32話.呪い呪われ、唸れ執念。
ドルヮ・イザーバァー遺跡村。
ピクニックで来るにはあまりにもニッチな場所である、若干人を選びそうなオカルティックな場所。
「あなたの厄を払う不思議なおまじない、さあさ興味のある御方はぜひともこちらのクラヤミ館へお越しください」
どこの動物の骨ともしれないネックレスをぶら下げたいかにも怪しい雰囲気の男が、数珠を片手に歩く班ごとに声をかけている。
ワクワクしながら入ってくやつが大半だ。それも当然、ピクニックっていうのはこうでなくっちゃあならない。積極的に楽しむ姿勢こそがピクニックを最大限に楽しむコツってもんよ。
俺たちは入らない、当然入らない。
何故かって今ここで入ってみろ、こんなにたくさんの人がヤツの言う屋敷の中に入っているんだ――実際にはこれも遺跡っぽい石で作った豆腐のような形の小屋なのだが、奴が屋敷というのだから屋敷なのだろう――今ここで俺達も屋敷に入ってしまえば待ち時間で弁当の時間まで食わされちまう。
飯は食ってもいいが時間を食う余裕はない、何か別の場所でまずは楽しむべき――
「厄払いだって! 伊勢崎くん厄たくさんついてるだろうし入ったらー?」
明治さんが食いついたか、こいつは想定外だ。
「明治さん、言うじゃないか……」
「どうせこんなもの迷信ですわよーだ、私はあのイニシエアイスを食べてみたいですわ」
面白い冗談だ明治さん、これくらい気を抜かなくっちゃあピクニックってもんは楽しめない。
ぐいぐい袖を引っ張って誘導を始める明治さん。正直悪くはないのだが、班行動としては当然班全員の賛成を得なきゃいけない。
「まぁ、折角だし皆で入らないか?」
「フムゥ、これも貴重な体験の一つ、余は構わぬぞ」
アドルフの野郎はすぐに承諾。
「まじかアドルフ……でも確かにちょっとおもしろそうだな、中どうなってんだろ~」
伊賀の奴はアドルフに引っ張られるように承諾。
「狐鶴綺さんは?」
「……構わないわよ、その前にアイス買わせてくださいな」
成る程……ここで時間の無駄になるから他のところに行ってから戻ろうというのは水を差す行為になってしまうな。あまり空気を読むという言葉は好きではないが、ここは素直に空気に従わねば。
――なるべくこのピクニック感あふれる空気を乱したくはない。
ということで、俺たちは列の最後尾に並んだ。
思ったよりは長くないのが幸いだな。
遠足の人数は全員揃っても40×3で120、プラスアルファの観光客が揃ったとしても所詮それほどの数に収まる。ウォズニーを経験した俺から言わせれば朝飯前ってところか。
「明治、このアイス美味いですわよ。お前も買ってみたらどうです」
「これチョコミント味?」
「スムージー味ですわよ、他にも杏仁豆腐とか黒ごまミルクとかありますわ」
「お、美味しそう……」
皆で待つというのも案外悪くない。
狐鶴綺さんのいうアイスも美味そうだし、俺も買ってこよう。
「伊勢崎ぃ俺たちも買いに行こうぜ、よぉ狐鶴綺そこで待っといてくれよ」
「うわっ!?」
ちょっ、伊賀てめぇ!! 全く、しょうがないな。
「アイスッ! アイスクリームには目がないものでね! やはり貴族の食べ物といえばアイスであろう!」
アドルフの野郎まで……!
