42話.その女が見る命とは弱々しく、価値なく脆い。
九十九の身体は吹き飛び、屋上のフェンスに打ち付けられた。
拳を振り抜いたまま、明治は吹っ飛んだ九十九をじっと見ている。
「なっ、なんで……」
フェンスに埋もれた九十九が、ひしゃげた顔のまま微かに漏らす。
――身体が突然軽くなった。
「『動くんじゃ……ない』」
「くぅっ」
ヤツの一言で俺の身体はぴくりともしなくなってしまった……。
俺には理解できない、何が起きているんだ。
明治は意に介さず九十九の方へと歩みを進める。
いつもと変わらぬ後ろ姿だが、どこかが違う。
「今すぐ全部元に戻して」
明治の口から出たものとは思えない、荒々しい語調だった。
「お前、一体何なんだよ……」
九十九の首根っこをひんづかみ、より深くフェンスに身体を埋め込ます明治。
「戻して」
「――『明治こけしを攻撃しろ』」
!!!
「――ッ!」
有り得ない、そんな事は。
だが、俺がやっている事は紛れもなく事実なのだ。
明治を九十九から引き剥がし、地面にその身体を叩き伏せていた。
「カハッ……?」
「ふぅ、危なかった。この際何でもいいや。お前、『明治を殺しちゃえよ』、ハハハ」
明治こけし、お前はずっと俺の味方をしてくれていたな。
しかしどうだこいつの本性は。結局この女も、他のいじめっ子共と変わらないのだ。
俺はお前のような卑劣な人間を、絶対に許さない――ここで命を絶ってやる。
手を明治の首にかける。ためらう事などあろうか、この女はこうされて当然のはずなのだからな。
「なんて便利な力なんだろ。フフフ、ねぇお前、明治。これは私に逆らった罰だよ。力の差を弁えたほうがいいんじゃないかなっ、ハハハハ!――あー痛かったぁ!」
「伊勢崎くんっ、やめて……」
「やめるかよ」
――おっと、怒りのあまり忘れていた。こいつには最期の最期まで罪を自覚しながら死んでもらわなければ。
「死んで俺に詫びろ、明治こけし」
「……お願い」
俺の手を解こうとしているのか、小さな手を重ねてくる。
無意味だ。この女は殺さなければならない人間だ。
絶対に生かしてはおけない。
殺せ、この女を。
殺せ、伊勢崎拓也。明治こけしの命をその手で絶て!
なぜ手を動かさない、伊勢崎。
動かせ、早く首を絞めろ。ああ焦れったい――
「私は『早く殺せ』と言っているんだぞ! 伊勢崎ぃ!!!」
「誰を殺すって?」
「だから明治こけしを――」
目の前が見えない、真っ暗だ。まるで大きな闇に包まれているような……。
「言うだけなら、なんとでも言えるってものだな」
この声、沙濤先輩……?
「なっ、何も見えないぞ! 何だこれ!」
「伊勢崎、あまり動くな。食事の邪魔になる」
しばらくして、ようやく目の前を包む闇が消えていった。
そして先ず目の前に入ってきたのは、俺の手が明治さんの首にかかってる光景で――
「めっ、明治さん!? だ、大丈夫だった!?」
何故か明治さんは、突然笑った。
「うん、全然平気」
後ろを向くと闇の塊、そしてボロボロな九十九がいた。
「ふ、ふざけるな……。私が、私がようやく手に入れた奇跡の力が……なんだよ、なんなんだよこれぇ!」
半狂乱になって喚き散らす九十九。
今まで起きていた不可解な現象は全てこいつの仕業だってことだな。
「クソッ、『そいつを攻撃しろ』! 伊勢崎!」
「俺か」
――そうか、沙濤先輩も俺を裏切っていたのか。
許せねぇ。明治はともかく、こいつだけはやっつけなきゃいけねぇかもしれねぇ。なぁ、沙濤――
そこにいたのは、俺の知っている沙濤ではなかった。
獣のような、人のような、それでいて竜のような……。
とにかく大きく、ひたすらにおぞましく、真っ黒で邪悪な化物がそこにはいた。
吊り上がりねじれた大きな二つの瞳が、強く光っている。
身体が震えて動かない。
「ああ、さては俺の姿が見えているな?」
沙濤の足が無数の蛇のように変形し、うごめくように這うと俺の後ろを取る。
獣のような鋭い黒爪が俺の首にかけられる。
情けないことに、身体は一切動かない。
「そう震えるな、お前の中に巣食う波動を食らってやる」
その爪はズブズブと俺の身体の中に沈み込んでいき、それは非常に気色が悪かった――
「うわあああああああああああああああああ!!!!!」
――お、俺は、どうなった?
