45話.情報・交錯・困惑、織り交ざりパニックパーティー。
「オーライ! オーライ!」
中国・山東省。
パンダ達の協力によりクレーン車のカゴに乗せてもらった俺は、自由のパンダ像の上部にやってきた。
右手に掲げられた笹の上部には、流竹好の亡骸が埋まっている。
「起きろ!」
強力なビンタをぶちかますと、ハッとしたように流竹の野郎は目を覚ました。
「な、何ヨ! な、何がどうなってるヨ!?」
身体をじたばたさせようとしている様子だが、一切動く気配はない。相当笹の奥まで埋まってしまっているのだろう。
「流竹。なぜお前は突然、中国人の真似事なんか始めたんだ」
「何ヨそれ! 差別アルか!? 私中国人ヨ、お前おかしいアルネ!」
……まだ目が覚めないのか。
「――深く醜い闇」
その言葉をつぶやいた瞬間、ヤツはやけに目を見開いた。
「……やはりそうなのか。お前もまた、深く醜い闇の影響下にあったというわけだな」
九十九の記憶が途絶えた今日という日……突然おかしくなった事には間違いなく関連がある。
……いや、今日ではないかも知れないが。もしかしたら気絶して一日は経ってるかもしれない。
「……ッフ、フフ。フフフフフ」
「どうした、何故笑う」
「アハハハッ……! アッハハハハハハ……!」
これは、情報を聞き出すのは想像以上に難しいかも知れない……。
「おっ、お前今なんて言ったアルか……!?」
「……?」
「ヒヒッ、やっ、闇がどうとか……!」
「ああ、深く醜い闇――」
「ブフッ――アッッハハハハハハハッ! ヒィー!」
こいつ、笹に埋まりながら爆笑してやがる……。
「なーにが! なぁーにが闇アル! ギャッハハハァ! 厨二病こじらせるのも大概にするアルヨォー! イーヒヒヒヒヒ!」
「テメェ、おちょくってんじゃねぇぞ!」
ムカつくコイツに顔パンを決めてやった!
「ギャブッ!!」
鼻血の流れ出した顔からようやく笑いが収まった。
「し、知らんアル……私、中国と日本のハーフなのに皆気にしなさすぎアル……ゴホッ」
血を吐き出しながら喋る流竹。
「ってぇと……なんだァ、テメェ……」
「私もっと、もっと皆に注目されたかったアルヨ……うぇぇ」
血を垂れ流しながら喋る流竹。
「……それだけか」
「……それだけアル」
「オーライ! オーライ!」
パンダ達に指示を送り、クレーン車から降りた俺はパンダの輸送飛行機に紛れて日本に帰国した。
全く、とんだお騒がせ野郎だ。まさか全く関係がなかったとはな。
「拓也! お帰り!」
「ただいま、母さん」
「おう、先飯食ってるぞー!」
「なんでいるんだよ伊賀ァ!」
家に帰って休もうかと思ったが、まさか伊賀の野郎がまた飯食いに来てるとはな。
カレンダーを見ると気絶した日からどうやら一日経っちまってるらしい。
あれから気絶させられて中国送りってわけか。
「力になれなかったのはわりぃが、お前なら簡単に帰ってこれるかなって思ってな」
「呑気なやつだな……まぁ、実際なんとかなったわけだが」
「だろ? 俺だってなんとか流竹の野郎を阻止しようと思ったけど、凶暴なパンダ共に襲われちまってな」
「あぁ、パンダ……」
どうやら学校内でパンダをけしかけたようだ……伊賀はそいつらにやられて、俺は流竹に連れ去られたってところか。
確かにトラックの中には大量のパンダがいた。相手がカンカンだけだったからなんとかなったものだが、あの量に襲われたら俺だって敵わなかったかもしれねぇ。
テレビでは全世界ハイジャックのパンダ革命声明について忙しなく取り上げられている様子だった。
新しい映像が次々と上がっている……着々とパンダ共存計画は進んでいるらしい。喜ばしいことだ。
さて、俺は明日からまた普通の学生とやらに戻るかね――
――と言って、戻れるならば苦労はない。
俺は知ってしまった。俺の裏で蠢く大いなる何かの存在について。
そこに関わっているのは、九十九憑子、城島境太郎先生、そして――プロレマ部の全員。
間違いなく、もっと多くの人間がその闇に関わっているはずだ……。
特に気になったのは、あの日空に生まれた大きな赤い渦巻。
人々を操り世界支配を目論んでいた(らしい)九十九憑子を、赤い渦巻は引き上げようとしていた。
おそらくそれは、九十九を守るという意思からやってきたもののはずだ。
俺には圧倒的に情報が少なすぎる……。
沙濤先輩の口ぶりからするに、恐らくプロレマ部の皆は情報を隠してくる。
一番手っ取り早いのは、先生に聞くことだ。明日先生に聞こう、深く醜い闇について……。
飯を食い終えた伊賀はのんきに帰宅、全くなんて野郎だ。
俺は緊急パンダ対策会見を眺めながら、ちとスマホで調べ物をした。
……ふむ、どうやら日本はパンダとの共存に否定的な意見らしい。パンダは反乱分子となり大変危険な存在であるというのが日本政府の見解、か……。
これは共存までの道が長そうだな。
――さて、と。
本題に移ろう。俺が調べるべきもの……そいつは勿論、『深く醜い闇とは』、と……。
お、ヒットしたぜ。
……なんだ、これは。
『伊勢崎復讐計画』
!!!
