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37話.私利私欲に充ち満ちた、傲慢なるテロリズム。

 俺はよくこんな妄想をしている。

 学校にテロリストが攻めてきて、俺がそのテロリスト共と戦い人質にされた生徒たちを救うっていう妄想だ。

 他の生徒達、いや、先生までもが怯えて縮こまっている中、たった一人俺だけがテロリストに立ち向かい完膚なきまでに叩き潰してやるっていう妄想。

 テロリスト共は全員お縄につき、平和になった校内から湧き上がる声といったら、「きゃー伊勢崎くん素敵!」「伊勢崎お前のこと見直したぜ!」といったような数々の称賛の声。

 そして明治さんにも同じこと言われて、もうちょっと良い仲になってしまったりもする。


 全く呑気なもんだな俺も、退学までのタイムリミットが不明瞭なまま理不尽な現状に立ち向かっているというのにいつものクセが抜けない。

 本当だったらこうしてだらだらと朝のホームルームを迎えるわけにもいかない、プロレマ部の先輩たちの話をきちんと聞いて、来たる敵に備えるべきなんだが……どうも気だるげだ。

 ずっと緊張していたせいもあってか、一瞬気が抜けると突き抜けてだらだらとしてしまう。本当にこのまま退学になるのか、むしろ不思議にすら思えてくる。

 島崎圭吾のやつも俺が繁華街にいただけで退学処分とか本当にそんな事ができるのか怪しい、もし実際に退学なんてさせられたら俺は抗議のデモを起こしてやろうかとも考えている。

 ニュースになれば美味しいもんだ。

 ……要するに、俺はこの現状に慣れてしまった。


「伊勢崎くん、おはよう」

「おー、明治さん。おはよー」


 心配そうだが、それでも明治さんは笑顔で俺に挨拶してくれている。

 本当に明治さんはすごく優しい人だと思うよ。


 さて、明治さんが来たということはそろそろホームルームの始まる時間だってことだ。

 いまにチャイムが鳴るぞ――ほら鳴った。


 キンコンカンコン、チャイムが鳴って境太郎先生が到着。

 それじゃお決まりのように出席タイムだ。


 足立は、欠席。安藤、


「はい!」


 安藤のやつは出席のときは随分と元気そうだ。

 ほんで伊賀、


「はーい」


 間抜けた返事だ、全く。


「伊勢崎くん」

「はい」


 俺は勿論しっかりと返事させてもらうぜ。


 織田の奴はバイクで吹っ飛ばされてからずっと欠席だ。


「……烏小路(からすこうじ)驟矢(しゅうや)くんについて、何か知っている人はいますか?」


 1年3組6番・烏小路(からすこうじ)驟矢(しゅうや)

 いつも笑いながら俺をイジメてくる野郎だ。

 こいつは俺をダーツの的にして遊んできたりもする、おまけにダーツに使う矢も本物に近いらしく、すごく痛い。

 更にひどいのはダーツの先端にネズミの糞を塗りたくってそれを刺してきたってことだ。あのときは本気で殺しにかかってるんじゃないかとすら思えた。

 にしても欠席したのかざまぁねぇぜ、大方汚ぇもんばっか使うから何か変な病気でも貰っちまったんだろうなぁ?

 上からも下からも大洪水だったら是非あいつの姿を写真に収めて学校中に配り散らしたいものなんだがな。

 こうなりゃ見ものだぜ、いつも一緒にいた呉威戸(クレイド)の奴もやつがいないとなればアワアワすんじゃねぇか――


「おや、呉威戸(くれいど)蛮暉(ばんき)くんも欠席、と……」


 何だと……?


 1年3組7番・呉威戸(くれいど)蛮暉(ばんき)……。

 あいつはいつも烏小路(からすこうじ)の野郎と一緒に俺の事をイジメてくるんだ。

 いっちょ前に髪を赤く染めてやがるイキったヤンキー、大抵のイジメはこいつ考案で、それを烏小路(からすこうじ)と一緒にやるっていうのが奴らの常套手段。

 この前なんかぼっとん便所に溜まっていた糞を二人でゴム手袋使って俺に投げつけるという過去最高に悪質なイジメをぶちかましてきやがった。

 こいつらのイジメは大抵汚ぇんだ、あまり言及もしたくないほどにな。

 ヤバイ云々以前に、単純にあいつらの事は嫌いだ。


 烏小路(からすこうじ)のやつが欠席したという情報にしめたものだと思ったが、呉威戸(クレイド)の奴も一緒に欠席というのは、正直嫌な予感しかしない。

 何事も無いことを祈るばかりだ……。


「それでは出席を続けましょう、8番――」


 ――割れる窓ガラス、黒いロープと共に突入する黒ずくめの集団。

 騒然とするクラス、悲鳴をあげる女生徒、動じぬ境太郎先生……。


「お前ら全員地面に伏せろ!!」


 目出し帽を被り、銃を持った男が声高に叫ぶ!


