤツも中々趣味が悪い、『屠殺場』なんていう悪趣味な場所に連れてくるなんてな。
さて、てめぇの悪事を暴かせてもらうぜ……愛島有架。
――待て、中から何か聞こえるぞ。
「おいッ! てめぇこんな事してどうなるか分かってるよなぁ!?」
「アハハハッ! 威勢だけはいいじゃんッ! ねぇッ、アリカッ!」
「うーん。どうだろうねぇー。蕾ちゃん、入り口大丈夫?」
「ハァ、入り口ィ?」
真隣の入り口ドアが途端に開いた――
「だーれもいるわけないでしょッ! あんな短時間でかっさらったんだから伊勢崎のヤツもこんな所にいるとは思わないって!」
危なかった。帆垣の野郎がずさんで助かったぜ。
中から伊賀の声が聞こえた。やはり愛島、帆垣、貴様らだったか。
まさかグループだったとはな、全く思ってもみなかったぜ。
「蕾ちゃん、ここの設定大丈夫かな?」
「あン? どれ――ちょッ、うわッ、何すんだお前ッ! おいッ! アリカッ!」
「フフッ、フフフフッ」
何だ、何が起こってる……?
「蕾ちゃん。蕾ちゃんはもう用済みなの」
「ハァッ!? 何言ってんだお前!! 仲間になりたいッて言うから仲間に入れてやったのに調子こいてんじゃねーぞッ!」
「――ごめんね。でもぉ、もうクラスの大半が出席してないんだよ? 一人くらいいなくなっちゃったってバレないって!」
「おい愛島ァ! テメェ何やらかすつもりだコラァ!」
伊賀の怒声が響き渡っている。どうやら中は相当まずい状況のようだ。
「おいッ! やめろッ! 降ろせよッ! ウソッ! おいアリカッ! 何してんだお前ッ!」
「――やめろ、愛島」
何かまずい事が起ころうとしている。踏み込まなければならない、そう思った。
「――伊勢崎ッ!」
「伊勢崎くんっ!」
「いっ、伊勢崎殿ォ!」
――向こうに見えたその光景に声が出なかった。
皆が両手首を縛られて、一列のレーンに吊り下げられている。
伊賀に、明治さんに、気絶してる狐鶴綺さんに、安藤……なんで安藤まで。
「……伊勢崎くん、やっぱり来た。どうして、分かったの? 私、そんなに分かりやすかったかなぁ」
「お前と似たような女がいた、それだけだ」
真宮麗奈……この状況、正しくアイツを思い出すな。
あの時は狐鶴綺さんだけが縛られていたっけか。
「私、クラスのアイドルだよ? 私が疑われるなんて思ってもみなかったよ」
「俺がどれだけこのクラスで壮絶なイジメを経験したと思ってる」
「……そうだね。伊勢崎くん、すっごい頑張ったもんね」
こいつ、笑顔で何言ってやがるんだ。
――そういえば、帆垣の野郎はどこだ。
「私ね、伊勢崎くんの信頼を勝ちとりたかった。それで裏切って、伊勢崎くんは深く悲しむ……そんな素敵なお芝居をしてみたかったの」
「アピールが少なすぎたな、愛島」
――帆垣を見つけた! レーンの一番右に吊り下げられている!
「オイッ! 伊勢崎ッ! たッ、助けてくれよッ! 愛島のヤツおかしいんだって!!」
「そんなの見りゃ分かる。待ってな、全員助けて――」
「私ね、ムカついちゃった」
「……なんだと?」
「下ごしらえなんてする時間もなく、皆よってたかって伊勢崎くんをイジメてて……気付いたら伊勢崎くん、私が思ってたよりもたくましくなっちゃって」
呑気なことを言ってやがるな、早く皆を助けねぇと!
「伊勢崎くん、私誰かに似てるんだ?」
「待ってろ皆、今助けてやるからな!」
「あァッ! 伊勢崎ッ! 私! 私を最初に助けてよォッ!」
帆垣のやつ……都合がいいな。お前は助けるにしても最後だ。
後でじっくり話を聞いてやる。
「――ねェ、伊勢崎くん。その私に似てる誰かさんって、こんな事できた?」
なんだッ、レーンが突然動き出した!