なんだこれは、伊勢崎、復讐、計、画……!?
これは誰かの悪ふざけか!?
いや、しかしこんな、ピンポイントで……偶然だとしたら、相当できすぎているぞ!
見るしかない……! いきなりだ、いきなり掴んでしまったぞ! 深く醜い闇の尻尾を……!
「あれっ?」
――なんだ、これは?
突然スマホの画面が真っ青になった。
そして中央には、なんかシャキンシャキンって角張ってる銀色の「S」マークが!!
「オヤ! オヤァ! オヤオヤオヤァ!」
なんだっ、この声は!!
「伊勢崎ィ~! まんまと引っかかったみたいだねぇ! この僕の天才的な大作戦に!」
なんだ、こいつは……!
「――ニヒッ!」
「て、てめぇ! なんだいきなり! 姿を現せ!」
「ちょ、ちょっと拓也どうしたの!?」
「あ、な、何でも無い……」
クソッ! 電源ボタンを押してもスマホが動かねぇ! 強制シャットダウンもできない!
「無~駄無駄! 僕の天才的なハッキングプログラムで君の操作は全て無効化されているん……だ!」
「卑怯なマネすんじゃねぇ! てめぇどうしてくれんだお母さんが買ってくれたスマートフォンだぞ!」
「そう、間抜けな君と大天才の僕、どう考えてもフェアじゃあないよねぇ~~~?」
なんなんだこいつは、クソみてぇな性格をしてやがる……!
「そう、ちょっとしたゲームをしよう!」
「ゲーム……?」
聞き覚えのある単語だ……。
「一定の期間を設けてあげるから、それまでに僕のことを……見つけてみせてご覧! もし見つけることができたらゲームは君の勝ち、ハッキングを解いてあげるよぉ」
「一定の期間……どれくらいだ」
「それは僕の気分!!! 僕が1秒だと決めたら1秒だし、一年って決めたら一年だよぉ~? 精々長く取ってもらえるようにご機嫌取っておいたほうがいいんじゃないかなぁ~~?」
「もし期間内にお前も見つけることができなかったらどうなる?」
「その時は……ニヒヒッ!」
「――大音量でエッチな音が流れる!!!!!」
それは困る!!!!!
「覚悟しろ、地獄の果てまででもテメェを探し出してやるからな!」
「存分に、探すといい……天才の僕が君如きに見つけられるわけがないけど、ね……」
「電源を切れ、このままテメェと繋がりっぱなしってのはフェアじゃねぇだろ」
「僕は君を盗聴している……24時間、いつでも、どこでも……このスマホからね!」
どうやらこいつは24時間ずっと盗聴しているらしい……。
こうなっちまったら仕方ない。
「お母さん、タブレット貸して」
「あら、どうしたの?」
「――うーーんち! おっぱぁぁぁぁーーーーい!! スケベベロベロバァ~~~~~~!!!」
こ、コイツ……!!
「ごめん、友達が悪ふざけで」
「ア、アハハハ……」
目に物見せてやるぜ、謎のクソハッカー……。
タブレットからイヤホンを繋ぎ、大音量で世界一うるさいと有名な音楽を流して誰も使わない物置にスマホを放置した。
「ギャッパ! 耳ィ! 耳ィィー! 耳壊れるゥゥゥーーーー!!!!」
ざまぁみろってんだ。
その夜、謎のエッチな音声が物置から聞こえだしたが電池切れのせいか途端に静かになった。
「おはよう」
「おはよう、拓也」
「起きるのおせぇーなぁ、伊勢崎」
「ちょっとあってね……」
当たり前のように我が家の食卓に伊賀がいやがる……。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。
「はい、誰ですか?」
「伊勢崎くん!!」
明治さん……! 来てくれたのか……!
