マリアナ・イリス・アルヴェンティー
一月ほど空いてしまいました。
それでもまだ読んでくださる方に感謝の念を飛ばしたいと思います!
遂に異世界に転生です(笑)
目を開けてまず最初に見えたのは、普通の白い天井だった。別に埃で汚れているわけでもなく、「どれ位お金がかかってるんだろう?」と言葉を失うほどのシャンデリアが飾られているわけでもなく。普通の平凡な日本で見慣れている白い天井。付け足すとすれば、清潔感がありそうな感じ。
「うわあなんて立派なお部屋♡」という訳では無いが、むしろあまりに豪華な部屋よりも落ち着くので、有難いと思う。
「ここは、……何処だろう?」
上半身を起こしてみると、目に入ったわたしの手は凄くちっちゃかった。
「うわあ!すべすべで色白で可愛い手だね!」
鏡は探したけれどこの部屋には見当たらないから自分の姿は確認のしようがなかった。でも、1つだけ気になったのは、視界に入る、自分の髪(凄くさらさらなストレート)が銀髪だということ。「え?これ自毛?」と思わず突っ込んでしまうのはしょうがないことだと思う。
今わたしが寝ていたベッドのある部屋は、結構、と言うより、子供ようの部屋にしてはかなり広い。わたしの自分の部屋(元)が4~5つは入ると思う。さらに、ベッドのシーツはすごく清潔だし、生地もさわり心地よく、快適。小さな身体が纏う寝巻きだと思われるワンピースもさらさらしていてこちらも触り心地がよく、生地の良さが伝わってくる。
部屋の絨毯(もふもふ!)に足を下ろして部屋の中を歩き回ってみる。まず最初に向かったのは、日が差し込んでくる窓。カーテンは閉まっておらず、窓も開いていて風が入ってくる。
外には大きな庭があった。
「小さい噴水もあるし」
「綺麗でしょう?」
「はい、とても」
そう返事をしてから気がついた。
「誰?」
振り返ると、美人さんが立っていた。美人さんは、さらっさらな金髪に深い緑色の目をしている。え?なんでもありなのかな?でもまあ、めちゃくちゃ美人なことには変わりない。アニメの世界に入ったのかと思うほど輝くほどの美人だった。スタイルいいし、肌は白くて髪の毛さらさらだし。
というか、いつから居たの!?
「良かった。元気になったみたいね!初めまして、でいいかしら?貴女の母親で、アリス・アルヴェンティーと申します」
今思ったんだけど、言葉って通じるんだね。ただ、聞こえてくるのは日本語ではない。知らない外国語が聞こえてきて、頭の中で自動変換されている感じ。
「何故、初めましてって分かったんですか?わたしがわたしだって分かるんですか?わたしの言葉って通じているんですか?」
自分が言っていることがめちゃくちゃな事は分かっているけれど、取り敢えず頭がぐちゃぐちゃだから仕方が無い。
それでも、アリスさんはにっこりと微笑んだ。
「貴女と同じように、わたくしとわたくしの夫、つまり貴女の父親ね、は、神々と少しだけご縁があるのよ。貴女ほどではないけれどね。それで、貴女をわたくしたちの娘にしないかって言われたの」
「驚きました?」
「それは勿論!フロレンティアーナ様が深い眠りについている貴女を抱えていて、この世界の創造神の中でも主要9神と呼ばれるジークハンドラルト様たちが急にわたくしと夫の前に現れたのよ。普段は神殿でしかお会いできないのにね」
くすくすっと面白おかしいことを思い出すように笑う姿から、本当に衝撃的だったんだろうということがわかる。というか、神様って急に現れたりするんだ………。
「結局二つ返事で貴女を娘にしたわ!こんなに可愛くて神々に愛されている女の子が娘になったなんて信じられないわ!もうあれから10日が経つのにね」
「10日!?」
「そうよ。夫なんて仕事を抜け出して、酷い時なんて1時間に1回くらいこの部屋を訪れて貴女を見てはにやけて仕事に帰っていくのよ。文官たちがあまりに夫が仕事に帰ってこないから捕まえにくるんだもの。見ていて大笑いよ!」
文官、ですか。またまた古風な呼び方だね。
「もうちょっとで最後にあの人が文官に捕まって三時間になるから、もしかしたらそろそろ仕事を放り出して走って来るわよ。初めまして、お父様♡って言ってご覧なさい。すぐにルイもメロメロね」
楽しそうに笑うマリアさん。
「あの、お母様?はわたしが急に娘なんかになって、正直迷惑では無いのですか?」
「そんな訳ないじゃない!もう大歓迎よ!いつか子供が生まれるとしたら女の子がいいねってルイと話していたのよ、昔からね。でも、複雑なわたくしたちの立場上、子供を持つのは諦めていたの。だからわたくしもルイも嬉しくて嬉しくてたまらないのよ」
だから心配しないでね?ってお母様は言った。
その時だった。扉が豪快に開けられた音がした。
「初めましてマリアナ!お父様だよ!」
つかつかつかあっとわたしの方へ歩き寄ってきてがばあっとわたしを抱き締めた男性。顔が全く見えなかった!
それから、わたしの名前はマリアナというらしい。
取り敢えず、この男性がお父様なんだと思うので、「初めまして、お父様♡」とお母様の言った通りに、わたしにできる最高の笑顔を浮かべた。そこでやっとお父様の顔を見ることが出来た。こちらは銀髪に碧眼で、お母様と同様、アニメから出てきたのかというくらいかっこよかった。
すると、お母様はわたしたちに背を向けた。肩が小刻みに震えているから笑っているんだと思う。なんで?