「おッ、オイッ! アリカァッ! シャレになってねぇってッ! 何やってんだお前ッ! おいッ! お願いッ! 伊勢崎ッ、助ケテェ!」
「――帆垣ッッッ!!」
レーンは――右に動いている!!
帆垣の身体がッ、謎の機械の中に消えていった!!
「ヤダヤダヤダァ! アリカァ! ヤメテ――」
――中からチェーンソーのような音が聞こえた瞬間、帆垣の叫びが途絶えた。
俺から見えたのは、機械をはみ出して飛び散る大量の赤い液体だった。
レーンは――止まった。
「……愛島」
「ふふっ、どうしたの伊勢崎くんっ?」
「愛島ァァァ……」
「伊勢崎くんっ♪」
「愛島アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
テメェは、テメェは何をやったのか分かってんのか!!
「エヘヘ、これじゃあクラスのアイドル失格かな」
「……教えてやるよ、愛島」
「んっ?」
「クラスの奴らはそうだったかもしれねぇが――俺は一度もテメェをアイドルだと思ったことはねぇ!」
「アッ、ハハ。何それ」
「――メチャクチャムカつくんだけど」
チェンソーの起動音ッ!
愛島のヤツ、こんなどでかいチェンソーをどこに隠してやがったんだ。
「ねぇ、近づくゥ? 近付いてみるゥ? ホラァ!」
ドカンッ!
アイツ、後ろの機械のボタンはまさかっ!
クソッ、またレーンが動き出した!
「い、い、い、伊勢崎殿ォ! あまり愛島殿の神経を逆撫でするようなマネはぁっ!」
――クッ、次に近いのは安藤か……!
ドカンッ!
レーンが止まった……。
「あっはっは……あっはっは~♪ 伊勢崎くん、皆はこんな事できた? 今の私、誰かの二番煎じじゃないよねっ♪」
「――そうだな。お前が初めてかもしれねぇ。裁かなきゃいけねぇって、ここまで思ったのは……!」
「エヘッ、そんな嬉しいこと言われちゃうと私ッ――!」
ドカンッ!
「伊勢崎殿ォォォ!!!」
「やめろォ!!」
「分かったよぉ」
ドカンッ!
「エッヘッヘ~? 伊勢崎くん。もう分かったよね? 伊勢崎くんは私には何もできないってコト!!」
帆垣……。イジメっ子のお前は許せなかった。
だが、こんな死に方はしなくてもいい人間だったはずだ。
悪いな、気付いてやれなくて。まさか、こんな事になるだなんて……!
「テメェの――テメェの望みはなんだ」
「なんだと思う……?」
「俺にできることだったら、何でもする」
「ふっふっふ~♪ それじゃあ伊勢崎くん、しっかり選んでね」
愛島は動き出した……レーンの方に向かって。
そして吊り下げられている人たちを、チェンソーで指し始めた。
「誰を、残したいの?」
「――は?」
「誰か一人だけ、解放してあげる」
コイツ――
「変な動き見せたら、チェンソー動いちゃうよ? いいのかなぁ……」
……なんで笑ってんだよ、コイツは。
分からねぇ、どうしてコイツがここまでするのか分からねぇ。
人の命がかかってるんだぞ?
――コイツにはかけるだけ無駄な言葉かもしれねぇな。
あんなに簡単に命を捨てたコイツには――。
「安藤くんはー、遠足で一緒になってたんだっけ? 班決めの時は仲悪かったけど、遠足の時は仲が良かったね」
「ヒッ! ヤダァァ! 僕こんな所で死にたくないィィ!」
安藤っ、まぁこんな時ならそんな声も出ちまうか……!