「あああ、待ってー私もいくー! 狐鶴綺さん待っててねー!」
「……よろしいですわよ」
「め、明治さん、何味食べたい?」
「うーん、狐鶴綺さんのスムージー美味しそうだったし――」
「伊勢崎お前男なんだからもっとガツンとした味にするよなぁ! ほら、俺はコーラ、コーラ!!」
「憐れ憐れぞ愚民諸君、アイスクリームといえば古来よりバニラと相場が決まっているもの!」
「分かったから伊賀お前もう少し力緩めろ、苦しいんだって!!」
「コーラのアイスはダブルになさいますか、シングルになさいますか?」
「いいじゃねーかこんなんで苦しがるようなタマじゃねぇだろ! へへっ、二段にもできるってよ! お姉さんダブルでお願い!」
「フフフ、じゃあスムージーのシングルくださーい!」
「明治さんシングルでいいのかい?」
「うん、ダブルだとお腹いっぱいになっちゃいそう」
「じゃあ俺は、アドルフと同じバニラにしようかなぁ」
「フム、伊勢崎殿はやはりアイスとは何かを心得ておりますなぁ」
「えーとバニラの……ダブルで」
「フム、どうやら見当違いだったようだな、ダブルなぞ邪道である。余のアイスクリームはバニラのシングルにしたまえ、当然コーンなどという下劣な器などでなく、しっかりとグラスに入れるのであるぞ?」
「すみません、コーンしかないんです」
「……ッッッッッ!! 貴様、そんな有様でよくのうのうとアイスを売っていられるな!!」
「ですがドルヮ・イザーバァー遺跡村のコーンはオリジナルの物でして、噛めばサックリ古代を感じられるテイストになっていますよ!」
「フム、古代を感じる、か……それはちと面白い試みだ、グラスを用意しておらぬというアイスクリームに対する侮辱、その詫びとして受け取ってやらんこともないぞ」
全くアイスを買うだけだというのにこの騒ぎよう……これだ、全くこれこそピクニックってやつだ。
狐鶴綺さんを待たせ続けるのも悪い、アイスを受け取ったら早く狐鶴綺さんの待っている場所に戻らなきゃ……とはいえ、伊賀のやつが俺の肩に手を回して離せねぇんだから難しい。
「おや、明治さん。もうアイス貰ったんなら狐鶴綺さんのところに戻ったらどうだい、一人で待たせ続けちゃ悪いよ」
「ううん、皆の事待ってる!」
明治さん、とても楽しそうだ。
俺は半ば伊賀に引っ張られるようにしながらだが、狐鶴綺さんのもとへ皆で戻る。待ち時間はまだまだ、アイスを食べ切れるほどにはあるか。
「明治、お前もスムージー味を買ったのですか」
「うん、狐鶴綺さんの美味しそうだったから」
やっと伊賀が肩に回した腕を離してくれた。ダブルのアイスを落とさないよう、慎重に意識を集中させながらなめている様子だ。
こうして見るとダブルは中々量が多いな、俺も明治さんと同じシングルにしておけばよかった。
「このコーン、全く古の味などしないではないか!! あやつ、次見かけたらタダではおかぬ!!」
よくわからない悪態ついているもののアイスを美味そうに食っているアドルフ。
退屈しなさそうだな、ある意味。
「お次の方々、どうぞお屋敷の中へ……」
アイスも食べ終わった頃、丁度俺たちの番が回ってきた。
イジメの厄、全て祓ってくれるといいんだがな。
中では数珠を掴んでうんたらたーとか叫びながら数珠を振り回してばーっとなってきえーってなってぶんしゃかうがちゃかと騒がしい踊りを目の前で見せられた。
奇妙なおまじないであることは分かったのだが、奇妙さに全振りしてしまっているところはあった。正直あれで厄払いできたかと思うと、逆に厄が染み付きそうだ。
そのせいか明治さんと狐鶴綺さんと、あと地味にアドルフもビビりまくっていた。
「怖かったぁー!!」
「今日が厄日かと思いましたわよ、全く……」
屋敷から出た途端、明治さんから出てきた感想はお化け屋敷から出てきた人のようだ。
怖くなってしがみついてくる明治さんが可愛くってたまらなかったのは微笑ましい体験だった。
「あれ、先生じゃん。どこ行くんだろ」
伊賀が指をさした方を見ると、確かにそこには境太郎先生がいた。
境太郎先生の行く先はドルヮ・イザーバァー遺跡村のマップ上にないところ、つまりだだっ広い草原に向かっているということだ。
「おーい――」
「待て、伊賀」
これで大人しく黙るとは思わなかったが、皆が口を閉じ、じっとし始めた。
俺だけじゃなかったのかもしれない、薄々だが何かを感じていたのは。
「……先生の跡をつけてみよう」
皆が頷く。それはこの場の空気にのまれたからなのか、はたまた皆がこの違和感の正体を確かめたがっているからなのか。
バレない距離を保ちつつ、草原の中を歩いていく。
一度振り返られれば終わりだ。だからこそ少しでも尾行されていると悟られてはならない。
「……先生、どこに行くんだろうな」
「最初は少し離れた場所で休憩を取るのかしらと思っていましたが、ここまで遺跡村を離れるとなると普通じゃありませんわね」
「いけないことしてるみたいでドキドキする!」
草原を進むと――目の前に現れたのは小さなピラミッドのようなオブジェの数々。
テントのように立ち並んだ小さなピラミッドの合間を縫うように進む先生を、隠れながら俺たちは追いかけた。
「……うぅ」
「狐鶴綺さん?」
突然フラフラとし始めた狐鶴綺さん、どうしたんだ?