どうやら無事なようだ、明治さんも起き上がろうとしているところみたいだし。
「って何だこれ!?」
お、俺の身体が! 俺の身体に!
なんかぴっちり黒いのがひっついてる!!
ダイバースーツみたいに、うわ、手なんかやばいなこれ、水かきがでかい、完全に半魚人だ!
「沙濤先輩、こんな事できるんだ……」
明治さんが感心してるご様子。
「『こ、攻撃しろ! そいつを攻撃しろ!』」
九十九の奴が何か言っている。一体誰に向かっていってるんだ?」
――そうだ、さっきまでなら、ここで突然俺の思考が操られるように動いていたのに、今はそうなる気配が一切ない!
「この空間に蔓延している特殊な霧を俺が防いでいる。これでお前も操られる心配はない」
お、俺の中から沙濤先輩の声が……。
「ほら伊勢崎。思いきり……やれ」
右手に付着した黒い水分をさっと拭き払い、九十九に詰め寄る。
こいつは、俺に明治さんを殺させようとした。
俺の身体を、精神を、隅々まで破壊するつもりだったのだろう。
――生かして帰してなるものか。貴様にはこれから地獄に行ってもらう。
「ハハ、奮わせる必要はなかったみたいだな」
沙濤先輩、俺は最初から、この気持ちにブレーキをかけるつもりなんてない!
「死にさらせ、九十九憑子!」
瞬時に駆け寄り、真黒の爪がヤツの首元を捉える!
「――グゥッ、ダハァッ!!!」
九十九の野郎、肘打ちでフェンスをぶち破りやがった!
そのまま校庭に頭から落下――
「――お前ら、『私を受け止めろ!』」
校庭にいた昼休み中の遊び盛り生徒達が、やつを受け止めるためか群がってきている!
「逃がすかよ!」
沙濤先輩の力を信じ、俺は奴よりも早く落下し、やつに追いつく!
「ぐぅっ」
やつとの距離が詰まるほど、やつの顔が緊張に歪んでいくのが分かる。
この勢いのままヤツの喉元に食らいつき、喉からはらわた引き摺り出してやる!
貴様への報いはもっともそれだけでは足りんモノだがなァ!!
「おいお前らっ、『私をかばえ』よ!!」
なんだとっ、九十九の下に群がる生徒達がぴょんとジャンプし、九十九の盾となるために飛び上がってきた!
簡単に他人の命を利用するその精神! ますます貴様を許せなくなった!
「ガハハハ、私を止められると思ったらもおーもおーもおお間違いでぇーーーす!!」
こいつらは俺へのいじめに加担してきた罪人、だが、だからといって操られているこいつらを攻撃するわけにはいかねぇ! 何よりこいつらにてめぇの罪を自覚させることができねぇ!
九十九は無事に着地し、生徒達に自分の身体をガードさせている!
九十九を守るためにジャンプした生徒たちは、着地の衝撃を耐えようともせず、そのまま脚をグッキリと折って着地し、地面に崩れ落ちた!
「――っっっ! おい九十九! これはなんだァ!」
「おまおまお前が攻撃してくるからぁぁ、私も余裕がないんだよおお!?」
声を震わしながらも余裕そうに答える九十九。
「全生徒の全行動を操り、全生徒が私を守るために行動させているのですが、お前が私を全力をもってして殺そうとするのだから全然全ッッッッ面的に貴様が悪いってことを自覚しろ伊勢崎拓也アアァァァ!! お前達、『そいつを殺セ』!!!!」
九十九の周りに張り付く生徒達――なんなら上部にまで蓋するように張り付いてるやつもいる。
そいつらの一部が、俺を殺しにかかってくる。
とはいえ一般生徒の攻撃、沙濤先輩を纏った今なら余裕で回避する事ができる。
全ての動きがのろい! しかし全校生徒が襲ってくるというこの物量!!
