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わたしの生活水準向上計画。(仮)  作者: 椿
第1章 下級貴族
8/9

お母様と楽器

「これは、オクトロンと呼ばれる楽器です。オクは鍵盤、トロンは楽器という意味です」


お母様は、わたしが持っていた石板に、オク/トロンと単語を書いてくれる。


しかし今は、オクトロンの綴りを見る気はしなかった。綴りに目も向けず、オクトロンと呼ばれた楽器を凝視する。


だってあれ、アップライト・ピアノそっくりなんですけど……………?

その楽器の名前も、鍵盤/楽器 なんでしょ?ピアノ以外にそんな名前がつくような楽器が思いつかないんだけどなあ。


そして、つかつかとオクトロンに歩きよったお母様がオクトロンにかかった布をとり、鍵盤蓋を開ける。


……………うん、ピアノそっくり(・・・・)だね。

何故そっくりが付くかって?だって、黒鍵がないから。鍵盤が全部茶色(木製のため)だから。足で踏むペダルがないから。譜面台がないから。などなど。

色々ピアノと違うところが目立つ。


ピアノに見慣れていたわたしには、ちょっと異様なものを見ている感じがする。


そしてお母様はプロピアニスト顔負けの………、プロオクトロニスト(今命名)顔負けの素晴らしい演奏をしてくださった。

多分、これでお母様のオクトロンリサイタルを開けば、ガッポガッポ稼げると思う。


お母様の演奏が終わり、今度はわたしが促されてオクトロンに手を伸ばす。


「此処が基本の音で、オクトロンの中で真ん中になっている音よ」


ポーン。


お母様が軽快に鳴らしたその音はドの音でした。


その横を鳴らしてみると、ドのシャープ。さらにその隣はレ。


「お母様。オクトロンを作ることが出来る職人さんはどちらにいらっしゃいますか?わたくし、お会いしたいので紹介してくださいませ」

「楽器職人で良いのですか?もう少ししたらこのオクトロンの調律のためにアルヴェンティーのお屋敷にいらっしゃる予定でしてよ?」

「この部屋に?」

「ええ、この部屋に」


ナイスタイミング!

わたしは決めたのだ。

無いものは作ればいい。使いづらいものは改善すればいい。それならばピアノを作っちゃえ!と。

前世ではピアノを習っていたわたしの魂が、「オクトロンは、こんな楽器はピアノじゃない!」と叫んでいる。まあ、実際にオクトロンはピアノじゃないんだけどね。


コンコン。

「「失礼致しまーす」」


入ってきた二人の男性。


「あの方々ですか?」

「ええ」


「奥様、お嬢様、失礼致します。オクトロンの調律に参りました」

「今日はアーロン1人ではないのですね」

「弟子の監視ですよ」


アーロンと呼ばれた人付き合いの良さそうなおじさんは、けらけらと笑って弟子と思われる若い男性を紹介した。


「早速調律をさせていただきますね」


弟子は直ぐにオクトロンに向き合って作業を始めた。


「アーロンさん、少々宜しいですか?」

「アーロンで宜しいのですよ、お嬢様」


私共は一般庶民ですからなあとアーロンは笑う。


「アーロンに作って欲しい楽器があるのです」

「楽器、ですか?」

「そう。いまのオクトロンは、同じ鍵盤が横に並んでいるでしょう?それを、このような形に直して欲しいのです」


手元にあった石板に、ピアノの鍵盤を書いてみせる。


「此処が基本の音で、そこからこうやって高さの違う鍵盤があるのです」

「ふむふむ………」

「あと、この下の鍵盤は白に、上の鍵盤は黒に塗ってくださいませ。それから、譜面台と呼ばれるこんなやつも付けてもらいたくて、あとペダルと呼ばれるこんなやつと………」


わたしが思いつくオクトロンとピアノの違いを全てあげて説明をすると、アーロンは思考に耽ながらも、二週間後にまた来ると言って、弟子を置いて帰ってしまった。

え?お弟子さんは放置?