「おい狐鶴綺、アイスで腹でも壊したか? 体調が優れぬのなら休んでいると良いぞ」
「な、なんか、気分が……」
――そして、ばたりと倒れた。
「こ、狐鶴綺さ……」
声を張り上げてはいけない。
ここで境太郎先生にバレてしまえば全て台無しだ。
しかし突然どうしたというのだろうか、とりあえず119番をしておかなければ――
「い、伊勢崎……俺も、なんだか目眩が……」
「くぅ、この頭の痛みは何なのだ……」
伊賀、アドルフ……!?
ふたりとも倒れてしまった。
三人意識はあるが、ひどくうなされている。
ここまで来たら分かる……これは偶然の病なんかじゃない、ただならぬ事が間違いなく起こっている!!
「い、伊勢崎くん……」
「明治さん!」
明治さんの顔色も優れない、相当ひどい様子だ。
そして俺も、頭に何かクラクラするものを注射されたような気分になる。
「……明治さんはここで皆を見張っていてくれ、俺は先生の跡を追う」
無言で頷く明治さん、とはいえこの様子じゃすぐ倒れてしまうだろう。
俺は……この異常事態の原因を突き止め、止めてみせる。
そしてそれには、間違いなく境太郎先生が関わっているはずだ。
じゃなきゃあなぜ先生はこうして無事で、ピクニックルートから外れた小ピラミッド群に足を運んでいるんだ……
先生は、比較的他のよりも大きなピラミッドの中に足を踏み入れた。
俺も入り口を覗いてみる。
ピラミッドの中は空洞になっており、壁には壁画が、そして中央には四角い台座が。
その台座に座っているのは……藁邊沙麻?
「藁邊さん、儀式の方は順調のようですね」
「先生……ありがとうございます、私の願いをかなえるため、ピクニックの行き先をドルヮ・イザーバァー遺跡村にしてくださって」
「構いませんよ、では引き続き、私はあまり詳しくないのですが……その、儀式の方を楽しんでください」
「はい、先生……!!」
成る程、そんな裏話があったのか。藁邊の要望で遠足の行き先が……確かにあの髪の長さといい、ちょっとオカルトな雰囲気はあったがまさかここまで本格的にのめりこんでいるとは。
このまま覗いていれば見つかる、境太郎先生がピラミッドを出るまで角で待っておくとしよう。
しかし、この頭の痛みはなんだ。吐き気もひどい、今にも倒れそうだ。
だが、だからといって倒れるつもりもない。
間違いなくこの儀式とやらに原因があるはずだ、そんなものは俺が止めなくちゃならないんだ。
境太郎先生がピラミッドから出てくるのを見て、俺が入れ替わるようにして中に入る。
おぼろげな蝋燭に照らされたピラミッドの内部、見渡すには少し薄暗いが台座の上に座る藁邊沙麻の存在を確かめるのには全く苦労しない。
「藁邊……何をやっているんだ」
「――伊勢崎」
俺の声に反応した藁邊は、台座の上から捧げていた祈りの呟きを止める。
「なんでお前がここに……?」
「そっくりお前に返すぜ、藁邊。なんでこんなところにいる、そして何をしているんだ」
垂れ下がった頭が上がり、顔を隠す長い前髪から死んだ目が覗く。
「何って、儀式だよ。お前の班を潰す儀式」
儀式、先程からよくこいつの口から出てくるワードだ。しかしそれがなんの儀式なのかは分からなかった。
が、しかし……俺の班を潰す儀式。藁邊の説明で、頭に渦巻く奇っ怪な現象に納得がいくかもしれない。
今にも倒れそうなほどの頭痛の元凶は、藁邊のいう儀式であることはほぼ間違いない。
「何だって、そんな事をする必要が――ぐぅっ、頭が」