愛島のヤツ、まさかそこまで監視していたとはな。
「狐鶴綺ちゃんはー、ちょくちょく仲良くしてるよね、伊勢崎くん。そこまで助ける程の人じゃないかな?」
狐鶴綺さんは気絶している。
全員死んでいい人間なんかじゃねぇ。コイツの性根、腐ってやがる。
「伊賀くんとはよーく仲良くしてるよね、一応伊勢崎くんの候補には入るかも、良かったねっ」
「テメェ、後でボッコボコにしてムショに連れてってやるからな」
伊賀……絶対に助けるからな。
「私の本命はねー、やっぱり明治ちゃんかな! 伊勢崎くん、明治ちゃんの事好きでしょ? やっぱり助けるなら、好きな人だよねー?」
「…………」
明治さんはキッと愛島を睨んでいる。
――明治さんがこっちを見た。
「伊勢崎くん、信じてるよ」
「ああ、任せとけ」
「――なんっかムカつくなぁ。チェンソーつけちゃお」
チェーンを引っ張る音が――
「――テメェ、やめろォ!」
「もぉやだぁ、伊勢崎くんは怒っちゃダメでしょ。本当にチェンソーついちゃったら、大変だよ? うふふ~」
ヤツのチェンソーをどうにかしたいが、急いで止めにいくには距離が離れすぎちまってる……。
考えろ、この状況を突破する方法……何かねぇか!
――!!
「……な、なぁ。愛島」
「ん、なぁに?」
「どうしても、選ばないとダメか?」
「……全員死んじゃってもいいってこと?」
「そうじゃねぇ! いきなり選べったって、困る!」
「困るぅ~? 明治さん一択、なんじゃないの? 伊勢崎くんは」
時間を稼げ……時間を稼ぐんだ……!
「あの、スマホでサイコロ振ってもいいか?」
「……もしかしてぇ、警察呼ぶのぉ?」
「いやそうじゃ――」
「ねぇ待って。手動かしたら、チェンソー動かすよ」
……いい、ここまではいい。
「分かった。ただ、どうしても決められない。頼む、サイコロアプリを使わせてくれ」
「――別にいいけど、ちょっと失望しちゃうな。いいよ、伊勢崎くん。ただし、スマホの画面はこっちに見せてね」
「ああ、そりゃそうだな。俺の潔白を証明しねぇと」
愛島の野郎に画面を見せ、スマホの電源をオンにする……。
――そうだ。
俺のスマホは、ハッキングされている!
スマホの電源が点いた瞬間――スマホからは大音量でエッチな音が流れ出した!!
爆音で流れるアハ~ンイヤ~ンな音。
愛島の顔が笑い、何かを喋っている。チェンソーを起動させるつもりはなさそうだ。
――愛島にタックルをかます者がいた。
その者は手が無かった。
その者の腕からは、血が溢れていた。
その者の左半身は、血に塗れていた――
愛島の手から転げ落ちるチェンソー。
ソイツは転げ落ちたチェンソーを遥か彼方に蹴飛ばし――
「――帆……垣……」
「ハァッ! ハァッ! イセザギィ! ヤレェ! サッサとコッチに来いヨォ!!」
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
愛島の顔は恐怖に歪んでいた。
どうやらあの機械の中で、帆垣は一命を取り留めたらしい……だが、重傷だ!
すぐにでも救急車を呼ばないと……!
スマホは電池切れですぐに切れた!
元々充電もまったくしてなかったし、都合がいい!
震え腰を抜かしている愛島を横目に、俺は吊り下げられている人たちを一人ずつ救出した。
「伊勢崎殿ォ! あの愚民は、あの愚民は……!」
「とりあえず警察と救急車を呼んだぜ。助かったよ、伊勢崎」
「……伊勢崎くんっ、帆垣さんが!」
愛島のヤツは、血まみれの帆垣に怯えっぱなしだ……。
「なんで生きてるのォォォォォォ!? 蕾ちゃんっ、なんでぇぇぇぇぇ!?」
「ザマァミロアリカァッ! 生きてんだヨッ! 私ワァ! 私ハァァァァァァッッ!!!」
両手を失くしているにも関わらず、帆垣の奴は愛島を何度も何度も手首で、腕で、愛島の顔を叩いている!