どんどん身体がヤツから離れていく――いや、決して逃しはしない!
ここまで奴との距離が離れたってことは、やつとの間合いを瞬時に詰めれば九十九の周りは現在手薄の状態!
そこから生徒をかきわけ九十九を掴み上げるのは造作も無いことであろう!
さあいくぜ先輩、全速力をもってして俺はこの間合いを一気に――詰める!
黒い粒子は氷上を滑るよう大地を駆け抜け、奴との間合いを正しく、一瞬にして――
詰め、たっ……
「境太郎、先、生……?」
その長い脚が俺の目前に立ち塞がり、視界は宙を滑り大きく何度も回転した……。
右足、左足、右手……三点で身体を地に支え、幾度とない回転で衝撃を和らげようやく静止する。
黒い粒子が水を切るように強く跳ねる。
「九十九さん、これは、何の、マ、ネ、ですか」
「アッハァ先生ィ! 来てくださったんですねェ!」
先生は操られながらも、何とか抵抗している様子だった……。
しかし、その先生の蹴撃、たまらなく速く強いものだった事を俺の身体は思い知らされた!
あの一撃で九十九から離された距離、おおよそ70メートル!!
「見てください先生ィ! 私は、とうとう偉業を成し遂げましたァ!! この奇跡の力があれば、私は、私達はっ、世界だってたやすく奪えてしまいます!」
「……やめなさい、九十九、さん」
なんだ……世界って。
この霧は確かに危険だ……だがそんな幼稚なスケールじゃ、世界ってもんは測れねぇ!
沙濤先輩、その力を見せてやってください!
「あの先公は殺すのか?」
「いいや、先生は殺さない。とにかく九十九を引きずり出す!」
「……そうか」
グラウンドを滑走し、引き剥がされた距離を瞬時に詰め寄るッ!
「っ伊勢、崎くん」
先生の脚がまたも襲いかかる、俺はそいつに腕で応えた。
「はい、先生」
「こう、なってしまったのは、私、の、責任、です……」
「――ッ!」
先生、何か関係があるのかっ!?
「――誠にすみませェん!!」
見えなかった、その咄嗟の回し蹴り……。
宙に浮き、落ちてくる俺の身体を迎えるよう、再び先生の脚が――!
直後、俺の背から地面に向け、黒い柱が植物のように生えていく!
そいつは俺の身体を宙に留め、先生の足蹴りは柱をブチ飛ばした!
――そうか。これは、チャンスってヤツだ。
ごめんなさい、先生。
俺の足に黒く重い粒子が着々とへばりついていく。
超重量級の鈍器と化したこの足を、先生の頭に振り下ろした――
その首は前へと倒れ、バネのような反動で後ろへとのけぞって倒れていく……。
「伊勢崎くん……頼み、ましたよ……」
先生はそのまま気絶した。
――前々から先生は何か隠していると思っていた。それを今日ようやく確信できたが、しかし……
まさか本人の口から告げられるとは、な。
この現象が境太郎先生と関係していること、そしてどうやら九十九もそれに関わっているようだということ、それは分かった!
だが今は――
「テメェだけは絶対に許さねぇ、九十九……憑子ォォ!!」
沙濤先輩の力、どう扱えばいいのか大体要領は得た。
この力が万能かつ柔軟かつ強靭であるならば、こんな事も可能なはず……ッ!
滑走し詰め寄る九十九との距離、生徒の壁でヤツがどんな顔をしているか分からねぇが、相当焦っているはずだぜ。
「クゥッ……お前たち『隙間なく埋まれェ!!』何があっても私にそいつを近付けるなぁ!!」
なんと生徒達はその言葉通り、脱臼しようと構わず、ぎゅうぎゅうと身を寄せ合っている様子だ!!
――これはもう、一学校のイジメの問題として解決できるものではない。
こんな大勢の命を、自己の保身のために利用するなど……。
悪質だ。どうしてお前達はそこまで他人をモノのように扱えるんだ……。
生徒達の壁に直面した俺の身体は、細かな黒い粒子となり壁の中を駆け巡っていき――生徒の壁をすり抜けた先、俺は九十九憑子の身体を攫っていった!