 こ、こいつら、まさかテロリストか!?


 この野郎、業者がすばやく取り替えて新しくしてくれた窓ガラスを早速割りやがって……!

 そんな事を気にしている場合じゃない、窓際には明治さんが……!


「おいそこの女、地面に伏せろと言っているんだ!」

「ヒッ」


 こんな時に限って明治さんが……!

 腕から血を流してうずくまっている明治さんに向かって、五人のテロリストが銃を突きつけている!


「――おめぇら絶対に許さねぇぞォォォ!!」


 俺の身体は考えるより先に動いていた。

 目の前にいるテロリスト共が、俺はどうしても許せなかった……

 なんで、明治さんが狙われなくっちゃあいけないんだよッ!


 奴の後頭部に、俺の拳は容易く入った。


「グアッ!」


 クソッ、流石にこれだけじゃ怯むだけか!

 だが構わねぇ! このまま追撃で叩きのめしてやるっ!


「このガキ舐めやがって! ぶっ殺してやる――」

「おやめなさい」


 ――その瞬間、長い足がテロリスト二人の足元をかっさらい、転倒させた。

 このとてつもなく長い脚の正体は……境太郎先生だった!!


「伊勢崎くん、衝動的な行動は感心しませんね」

「せ、先生……!」


「な、なんだよこいつ……!」

「身長、た、たけぇ……!」


 境太郎先生の思わぬ加勢に震え上がるテロリスト共、手に持った銃までもが恐怖でガクガクと震えている。


「オラァ!!」


 そいつらをボコボコにするのは、今の俺にとってとても簡単なことだった。


「ぐべぅっ!!」


 テロリスト共の鼻をへし折り、顔面をボコボコにし、五人全員を気絶させてやった。

 目出し帽の中じゃきっとひでぇツラしてるぜ、こいつら。


「――明治さんっ、その傷!」

「う、だ、大丈夫、伊勢崎くん……」

「全然大丈夫じゃないだろ!!」


 窓ガラスが割れたせいで、その欠片が当たり、明治さんの腕が切れている!

 幸い破片が刺さった様子は見受けられない、とりあえず保健室まで一緒に……!


「い、伊勢崎くん……私のことはいいから!」

「でも――」


 明治さんの瞳には、この傷を気にかけるようなか弱い不安は宿っていなかった。

 明治さんのその目には、抗う勇気が満ち溢れていた。


「お願い、伊勢崎くん……! 気にしないで!」


 ――そして俺は、プロレマ部の事を思い出した。


 島崎圭吾が俺達を始末するために送り込んできた人間……それは、ほぼ間違いなくこいつらのこと!!

 奴らの蛮行を止めると同時に、奴らから島崎圭吾の情報を引きずり出すというのが俺達の目的!


 悲鳴は他のクラス中からも響き渡っている、そして悲しいことに、すでにこの学校から幾度となく銃声が聞こえてくる!

 俺の今すべき事は、そいつらを止めること……!


「――でも、明治さん。やっぱり俺は明治さんを放っておけないよ」

「……ッ」

「だから、ここはひとまず先輩たちに任せる! ひとまず学校を脱出しよう、明治さん!」

「……で、でも」

「明治さん」

「わ、分かった」


 良かった、明治さん。

 手を貸そう、その傷じゃあ辛いだろう。

 応急手当だけはしっかりしておいて……っと。

 新品のタオル、それでもあまり清潔とはいえないから早く病院で処置を受けよう。


「先生、構いませんね!」

「……ええ。私は生徒の安全確保に努めます」


 少しの間が空くも、先生ははっきり承諾してくれた。


 助けてくれたり、何かを隠していたり、俺は先生のことが本当に分からないっ……!

 ごめんな先生、こんな生徒でっ!


「明治さん、とりあえず玄関まで突っ走るぞ!」

「うん……」


 できるだけ労りつつ、かつ迅速に!