「お前を苦しめるために決まってるだろ、伊勢崎拓也。最近調子に乗ってて、しかもお前につく仲間がいるみたいで……全く気に入らない。私が呪いの儀式を遂行させ、最悪のピクニックに仕立て上げる算段だったのに――」
立つのすら、やっとだ……。
「どうしてここに来たの? 何も知らずにピクニックを楽しんでいれば良かったのに」
「境太郎先生の跡をつけたら、ここに来ただけだ……!!」
だが、ここでやすやす倒れるわけにはいかない。
こいつのせいで、皆が気分を悪くして倒れだしたんだ。
俺がここですべき事は、ただ一つ――
「儀式を止めろ、ハァッ、藁邊沙麻……!」
「――知られたからには、始末せざるを得ない!!」
途端、突然奴は高い悲鳴を上げ始めた。
狂ったように頭を振ると、このピラミッド内に黒い何かが渦巻いてくる……
何か、嫌な予感がする!
「させねぇぞ藁邊ェ!!」
繰り出す拳が、届かねぇ!?
いや、届かないんじゃない、何かに腕を掴まれた?
「こ、これは……!?」
「この地に眠る古代人の霊体を、儀式によって呼び起こした……霊体はお前に襲いかかる、伊勢崎!!」
灼けたゾンビのような様相のそいつは、古代人の霊体は、俺の腕を軽くひねった!
周りの地面から湧き出すように霊体が生まれてくる、そしてそいつらは藁邊と一緒に頭を激しく振って、各々が叫びを繰り返す……
すると、俺の目前にいる古代人のもとへと何やら黒いエネルギーの流れのようなものが集まっていく……
「クソッ、力が強まってくってわけか!!」
このやばい感じに仕上がった古代人の藁邊に対する守りは固い……!!
平常時ならまだしも、このひどい頭痛を抱えたままの戦闘は辛いものがある……まずはエネルギーを送り込んでいる古代人を優先してぶっ潰さなければ、できるだけ手っ取り早く!!
「ぐぅっ、何だこいつ!?」
強化された古代人のやつ、強い力で俺を掴んできやがった!!
このままだと骨が折れる、それはまずい! 病院行きはゴメンだ!!
「ぐぅっ、離せ!!」
頭痛のせいか全く力が出ない……藁邊とその他古代人共は相も変わらず頭を振り続けてエネルギーを送り続けている。
「何か打開策は無いのか!?」
「諦めろ伊勢崎!! ピクニックを楽しもうとする前向きな姿勢がお前には生意気だったんだよ!! アハハハハハハ!!」
藁邊の野郎、死んだ目をしながら随分器用に笑うじゃねぇか……
どうにか掴んでくるやつの腕を……!!
「オラァァッ……!!」
股間にぶち込む蹴撃、古代人でもやはりこの攻撃はたまらずのけぞる!
――やはりだ。思ったとおり、こいつらは全員、一人の古代人に向かってエネルギーを送り続けている……
狂乱したように上下させる頭、儀式に夢中って事……!!
見えたぜ、この古代人を無力化するための糸口が!!
「周りの古代人を手始めに始末する、か……無駄だよ伊勢崎、そんな事、無駄なんだ」
「果たして本当に無駄かな――グオォッ!?」
あ、頭が……
俺の方の頭痛も相当効いてきたみたいだな……
このままでは、先に俺が倒れるかもしれない……早く、儀式を止めなければ!!
「藁邊、見ろ!! あああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
「なっ、何をするつもりだ!」
力を送り続ける古代人は、そのために頭を振ることで夢中だ……
その証拠にこいつらは、俺が身体を抱えてもブンブンと頭を振り続けるだけだ!!