「良かったぁ……ライン送ってたんだけど、全然反応なくってすごく心配で……!」
「今ちょっとラインが使えなくなっちゃってさ、それじゃ学校行ってきます」
「いってらっしゃーい!」
俺は登校路で昨日の出来事について話した。
『深く醜い闇』について調べようとしたら、謎のハッカーにスマホを乗っ取られた事。
「俺はもしかしたら、志島骸斗の復讐かもしれないと思っている」
「志島……」
Sのマークに、聞き覚えのあるゲームという単語……校舎を荒らし、真宮麗奈を誘拐した危険な男・志島。これはアイツの復讐なのかもしれない。
「闇……」
「明治さんは何か心当たりある?」
「……うーん、闇と言ったら、沙濤先輩!」
まぁ、そんなもんだよな。
「なんだその変な名前の先輩」
そういえば伊賀は知らないんだっけか。沙濤先輩のこと。
「俺達の部活の先輩だよ」
「ふーん」
ずっと謎だったプロレマ部だが、思い返すとずっとプロレマ部の皆に支えられている節がある。
まさか、俺のために設立されていた部活だったとは……しかし不思議だ、なぜ俺なんだろう。
「……『伊勢崎復讐計画』」
「それをネットで見つけて、そいつをタップしたらスマホを乗っ取られたんだよな」
「あぁ」
偶然とも、イタズラとも、思えない。
気になるのは伊勢崎拓也復讐計画でなく、伊勢崎であるということ。
もしかしたら、行方不明の俺の父さんが関わっているかもしれない……!
『行方不明の父さん』といえば、父さんから送られてきた『コケシ』というメッセージ……。
何も知らないまま俺に卒業してほしい『プロレマ部』という存在……。
突如現れた、『伊勢崎復讐計画』という可能性……。
今、俺を取り巻くこの環境は……一体……。
「……伊勢崎くん?」
「あぁうん、ちょっと考え事してて、さ……」
『深く醜い闇』。
そこに明治さんが関わっているとは、思い難い。
「そういえばSっていうとよ、冴田のヤツもいるじゃねぇか」
「……冴田」
1年3組8番・冴田天之助。
メガネをかけたインテリ野郎、髪から顎までシュッとしてて気取ってるいけ好かねぇヤツだ。
見た目とは裏腹に結構積極的に俺へのイジメに加担してくる野郎で特に印象的だったのはぐるんと白目剥いて半狂乱になりながらシャーペンでザクザクと俺の顔をぶっ刺してきたこと。
俺をイジメている間、アイツは異常なまでに笑っていた。
「あり得るかも知れねぇ」
正直言って、アイツの可能性は未知数……見た目だけだとハッカー紛いのことは確かにできそうな印象がある。
珍しい三人登校、俺は教室に着くや否やイジメの歓迎を受ける。
「よう餃子の伊勢崎ィ! 調子こいて授業中に餃子なんか食ってんじゃねぇぞハゲェ!」
「伊勢崎テメェ目玉ひん剥くぞワレェ!」
「しゃらくせぇ! 死ねぇ伊勢崎タゴォ!!」
心なしか、いじめっ子達の密度が薄い気がする。
もう大部分を病院に送り込んでしまったからな、ちと寂しくなる。
早速朝のホームルームが始まった。
境太郎先生も分かっているのか、淡々と欠席扱いで済ませていく。
「……先生、冴田は?」
俺が聞くと、境太郎先生はメガネをくいっと直した。
「どうやら耳が痛むようで……欠席です」
――間違いねぇ、俺のスマホをハッキングしていたのは冴田のヤツだ!
どうやら昨日の大音量音楽で耳を痛めたようだな。
しかしこうなると逆に都合が悪かったか、ヤツの家の場所を俺は知らねぇ!