 テロリストだらけの廊下を無理やり突っ走る!


「おい待て小僧――」

「ゴラァ!」

「ぶべぁっ!」


 こうやって突っかかってきた野郎には金蹴りを見舞ってやる!


「この野郎ーーー!」


 後ろから響き渡る銃声、目の前の壁に大量の銃痕が生まれる。

 ――間一髪、曲がれてよかったぜ。階段の曲がり角にこれほど感謝した日は今まで無かっただろうな。


 明治さんの足が、震えている。

 きっと今の銃撃が怖かったのだろう、実際俺の背筋も震え上がっちまった。


「明治さん、ゆっくり、ゆっくり降りよう」

「う、うん」


 しっかり明治さんの身体を支えて焦らず一段ずつを降りる。

 そしてようやく、階段の折り返しに到達する――


「追撃だ食らえガキ! 大人を舐めやがって!」


 階段の上から銃を構えるテロリスト、ここは強引な手を取らざるを得ないかっ!


「明治さん、ごめんっ!」

「え――うわわっ!」


 このまま折返しの階段に、明治さんを抱えて飛び込む!

 ゴロゴロと二人で転がる階段、できるだけ明治さんに衝撃が渡らぬよう俺がしっかりと抱え込む!

 響き渡る銃声、割れる階段の窓!

 何とか下まで辿り着いた俺達は、階段横で座り込んで待機した。


「クソッ、あいつらどこ行きやがった!」


 階段を降りるテロリスト――


「ここだよ」

「なっ――グゥゥゥゥッ!」


 後ろから首を締めにかかる俺に抵抗ままならぬテロリスト、手に持った銃を落とし、そして同時に意識をも落としていった。

 だらりと垂れるテロリストの身体を放ったらかし、明治さんの方を振り向く。


「これで大丈夫、立てる?」

「う、うん、大丈夫」


 明治さん、もしかしたら今ので傷が酷くなったのだろうかっ、辛そうな表情をしている……


「ごめんね明治さん……今のうちに玄関に行こう」

「謝ること、ないのに」


 明治さん……。何か、不思議な気持ちだ。

 今の言葉には何か――


「っ早く行こうか!」

「う、うん!」


 テロリストの奴らの警戒も玄関は薄い!

 あいつら窓から侵入するのが好きみたいだからそれが逆に穴!

 玄関はユルユルだ! 今のうちにさっさと脱出しよう!


 玄関で上履きから靴に履き替え、玄関の階段を降りるっ!

 ここまでは順調だっ……先輩! 頼りにしてますよ! 絶対に学校を守ってください!

 このまま校門を走り抜けて、ひとまずは病院まで――


「あーあー、こちら呉威戸(クレイド)。伊勢崎を発見、えーと……あ、そうだ。明治と同行中の様子」

「ねぇクレイド、明治のやつも巻き込んで大丈夫なの?」

「島崎の親父より、構わないそうだ。やるぞ」

「そこは君の判断が聞きたかったなぁ」

「構わん、()るぞ」


 ――校門の向こうからやってきた男共は、聞き慣れた声で聞き慣れた名前を口にした!!

 テロリスト共と同じ黒い服を着たペストマスクとガスマスクの男が、同時にこっちに近付いてくる!


 声の感じからして、ガスマスクの男が呉威戸(くれいど)蛮暉(ばんき)

 そしてペストマスクの男が烏小路(からすこうじ)驟矢(しゅうや)

 クッソお前ら、どんだけ島崎の野郎の手助けをするのが好きなんだよ!!


 まさか送り込まれてくる敵が同じクラスメートだとは、本気で思いもしなかった……!

 だっててめぇら昨日まで同じ教室で同じ授業を受け、イジメを楽しんだ仲だろうが!

 なんでそう簡単に社会の悪の手助けをできるんだよ!!


 呉威戸(クレイド)の野郎に至っては、片手にサブマシンガンを持っている!!