「喰らえええええええええ!!!!」
強化された古代人のもとまで駆け寄り、頭を振り続ける古代人をぶつけてやるのさ!!
「グオオオオオオオオ!!!」
「こ、古代人様!!」
こいつ、呆気に取られて同胞からの思わぬ攻撃を真正面から食らっていやがる!!
そう、頭を振り続けるからこそいいんだ……それを逆に、俺の攻撃に利用しちまうんだ。
俺は動くのだけで精一杯、ならばこいつらに代わりに攻撃してもらえばいいだけのこと!!
ブンブンとシェイクされる頭が古代人を何度も叩きつける!!
頭と頭のぶつかり合い、気づけば強化された古代人は……地に倒れ伏していた。
「こ、こんな事が……!!」
周りの古代人だって同じ方法でやれるさ……二人を向かい合わせにすれば、こいつら勝手に頭を振るから勝手に同士討ちしてくれる。
黒いエネルギーの流れは徐々に薄れていき、そしていよいよ全ての流れが絶たれた……残るは藁邊、お前だけだぜ。
「こうなったら……全力を出すまで!!」
再び大きく叫んだ藁邊……しかし今度は何も起きない。
「な、何をした!?」
「ウフフ、古代人の霊体を外に召喚したんだよ……」
「外、だと!?」
「何だろう、この沢山倒れている人達は?」
「な、何をしてるんだ藁邊お前!?」
「何って……直に古代人の霊体を操って伊勢崎のピクニック仲間を始末するんだよ!!」
こ、この野郎ぉぉぉ……!!
「悔しいか? ならば今すぐそこに膝をつけ、許してやってもいい」
ニタリと笑って下を指差す藁邊……
ふざけやがって、と言いたいところだがここはやつに従わなければまずい……
明治さん達に手出しをさせてはならない!!
「グゥゥゥ……!!」
そして、頭が痛い……!!
やつの言葉に従うというより、そうせざるを得ないステージまで来ている……!!
「フフ、無様だ。無様、無様無様無様無様ァァァァァァァ!! 思い出したか伊勢崎拓也ッ! それがお前の本来の姿、それがお前の元あるべき姿なんだッ!! アハハハハハハハハ!!! アッハハハハハハハハ!!!」
「――違うよ」
……こ、この声は。
「お前は。何の用だ? 明治、こけしだったか……」
「伊勢崎くんは、そんな事のために学校にいるわけじゃない……ウゥ、私達と一緒に、楽しい学園生活を送るために、いるんだよ」
「楽しい……? アッハ。明治、それはそうだとも。だからこそ伊勢崎は楽しい学園生活の妨げになる存在なんだ、だから私達で排斥していく――」
「そんな訳、ないじゃん」
「アァ、話すだけ無駄、か……儀式の術に陥るがいい、明治こけし!」
頭痛がっ、更に激しく――
「グアアアアアアアアアアア!!!!」
「うぅっ……!!」
明治さんの足が――
「倒れるもんか……!!」
こ、こんなにも頭痛がひどいのに、意識を失ってもおかしくないほどの痛みなのに……
明治さんはすごい、ギリギリ寸前で立ってみせている!!!
「明治さん、古代人に気をつけて……!!」
「――ウフフ、そう。私には最後の手段がある。古代人を直接操り、今度こそお前らに立場を分からせてやる!!」
叫びに叫びを上げ、召喚される古代人は、青色の炎をまとっている!!
成る程直接操るとなればそれほどの特別感もあるというものか――
「やあっ!!!」
「きゃあっ!?」
明治さんは全く気にせず、藁邊めがけて突っ込みやがった……!!