「お母様、もしアーロンの作るピアノがわたくしの期待を上回るようなものでしたら、購入したいのです。いくらになるのかは存じ上げませんが、お金を貸してくださいませ。……………、お母様?」


ピアノが手に入るということが嬉しくてルンルンするわたしは、お母様が物思いにふけっていることに気がついた。

顔を覗こうとお母様の前に回って見上げた瞬間、お母様はガバッと顔を上げてわたしの肩を掴んだ。


「アーロンに注文していた楽器は素晴らしいですわ!使い勝手は良さそうだし、片手で届く鍵盤の量が増えるし。流石わたくしたちの娘ですわ!わたくしも欲しいので2台ほどアーロンに注文しておきましょう!」


どうやらピアノをお気に召していただけたようです。

わたしの分も買ってもらえるみたいだし、わたしは内心ニヤリ、だ。だって楽器って高いから、いくらになるのか少し心配だったからね。


調律を終えたお弟子さんに、アーロンが弟子を置いて帰ってしまった理由を聞くと、アーロンはなにかに興味を持つとそれに没頭して他人そっちのけになるような人なんだとか。

呆れたように、疲れたようにそう言うお弟子さんは、今までアーロンに色々巻き込まれてきたことをオーラが語っていた。

………なんかごめんなさい。


上機嫌なお母様と少々オクトロンの練習をして(元々ピアノが弾けるから、鍵盤さえ間違えなければオクトロンも弾ける)、次はルーシェルという楽器を紹介してもらった。またしてもルーシェルを演奏してくれるお母様は、ルーシェルもプロルーシェリスト並に上手かった。ルーシェルは、弦を弾きながら歌う楽器のようだ。ちなみにお母様は、ルーシェルの音色も完璧。歌もまるで天使の歌声のように綺麗だった。

ほんと何でもできるね、お母様。

またしても、ルーシェルリサイタルをやればお金が以下略。


ルーシェルは、例えると琵琶みたいな楽器だ。自分の膝に乗っけて弦を弾く楽器である。


ただし、此処で問題が生じた。

わたし、弦楽器は見たことがある程度で、自分で演奏したりは出来ないんだなあ………。

1から練習が始まることが決まった。


今日のお勉強はこれで終わりとなった。


濃い1日だったなあ………。


夜ご飯は、お母様とお父様と三人で食べた。今日やったこととかの話で盛り上がった。どうやら、お父様も、お母様並みに楽器の演奏が上手いらしい。

2人とも何でも器用にこなせそうな顔をしているもんなあ。


その後、わたしはお風呂に入ることになった。

この世界でもお風呂はあるんだ!と思いながらルンルンしていたわたしは、地面に叩きつけられることになる。


「これはなんですか………?」

「盥でございますよ?」


うん。それは見てわかる。

正式にわたしの侍女となった、朝、わたしの準備を手伝ってくれたアンナとフローに手伝ってもらってお風呂に入る準備をしたわたしの前にフローが運んできたのは、大人が入ったら座れるくらいの盥。

日本の浴槽についていたら、誰もが「小さい!」と言うような大きさの盥。しかも、浅い。前世に住んでいた家の浴槽の半分くらいの高さ。それにお湯が入れられていた。


お風呂も作らないと………。

この盥風呂は、お湯に浸かって1日の疲れを流すなんてことは出来ない、酷いものだと思う。ドラ○もんのじずかちゃんなら泣き叫ぶだろう。

お風呂に入れると期待したわたしの喜びを返せ!


さらにさらに、この世界にはシャンプーやリンスなんてない。体を洗ったり服を洗濯したりする時に使う石鹸でごっしごし洗われた。

折角綺麗な銀髪を持って生まれ変わったのに、髪の毛が痛む!ドライヤーだってないのに!


こうして、石鹸が合わなかったのか、ヒリヒリする頭皮を擦りながら、濃い1日は終わった。

ベッドはふっかふかで、すぐに寝ることができた。


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