「じゃあ、そういう事だから。バイバイ伊勢崎、今まで楽しかったよ」


 さらりとサブマシンガンを構え、こちらに銃口を向けるガスマスクの呉威戸(クレイド)……

 俺が咄嗟に取った行動は――


「明治さんっ!」

「――ッ!」


 明治さんをかばって、その場に倒れ込むことだった。

 躊躇いもなくぶち込まれてくる銃弾の雨の音、こんな事になっていても、俺はただただ明治さんが心配で仕方がなかった。


「伊勢崎クン!!!」


 明治さんの口から、聞いたこともない悲鳴のような声でそう聞こえた。

 ゴメンね明治さん、最後まで心配をかけさせちゃって。

 俺は結局、何もできなかった――




「伊勢崎、顔を上げろ」


 ――え。


「お、おい、何だよこいつ……」


 呉威戸(クレイド)の動揺が、はっきりと耳に届いた。

 軽い身体を立ち上げて見えたものは、俺の前に立つ(ごう)大公(たいこう)部長の姿だった。


「明治を連れて行くんだろう。案ずるな、学校の事は俺達に任せると良い」

「ぶ、部長……」


 轟くサブマシンガンの銃声、部長は銃口より解き放たれた銃弾全てを、その手に握る木刀で叩き割ったのだ。

 俺には何も見えなかった、しかし部長の繰り出す音速の木刀術が、何もない静寂という結果を生み出したのだから、そう解釈せざるを得ないのだ。


 カチッ、カチッ。


「クッ、クソ! 弾切れかよ!」

「クレイド、替えの弾は無いの?」

「うっせぇよ驟矢(しゅうや)! あるにはあるが、このバケモンに通用すると思うのか!?」


 確かに動揺が聞けて取れる。

 今のうちに明治さんを連れ出して逃げよう!


「すみません部長っ! 本当にありがとうございます!」

「礼は後に残しておけ」


 こちらを振り向いた部長の鉄兜が、ガチャリと擦れる。


「明治さん! 行くよ!」

「うんっ……」


 ヨロヨロと二人で立ち上がり、残った恐怖に震える足を何とか走らせる。


「――まぁ僕たち二人のなすべきことって伊勢崎くんの始末だけだから」


 ペストマスクの烏小路(からすこうじ)が、さり気なく懐からハンドガンを取り出しこちらに向けた……っ!?


「これで十分事足りるんだけども――」


 銃声が鳴り渡る瞬間、赤い着物と黒い髪が、俺と烏小路(からすこうじ)の間を遮った。


「伊勢崎くん、大丈夫だった?」

「――花園先輩っ!? それを聞くのは俺の方ですよ! だって直撃したんじゃ――」

「私は大丈夫。だから早く明治を連れて行ってあげて」

「わっ、分かりました!」


 先輩……本当に、ありがとうございます!

 俺達を助けてくれて、本当にありがとうございます!!


「絶対に先輩たちの思いは無駄にしない!」


 病院まで走ろうとした瞬間、後ろから天馬(ぺがさす)副部長の声が聞こえた。


「島崎圭吾の居場所がハッキリと掴めたっすよ。無線機なんて手にさせて、随分と不用心なんすね島崎圭吾は」

「……クレイド、ここは一旦引こう」

「クッ、クソッ!」


 俺達とは反対の方向に走る足音が、はっきりとこの耳に届く。




 病院での手当てを終え、俺達は一緒に家に帰った。


「伊勢崎くん、ありがとう」

「ううん、九割くらい先輩達のおかげだよ。二度も助けてもらったんだし」


 学校には戻っていない、荷物も置きっぱなしだ。

 まだ学校にはテロリストが居残っているかもしれない、警察が諸々の事を済ませるまでは取りに戻れない。


「ううん、その、真っ先に心配してくれたのが、すごく嬉しくて」

「明治さん……そんな事、当たり前でしょ? 大切な仲間なんだから」

「仲間……」


 明治さんは、何かを考えるようにうつむいた。


「伊勢崎くん、私ね」

「ん?」

「その――」


 そして、優しい笑顔をまた俺に向けてくれた。


「ほ、本当に感謝してる!」

「……うん、どういたしまして」


 これで一件落着、だな。

 とはいえ呉威戸(クレイド)烏小路(からすこうじ)のヤツは逃げちまったらしいから、注意しなければいけないことに変わりはない。

 副部長も島崎の居場所を突き止めたみたいだし――明日、決着をつけに行こう。


「あぁーもう違うって違う違う!」

「明治さん?」

「ンッ? あー、んんっ、なんでもないよー」


 ボッと顔が赤くなった明治さん。

 小声だったし、つい独り言が漏れて、それを俺に聞かれたのが恥ずかしかった感じかな。

 全く明治さんったら。こんな状況なのに癒やされちゃうじゃないか。


 見ていろ島崎圭吾――長かった追いかけっこも、明日で終いだ。

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