「今すぐ術を止めないともっと酷いことするぞ……!!」
「何をこの、離せぇ……!!」
取っ組み合いが始まった……明治さん、相当強い頭痛を抱えているはずなのにアレ程のチカラを出せるだなんて……す、すごい……
取っ組み合いに勝ったのは明治さんだった、藁邊はというと、こちらまでゴロゴロと転がってきた。
「明治さん!!」
「こ、これ……!!」
何を見つけたんだろう、明治さん……台座の真ん中で呆然としている。
「皆、戦いを止めて!! あと、このゲートも閉じて!!」
突然明治さんが叫んだかと思うと古代人の霊体が消え失せ、頭の頭痛が嘘みたいに消え去った。
「成る程、台座に座ったやつが儀式を進行できるって仕組みだったのか」
「うん。ここ、不思議だねー」
「あ、ああ……あああ……」
そばまで転がってきた藁邊の前で、ゆっくりと立ち上がる。
うーん、気分が良い。復讐が終わった時の、スカッとした気分に似ている。
まぁ、そういう気分な訳だけどな――
「なぁ、藁邊?」
「ひ、ひぃっ!?」
「おー、治った治った! 嘘みてぇに!!」
「一体何が起きたのであろうな。ここは危険やもしれぬ、伊勢崎殿を連れ戻して離れましょうぞ」
「でもここ、風は気持ちいですわよ?」
良かった、外から皆の声が聞こえてくる。
「お前は俺達に呪いをかけた……それがどういう事か、分かるな?」
「い、一体何を……」
「人を呪わば穴二つ、人を呪うならばお前も呪われる覚悟をしなくっちゃあいけないだろ?」
怯える藁邊。
全く。表情が死んでいるのかと思っていたが怯えるのは随分と上手じゃないか。
目尻までしっかり下がっているぜ。
「さぁ、来い藁邊!!」
「いやぁぁぁぁ離してぇぇぇぇぇぇ!!!」
やつの首根っこを掴んでピラミッドの外まで引きずり出す。
大きなピラミッドの目前、五つの小さなピラミッドに囲まれた中央部にやつの身体を転がしてやる。
「あ、ああ、な、何されるの、私何されるの……!」
「安心しな、ちと俺も、なんだ、あまり詳しくないんだが……まじない、ってやつに興味を持ったんでな」
こちらに気が付いた皆がやってくる。
「伊勢崎っ、どうしたんだそんなところで――」
パチンッ!!
「――各自、位置につけ!!」
フフ、相当困惑しているようだ。まぁ無理もないが、全員それらしく並んでくれたようだ。
明治さん、伊賀、アドルフ、狐鶴綺さん、準備はいいな……
「復讐させてもらうぜ、藁邊!!」
「あ、ああああああああ……!!!!」
力強く両手を合わせ、一文字ずつ声高に叫んでいく!
『伊』!
『賀』!
『明』!
『安』!
『狐』!
「伊・賀・明・安・狐!! 死んで皆に詫びろッ、藁邊沙麻ーーーーッッ!!!」
波ァァァァァーーーーーー!!!
大きなピラミッド、そして五つの小さなピラミッド……それぞれ結び合う線が紫色に光り出し、六芒星を築き上げる!!
そしてその中心から噴き出す呪いの炎!! 藁邊沙麻はその炎をモロに一身に受け止める!!
「アアーーーーーーーーーーー!!!!」
甲高い、絶望の悲鳴が炎と共に巻き上がっていく。
そしてそこに現れたのは……古代人の霊体!?
無理やり呼び起こされたことが不服だったのだろうか、そいつらはがっしりと藁邊の身体を掴みあげる。
「そ、そんな……お許しを、お許しをおおおおおお!!」
そして、藁邊沙麻の身体は古代人達の手に埋もれ、地の底へと沈み込んでいった……
1年3組40番・藁邊沙麻……俺へのイジメをやめたかと思えば俺達のピクニックを台無しにする計画を立てていたとは。
ハレの日を台無しにしようと試みたお前の罪は古代の亡霊達を憤らせる程に重い。
周りを巻き込んでまで俺をイジメようとする貴様の魂胆、赦される事ではないと審判が下ったようだ。
罪の報いを受け入れ、執念との決別を約束しろ。
「明治さん……」
「ん?」
「ありがとう」
「……んー、ふふふ。どういたしまして」
――それにしても、明治さんにここまで助けられる日が来るとは。
「そろそろお昼時ですわね、早く遺跡村に戻りましょ」
「あぁ、そうだな」
まだまだピクニックは長いんだ。とんでもないものを見つけてしまったが、予定通りしっかり楽しむことにしよう。
「おのれ、伊勢崎拓也……」