原因は、お父様であると思われる。だって、それ以外になくない?わたしはお母様に言われた通りにしただけだし。何が面白かったのかが全くわからないんだけど?
また、お父様は、わたしが極上の笑みを浮かべた瞬間、わたしを強く抱きしめる手の力が少し弱まり、動きが止まった。まるで瞬間的に石になったみたいに。
笑顔が不細工すぎて引いちゃったとか?
ありえる………。
そして、動きはじめたと思ったら、つかつかと物凄い早足で部屋を出ていってしまった。
「わたし、嫌われちゃったようなんですけど?何か変なこと、しました?」
お母様の服を掴んで、なかなか笑いが止まらないお母様に聞いてみる。え?そんなに面白いことをわたしはしたっけ?お母様のツボっておかしいのかな?それともツボが浅いのか?
「あははっ、嫌われてはいないよ。マリアナがあまりにも可愛いことを言うから、固まっちゃっただけ。みた?あの顔!目を見開いて、ぽかぁっと惚けてたのよ!」
多分、ツボが浅いんだと思う。
取り敢えず、お母様の笑いが収まるまで待った。
「あー、面白かったわ」
「それは良かったです」
一応合いの手を入れておく。
「取り敢えず、もう1度ベッドの上に仰向けになってくれるかしら?」
はあ………。
取り敢えずわたしはお母様に導かれるがままにベッドの上で仰向けになった。
「この世界に魔法があることは知っているかしら?」
「はい。貴族は魔法が使えると聞いています」
「そうね。わたくしたちも、一応貴族なのよ。そして、色々あって、わたくしたちの魔力はこの国でも3本の指に入るほど大きいわ。この国の王族よりも強い力を宿しているわね。わたくしよりもルイの方が大きい。そこはまあこれから扱い方を学んでいく時においおい話しましょう。それで、これからこの魔法道具を使って貴女に見せるものがあるから、1度眠ってもらうことになるわ」
急だね!
そうして頭に金色をした輪っかをはめられた。おでこの部分に大きな赤い宝石みたいな石が付いていた。一言で表すと、孫悟空の輪っかみたいなやつ。
これ、本物の金なのかなあ?
そんなことを考えていると、
「それじゃあおやすみなさい」
とお母様はそう言って、フロレンティアーナ様が以前わたしにしたように、わたしの目に手をあてた。それと同時に瞼が重くなってくる。
今回もわたしはそれに抗わず、すとんと眠りについた。
夢?を見た。夢を見たというより、洪水でものが流されるみたいに、いろんなことが頭を駆け巡った。
まず、アルヴェンティー家は、セレンディートリックの中で中位領地(全部でこの国には31の領地があって、上位領地から下位領地に分けられるらしい)と呼ばれるレストアーレンのアルヴェンティーという地方を領主から与えられて治めている下級貴族だということ。
お父様は領主様の異母兄弟で、お兄ちゃんなんだということ。
まあそこは置いおいて。
え?わたしのイメージなんだけど、普通は上級貴族か中級貴族が地方を任されるものなんじゃないの?あと、領主家の血を引くのに下級貴族なの?普通、かなりいい立場でふんぞり返ってそうなんだけど。
それから、わたしは今、5歳だということ。また、体が神々の力によって作られたので普通の人間の体とは少々違うらしい。何がかはよくわからない。
あと、神々が(特にジークハンドラルト様以外の主要9神が)魔力が大きくなるようにしてくれた上に、体が神々によって作られたことで何もしなくてもうっすら神々の魔力を体が纏っているみたいで。でも、どんな風になっているかは神々も分からないらしい。
適当だね!?
言葉が通じるのは、なんか神々がそういうふうにしてくれたからだということ。まあ、そこはよく分からないので、いま現在言葉が通じてよかった、くらいにしか思ってない。分からなかったら大変だっただろうけれど、今は別に問題なく会話できるしね。ただ、言語が違うので、文字は1から覚え直さなければならないみたいだ。
そんな事が一気に頭の中に流れ込んできて、頭に染み付いた。それに加えて、レストアーレンの地図、アルヴェンティーの人口から特産物までこの地方の詳細すべてなども頭に入ってきた。
いやいや、もう頭がパンク寸前だし!どんどこどんどこ情報が漏れていく気がする………!
そうなところで目を覚ました。
「どうだった?」
「取り敢えず、この魔法道具の恐怖症になりました。一気に情報が流れ込んできて、頭が破裂しそうですね。あと、謎が多すぎて突っ込みたいところが沢山ありました」
そういいながら、わたしは手早く頭から魔法道具を外してぽいっとベッドの上に放った。せめてひとつずつならまだしも、全部が一気に頭に流れ込んでくるのは辛い。目が回っているみたいに気持ちが悪い。
「これはね、自分の記憶を相手に伝える時に使う道具よ。今回みたいに時間重視で一気に情報を伝えることも、自分の記憶を相手に見せることも出来るから、結構便利なのよ?」
「遠慮いたします」
「まあ、これで貴女の今の状況は伝わったでしょう?明日からは、この世界で生きていけるように特訓するわよ!」
綺麗な笑顔をわたしに向けるお母様。
その満面の笑顔が怖いと思うのはわたしだけでしょうかね?
確かに生きていけるように色んなことを教えてもらえるのは嬉しいけれど、なんか嫌な予感がする。
そしてその予感は的中することになる。その事をまだわたしは薄々としか気がついていなかった。