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王国の魔法使い blank seekers  作者: 水島 幸福
prologue
1/1

人魚の唄

「満月の夜に海辺を出歩いてはいけないよ。人魚に海へと引きずり込まれるからね。」

1 。


ソティアの町は穏やかな海に面した町だった。駅からも漁港が見え町は入江状になっている。

汽車のなかで聞いた情報を思い返す。


今回の依頼は人魚の討伐である。

この町で人魚と人間は均衡を保ちつつ共存してきたのだが、ここ最近になって人魚による被害が桁違いに増えたらしいのだ。


人魚は、人を歌で誘き寄せ海に引きずり込む魔物だ。だが、彼らとは話も通じるし早々人を殺すことなんて無い。そんなことが起こるのは彼らの領域を侵した場合や偶々運悪く悪食な人魚に出会ってしまった場合くらいだ。



あの後、私達は主人に連れられ汽車に乗った。今回の一件の同行人は私とエレナさん、執事のアルフレッド、そしてあの小さな用心棒君だ。彼だけは汽車の中で話しかけても何も答えてはくれなかった。仲良くなれるのだろうか……。



そんなことを考えながらも情報を聞いているうちに、汽車はソティアの町へと到着した。



汽車を降り、依頼者である町長の家へ向かいながら主人へ尋ねる。


「旦那様、人魚は人と同じくらいの知能をもった生き物です。そんな彼らを無闇に討伐してしまってもいいものでしょうか?」


「私は元より討伐するつもりはない。私はその原因を正しに来ただけだ。」


主人は海へと向けていた目線を前方へと戻す。

目的地へとついたようだ。


呼び鈴を鳴らすと50くらいの年齢のやや小太りの男が顔をだした。

「あぁ、ブライアン卿。よくぞお越しくださいました。町長を勤めますドンノと言います。どうぞどうぞ中へ。」

ドンノは体を揺らし揺らし中へと誘導する。

この小さな町にしては調度品が高価なものだ。

さらに付け足すならばそれぞれが統一性にかける。


ソファーに座るよう勧められ私も主人にならい座る。


主人が出された紅茶を口にし、話をきりだす。

「人魚による殺人の増加と聞いたのですが、人魚を怒らせるようなことはありましたか?」



「いいえぇ‼‼そんなことは決してございません。人魚共とは距離を置いて生活してきましたから。」

ドンノは滅相もないと否定する。

…………大仰に腕を交差させて振るあたりがとても怪しい

……胡散臭い。



「奴らが人を殺す事件はたまにはありましたが、あれは鮫に食われるようなもんです。そんな頻繁には起こらなかった。なのに、ここ一ヶ月、いやこの一週間は酷いもんだ。海辺に食われた後の死体が無惨にも……」


主人の手元の資料に視線を落とす。

確かにそこに載っている遺体は水死体だ。


男は興奮してまくし立てる。

「夜に鳴き声を聞いたと言う人がたくさんいるんです。奴らが誘き寄せやがったんだ!」


「成程……。町の人達に注意を促しましたか?」


「当たり前だ!町中に知らせたさ!現にこの件を知らないものはいないだろうよ。だが、漁師達は仕事を休む訳にはいかんからな。暮らしがかかっている。被害は増すばかりだ!」


ドンノは目を剥き出して叫ぶと、改めてこちらへ向き直った。



「そういう訳なんです。一刻も早く奴らを静めて頂きたい。」


「彼らは陸に上がってくることはあるのですか?」


「いや、奴らは陸には上がれない。海から歌で誘き寄せるだけだ。本当に気味が悪い。」


「わかりました。この件の解決に努めましょう。とりあえずは」

そう言いおくと主人が立ち上がったので私達も席をたつ。


ドンノはその言葉に少し不服そうな顔をした後、頭を下げ私達を送り出した。









すでに夕方なので並んで宿へと歩き出す。

何か思案している様子の主人に声をかける。


「あの町長は何かを隠していますね。」

「ああ、早く人魚を始末して欲しいみたいだ。それにまだ事件は人魚が起こしたと決まった訳ではない。いや、傷痕を見るには人魚がしたのだろうが。」

「なぜですか?」

「これだけの被害が出ているんだ。人魚の歌声が聞こえる海の近くまで自分から足を運ぶ者はいないだろう。人魚はそのまま陸へ上がることはできないのだから。」

「そうですね……。」


考えがまとまったのか主人は歩みを止めた。

主人の服を掴み俯いて歩いていた黒い子供が不安そうに顔をあげる。


「今から、ミラと酒場で話を集めようと思う。エレナとまこは先に宿へ帰っていてくれないか?」


「ええ、わかりました。なら、私達はお先に。」

そう言うと、エレナさんは不安そうな子供を促しアルフレッドと共に宿へと向かって行った。

いきなり主人と二人きりは少し辛いものがあるとうっすら思う。


「では、行こうか。」

そう言い足早に酒場へと向かう主人に置いていかれないように私は歩きだした。

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