1.俺、異世界の『俺』と出会う
人は一人じゃ生きていられない。
一人というか、独りかな。まぁ、人という漢字から分かるように、人は誰かと支えあって生きている。そう、『誰か』と。
この『誰か』というのは、どう考えても『他人』のことだろう。いや、当たり前だってどこからか突っ込まれるような気がした。同じ世界に同じ人っているわけ無い。
似ている人は3人いるらしく、指紋認証も解除できるって聞いたことがあるけれど、あくまで似ているだけで、それが『他人』ということに違いはない。
――では、何が言いたい。
端的に応えるとすると、『許せない』。
ただ、これじゃなんの説明にもなっていないので、取り敢えず現在の状況を整理しよう。
「あなたっ何者なの、私のガントに何てことするのよ!!」
ガント……困った、どうやら同じなのは見た目だけじゃなく名前もなのか。
俺の目の前で、さっき俺が殴り飛ばした男にその女は抱きついている。まるで、俺から守るように。
「俺、そんなに強く殴ったかなぁ」
「殴ったわよ、殴った。その手に付いている血は何。消えて、誰なのよ、あなたは!」
俺をひたすら罵倒する彼女の両手に光の粒子が集まっていく。集まった粒子はゆっくりと光を発しながら、どんどん目の前の男を包み込んでいく。
「……魔法みたいだ」
「何、治癒魔法も見たことないの。まるで、ガントに出会ったことろ全く同じリアクションね」
さっきから何でこの女は怒りっぽいんだ。顔は可愛いのに、かなり台無し。アメリカかロシアか分かんないけど、外国人特有の目や髪の色で、スタイルもいい。
服装は、まるでファンタジーの世界からそのままやってきたような。いや、比喩とかじゃなくて、本気で。
「なぁ、お前って別の世界からやってきたのか……?」
「別の世界? そうね、ガントが元いた世界に帰るって聞いてついて来たのよ。ここが『日本』であっているなら、別の世界から来たことになるわね」
いや、さっき本気で、って思ったのが比喩だったんだけど、ホントだった。本当に別の世界から来たって……どういうことだよ。
◆ ◆ ◆ ◆
「で、俺がトラックに轢かれて、病院で意識失っている間。お前は異世界トリップしていた、と。そういう訳ですか、そうですか」
『まぁ、そうなるよな』
俺は、意識が回復した男、東条ガントと状況の整理を始めた。
ちなみち、俺の名前も東条ガント。
「ってことは、俺が2人に分裂したみたいな感じか」
『トラックに轢かれた時を堺に、異世界転移した方と日本で生き返った方だな』
「彼女ができた方と彼女ができていない方の間違いじゃないのか」
俺は『ファンタジー俺』の隣でちょぼんと座っている美少女を横目で見ながら言った。美少女の名前は、メイル。正座ができないのか、足を伸ばして、ぷくっとしたほっぺで俺をずっと睨んでいる。かわいいんだけど、さ。
『ファンタジー俺』もそれを理解しているのか、少し苦笑いで、
『メイルは俺といちゃこら出来なかったことに文句があるんだよな。今まで、ミーシャとかノースのせいで中々二人きりになれなかったし』
「なっ何をいきなりいいだすのよ、あほーーー!!」
『はは、顔を赤くして。そんなメイルもかわいいよ』
「んっ!!!!」
全く、困ったもんだぜ。退院直後にこんなもんを見せられるとは。いや、羨ましいとかそんなんじゃ全く無いぜ。全く、全く。
よく分からないが、右手から血が流れているぞ。爪の痕がたくさん。どうしてだろう。お兄さん、彼女できたことないから分かんないやー。
「げっほ、げほげほっ!!」
『……!!』「……!!」
俺の咳払いに、2人がこっちを向いた。
「んで、これからどうするかってのを」
『そうだな。まず、お前が入院していたお金だな。これを何とかしないと。……はっきり聞く、幾らだ』
俺は、ゆっくり人差し指を一本立てた。
『あの、分からんから。口で……』
「…………ちおくです……」
『だから、口でって』
「……1億円、で、す」
『ファンタジー俺』の顔が一瞬にして、真っ白になった。そのまま、機械のようにすぅっと立ち上がり、
『メイル! 帰るぞっ!!』
「えっ、もう。やだよ、ガントの故郷の国案内してくれるんじゃなかったの!」
『だめだ、こんな奴と関わっていられない。ほら、離せ。お前も、自分の金は自分で何とかしろ!』
俺は『ファンタジー俺』に必死にしがみついた。
「お願いします。俺一人だと、絶対に返せない額なんですって。助けて。俺でしょ、俺が困っていたら助けるのが俺でしょ」
『明日のことは明日の俺に任すノリで、お前のことはお前に任すんだよ』
「言ってることわかんねぇよ」
『俺だって分かんねぇよ』
「とにかく助けあおう。人は二人で生きていくんだ」
『日本語でおなしゃす!』
そんな言い合いをしていると、メイルが、
「お金がないなら、どっから奪えばいいじゃない」
――そう、言った時。これまでの殴り合いでたまたま付いたテレビが『現金輸送車遊撃事件』のニュースを流していた。