「帆垣! 後は俺たちに任せてくれ……」
「伊勢崎……」
俺が声をかけた途端、帆垣の身体がおぼつかなく――
「――大丈夫か、帆垣」
「伊勢、崎……ごめん、な……」
「――!!……ああ」
最低限の応急処置はした。
止血はこれでできているかは分からないが、とにかく腕にタオルをきつくまいておいた。
左半身のひどい傷は、どうなるか分からない……。
「愛島ァ……良かったな、テメェが一番だよッ!」
「ぶぎぃっ!!」
伊賀の野郎が、愛島の顔面に全力パンチを決めている!!
「ここまで殺してぇって思ったのはテメェが初めてだよ!!」
「ふっ、ふざけないでっ――」
「テメェが一番ふざけてんだろうが愛島アアアアアアア!!!」
伊賀の手は止まらなかった……。
俺も、安藤も、明治さんも、誰も止めることができなかった。
「こちら警察、凶悪事件発生との通報あり! 全軍突撃ィ!!!」
バァン!!
特殊部隊と思われる人々が盾をもってゾロゾロとやってきた……。
「伊賀……後は警察に任せよう」
「チィッ――!」
気持ちは痛いほどに分かる。俺だって、そいつはぶっ殺してぇほどに憎い……。
「伊勢崎、くんっ……私は、私は、諦めないからねっ……! フフッ、フフフッ!」
よろよろと立ち上がる愛島。
「知ってるぅ……? 私、18歳未満だから捕まらないんだよ。精々少年院に入ってさぁ、ちょっと規則正しい生活をして終わりなの……。私、伊勢崎くんの事、見つけだしてあげるからね……! えへへっ……!」
「……愛島。ここでは本物の殺しが起きようとしたんだ。イジメも、復讐もねぇんだよ」
特殊部隊は愛島を囲い、銃を構え始める。
「――帆垣蕾に、そして皆に。死んで詫びろ、愛島有架」
「死ぬわけないじゃないですかっ……。うふふふふ、おかしな人――」
誰からともなく、銃弾が発射された――。
大量のゴム弾をその身体に受けた愛島。その意識が長くもったかどうかは分からない。
だが、ゴム弾の飛び交う時間は相当長かった。多くの者が、何度も、愛島に発砲した。
発砲音が収束したその時、特殊部隊の輪の真ん中には血まみれの愛島が倒れていた。
1年3組21番・愛島有架。殺人未遂犯。
お前の中にある命の価値とはなんだ。何がそんなにお前を狂わせた。
死ななきゃ治らねぇとは、この事だったりするかもしれねぇ。
――できるなら、もう二度と出会わないことを願おう。この生涯。
帆垣は救急車で緊急搬送され、なんとか一命を取り留めたようだった。
「帆垣さん、良かったね」
隣で心配そうにしていた明治さんの顔が、ホッとした。
「そう、だな。ただ、やっぱり両手はなくなっちまうらしい」
「…………」
1年3組35番・帆垣蕾。
俺のことをイジメまくった典型的ないじめっ子だったが、命を張って俺達を助けてくれた。
その勇気は高潔なもので、最大級の敬意を表されるべきものだ。
――ありがとう。
「伊勢崎くん……そういえば、どうしてあそこが分かったの?」
「――え?」
「私だって突然愛島さんに攫われて、どこ行っちゃうのかなんて分かんなかったのに……伊勢崎くんは、すっごく早く到着してくれた」
「……感じたんだよ」
「――へ?」
「あそこにいるって、感じたんだ」
俺も不思議なんだよ、明治さん。
あの不思議な波紋が、俺を導いてくれたんだ。
……波紋に導かれてついていったら、本当に皆がいたんだ。
きっとこれは、偶然なんかじゃない。
俺と明治さんには、なにか特別な繋がりがある。
今、はっきりとそう感じてるんだ。
だって、この波紋はまだ響いている。
俺の心の中で――。