「ハヘッ!?」
粒子は徐々に身体を構築、奴の首根っこを掴んだ俺は、ただそいつをジッと睨む。
若干くまのついた、怯えた目。それはひどく涙に溢れていた。
――こいつは、子供だ。
ただ強大な力を得ただけの子供だ。己の強い力を楽しみ、その地位が脅かされる危険、可能性を知らなかった。
立場が覆されるかもしれない、そんな状況に対面した事が無かったのだろう。
今ヤツを取り巻いているのは、おそらくは人生でたった一度訪れた純粋な恐怖。
――負ける。
それはひょっとしたらこいつにとって、死にも等しい概念なのかもしれない。
「復讐の時間だ、九十九憑子」
「ハヒィッ! ヤァッ! ヤダァァ! ヒャダァァァァァァァ!!!」
黒い粒子がふつふつと俺の手に集まってくる。それは集えば集う程、巨大な手を形作っていき、巨大に成るほど九十九はより高く宙に浮かんでいく。
掴んでいた手を放すと九十九は落下し――
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
奴の身体を横からかっさらうよう握りつぶした――
なんだ、やつがいなくなったぞ……いや、違う、これは!!
何故か奴の身体が上へ上へと登っていく!!
「ヤ、イヒャ、ヤメヘ――エ? えっ、え? あれっ!?」
何だ、アレは……!?
空に巨大な赤い渦巻が現れ……そこから伸びた黒い糸が九十九をすごい勢いで引き上げているぞ!!
「あっ、あぁ、アッ……ハハ。ハハハハッ! ハハハハハァ!! 私はあ! 私は価値のある人間なんだあ! お前より! 貴様なんかより! テメェごときなんかよりもォ! 断然断然断然断ッッッッ然価値のある人間だったって事だあ! 私に生きろと! 死ぬなと! 神様が言ってるんだァァァハハハハハハハハ!!!」
――途端に調子づいたな、九十九。
今日は何がなんだかわっかんねぇ事ばっかりだ。
でもな、九十九。これだけは確かだって事が一つある。
お前は明治さんを殺そうとした。俺の身体を操り、戯れにと。
「どうだろうと関係ねぇ」
俺が力を込めるたび、黒い粒子が両手に集う。
「貴様に理解させてやる」
その両手は巨大に、さらに大きく、黒くおぞましくなっていく。
「ギャッハハハハハ!! ハハハハ! ハハハ――ハハハ……ア、ハ、ハハァ……」
「死んで命の価値を知れ、九十九――」
その両手は中央に九十九を捉え――
「――憑子オオオオォォォォォッ!!!!」
容赦なく、奴の身体を強く握り潰した。
手と手の間に生まれたうごめく闇は、埋もれる九十九をもみくちゃにし、揉まれ揉まれつ、黒い黒い闇の中へと沈んでいく。
「イヤアアアアアアハブッ……ゴボッ、ゴホッ、ヤダァ、ヤダッ、ガボォッ、ゴメンナサッ、ゴボボッ、ユルジデエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!」
きっとヤツの目には黒い闇だけでなく、自信の犯した罪の数々が姿を映し出しているだろう。見えず隠れていた己の罪を自覚した時、やつはどうなる……?