授業は淡々と始まり終わる。簡単に昼休みに移ってしまった。
「ちょっとォ、アリカ! アンタやるんでしょ!? ほらッ、さっさとやりなさいッて!!」
「あ、あぅ……」
「何があぅ、よッ!」
何だ、いつもと様子が違うぞ……。
今日は見慣れないいじめっ子がやってきたもんだな。
「ほらッ、アンタもイジメに加担したいんでしょッ!? だったらさっさとやるのッ! よッ!」
この強気なちっこいツインテールのガキは、もう何度も見た。
1年3組35番・帆垣蕾。
一言で言えば生意気。典型的ないじめっ子。
よく俺の髪を引っ張ったり、肌をつねったりしてくる。
子供らしく地味に痛いイジメを繰り返すのがこいつの特徴。
「え、あ、うぅ、えぇいっ!」
ふんわりしたパンチだ。彼女の雰囲気と同じくらいに。
1年3組21番・愛島有架。
このクラスで俺イジメを行っていなかった数少ない人間。
ゆるふわな雰囲気を醸し出してて、珍しくピンク色の瞳をしている。
そのふんわりしたゆる~くちょっぴり長い髪が特に男子の中じゃ人気、クラスの中でもアイドル的な存在だ。
そんなクラスのアイドル様が、帆垣の野郎によって、無理やりイジメに加担させられている、といったところか。
「――はぁ、全く。呆れるぜ、クラスのアイドルのあの愛島有架がイジメに加担とはな」
「あ、うぅ……本当は私、こんな事したくなくて――」
「――なァーに言ってんのよ! アンタがイジメてみたいって言ったんでしょ! 気に食わないのよその態度、カワイコぶってんじゃないわよッ!」
「もういい、よせ」
全く幼稚だ。帆垣の野郎も帆垣の野郎だ。
「いいか、俺はもうこのクラスでそれはそれは凄まじい数のイジメを受けてきた」
「そうよッ! ほら、アリカ! アンタがイジメたところで何も変わんないのッ! さっさとやりなさいよ自分から言ってきた癖に!」
「あぅ……」
「だから何があぅ、よッッ!」
「――だからよ、お前ら。俺にはもう分かっちまったよ。そのくっさい芝居にな」
「しばッ――はぁァ? なァに言ってんのよ分かった風に言っちゃって生意気なんだよッ! 伊勢崎ィッ!」
乱暴な口調でグイグイと乱暴に髪を引っ張ってくる帆垣。
「――なぁ、愛島」
「……へっ?」
「そのくさい芝居をやめろ、愛島有架」
こいつからは真宮と同じにおいがする。
「お前が何を目論んでいるのかは分からない。だがてめぇのその動きは非常に芝居くさい」
俺が愛島に詰め寄ると、愛島は同じだけ後ずさりする。
怯えているつもりか……その目は全く震えていない。
「え、そ、その――」
「――伊勢崎テメェゴラァ!!」
後ろから思いっきり髪を引っ張られ――
「テメェなァーにアリカに触ろうとしてんだァ? えェ!? 男子ってのはいつもそうだなァ、きンンもちわりィ!!」
かつてなく乱暴な口調の帆垣が俺をぶっ飛ばし始めた。
顔をぶん殴られ、蹴られ、無理やり土下座され、雑巾を食わされ、掃除用モップで尻を何度も叩かれた。
「――なぁ、帆垣。正直に言ってみろ」
「えェ?」
俺の顔はもうアザだらけのボロボロだ。
帆垣のヤツは俺の髪をひん掴み、無理やり顔をあげさせた。
「お前、愛島にやらされてるな?」
「……はァァ? アンタ自分が何言ってんのか分かるゥ? あのクラスのアイドル愛島有架がアンタ如きをイジメようとするわけないでしょ――」
「――今、何て言ったんだ?」
ハッとした帆垣。
「そりゃそうだ、あのクラスのアイドルが俺をいじめようとするわけなんかないな……」
さぁ、お前はどう答える。帆垣。
「――だーかーら、私だってびっくりしたのよッッ!! こいつがッ! お前をッ! いじめてみたいッてッ! 言ったのを聞いたから、さァッッッ!!」
俺の顔は何度も何度も床に叩きつけられた。
帆垣の手はいつにもまして容赦が無ェ。
「オラァァァァッッ!!!」
強い勢いで俺の顔が地面にぶっぱなされた。
「……そうかい」
よろよろと起き上がった俺に、帆垣は度肝を抜かれたみたいだ。
「だったら存分にイジメてみろよ……愛島有架。」
「ひぃっ、ひ、ひどい、ひどいよ帆垣さん、こんなっ、こんな……」
「……フンッ、イジメるってのはつまりこういうことよ! ほらアリカ、やっちまいなさいよ! ダイジョーブ、伊勢崎は相当タフよ?」
「いや、ひ、ひどい……!」
「ほらァ、アリカァ……!」
愛島有架の右手を掴む帆垣。
「やれェ!!!」
「――嫌アァァァァァァァァァァ!!!!」
帆垣は愛島の拳を使い、俺の顔にトドメを刺した。
鼻血も出血も止まらねェ……。
「……ハハハッ、アハハハハァ! アリカァ! そうだよォ、これだよォ! アンタァ、やればできるじゃないのォ!!」
「伊勢崎サァン!!! 伊勢崎サァァァァァァン!!!」
帆垣の笑い声が聞こえる……。
ひどく揺さぶられるのを感じる……。
これは、恐らくは愛島の手か……。
「あっ、コイツまだ動いてるゥ!」
騙されねェぞ……愛島……。お前からは、嘘くさいにおいが、ぷんっぷんするんだ……。
絶対に、騙され、ね――
「オラァ!!」
畜生、が――。