「女、お前に巣食う強大な波動は俺が全て食らいつくしてやる」
「ンモッ、モゴォッ、モゴオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
黒い雨が滴る。
雨にうたれたものは皆、狂的な洗脳から解放され自我を取り戻した様子だった。
「ぐがぁっ、肩がいてぇ……!」
「なんで、俺はここに……?」
そして雨は、俺の心も癒やした……。
みるみると、身体中に走っていた異変が溶けていくのを感じる……。
俺はきっともう、化け物じゃない。
人に戻ったはずだ。
沙濤先輩の闇は次第に俺の身体から離れ、空気の中に消えていく。
揉みくちゃにされたヤツの身体が、ぼとりと落ちてきた。
1年3組31番・九十九憑子。
お前と接してきた時間は少ないが、お前という人間がどういうものかはっきりと分かったよ。
恐怖を覚えたお前は罪を自覚し、永遠に解き放たれる事のない自責の枷に苦しめ。
赤い渦巻は切られた糸を引き上げ、糸が引き込まれるのと共に消えていった。
学校には沢山の救急車がやってきた。
九十九のやつが自衛のために無茶をさせた生徒たちもそうだが、俺を殺せと奴が命令した時に身体能力まで大きく引き出したようで、それに耐えきれず身体の強い痛みを訴えるヤツが多く出ている。
俺は、沙濤先輩のおかげでなんとかなった。
沙濤先輩がいなかったらどうなっていたことだろう……その時は、用意されていた最悪のシナリオが予定通りに遂行されていただけだろうか。
……俺自身は、あまりにも無力だった。
「先輩、ありがとうございます」
「構わん、これが俺のやるべきことだ」
掴みどころのない闇に戻った沙濤先輩は、どこかに霧散していった。
――途端、頭に何かが張り付いてきた。
視界が、真っ黒になる。
「お前が何も知らないままこの学校を卒業する、それが俺たちの使命だったが……隠し通すのはどうやらハナから無理だったみたいだ」
動けない。首元で何か、鋭いものがつうっと動いた。
「知れ、伊勢崎。お前の裏でうごめく、深く醜い闇を」
すうっと、視界は明るくなった。
「沙濤、先輩……」
俺の裏でうごめく、深く醜い闇……。
――明治さんを放ったらかしだ、急ごう!
明治さんは屋上のフェンスによりかかって休んでいた。
「伊勢崎くん……」
俺の姿を目にして、ハッとしたみたいだ。
そう、俺の身体はもとに戻っていた。さっき水道に反射した自分の姿を見て、はっきり確認できたんだ。
「よかったぁ……」
明治さんの顔が、優しく笑った。
「明治さん……」
「えっ」
嬉しかった。
明治さんが俺を守ってくれたこと。
明治さんが俺のために戦ってくれたこと。
明治さんが俺を信じてくれていたこと。
「――ありがとう」
「あ――」
「……うんっ」
とても、温かい。
後日俺は病院へ向かう。
アイツには聞かなければならないことがある。
――俺が知るべき、深く醜い闇について。
――明治さんからラインが来た。なんだろう。
「あの」
「学校一緒に行きませんか」
なんだかちょっぴり距離感ある聞かれ方だ。
今病院に向かっているところだし、その旨を伝えるべきか――
――あ、あ、あ、
あ、あーーーーーーー!
そうだ昨日俺はなんか感極まってついついつい、つい、つい!
明治さんをだだ、だ、だき、だき、抱きしめちゃったんだよ!
それで、それ、それそれでちょっっときょり置かれちゃったっかかなぁぁ?
あれあれだあのっとにかくライン返さないとっ!
「はい」
「あいや」
「あの」
「はい」
「びょういんいるので」
「けがしましたか!?」
「ちがう」
「びょういんのとこ」
ああぁあぁぁああああああぁあぁあぁああぁあぁああぁあああ!
「病院行ってます」
「そうですか・・・」
「おだいじに!」
ちっ、ちがううううううううううううう!
「聞きたい事あって」
「なんですか」
「病院向かっています!」
「昨日けがした人にききたいことあって」
「病院いってやす」
「じゃあ一人で学校行きます!」
「気をつけて!」
「はい!」
…………。
……これで、よかったのか?
個人的な興味があっただけなんだ、病院なんて行かず、一緒に学校行ってた方が丸く収まってたんじゃ……。
いやでも、もう言っちゃったし……やっぱり一緒に行くとかそういうのは、なんか恥ずかしくない?
でも、やっぱり言った方が、いや、うーん……。
病院早く行って、聞きたいこと聞いてさっさと学校行くか!
――ここでもない、この病室でもないッ!
やつは一体どこに収容されている!?
「ここか!」
見つけた! 奴の名前の刻まれたネームプレート!
勢いよく病室のドアを引いて、開けるッ!!
「――ハァっ、ハァ……やっと見つけたぜ。事は急を要する、知ってることを全て話してくれ……九十九憑子」
ヤツの暗く赤い、やつれた瞳は、力無げにこちらを向いた。




