転生③
「其方に残された選択肢は2つ、いや、3つだ。ここに残るか、転生するか、ここで死ぬか。どれを選択しても、私達に巻き込んでしまったことに対するに相応しい対応をしよう」
じゃあ殺さないでくれるとよかったのに。
そんなドロォッとした気持ちが湧き上がる。私なんかに関わらないで欲しかった。他の人だってたくさんいるじゃん。なんで私だったのよ、って思ってしまうのが普通だと思う。でも、
「ここに残ることだけは絶対に嫌。ここに残れば、ジークハンドラルト様の顔を拝み続けることになるんでしょう?絶対に嫌。死んでも嫌。でも、ここで死ぬことも嫌。命を大切にしないような奴は大っ嫌いよ」
「ならば、転生してくれるのか?」
「それ以外に道はないじゃないですか」
私がジークハンドラルト様を睨み付けると、その隣にいたフロレンティアーナ様が私の頭に手を回して撫でてくれた。
「私達に巻き込んでしまって本当にごめんなさい」
フロレンティアーナ様のそんな謝罪の声は、ジークハンドラルト様の謝罪の気持ちのかけらも反省もない言動とは違って、本当に申し訳ないと思っているようだった。
まあ、許せはしないけど、美女が申し訳なさそうにしているのを見て、さまになるなあとは思ったし、謝ってくれることと、私を尊重してくれるような姿勢は素直にありがたいと思う。
「私、フロレンティアーナ様は好きですよ、ジークハンドラルト様と違って」
「ふふっ。そう言っていただけると嬉しいわ」
「おい、わたしはどうなんだ」
不機嫌絶頂な声でわたしに問い詰めるジークハンドラルト様は無視だ、無視。
「でも、ジークハンドラルト様たちが守ってきた国を救うことは私にはできない。だって、私が100年生きるとするでしょう?いや、地球より医療が発展してないし安全も約束できない土地だろうから、80歳まで生きられれば上出来でしょう。それで、私が転生する国は、もって200年。私が生きている間は特に何も起こらないかもしれない。だから私は面倒くさいことに関わりたくないので助けるようなことはしません。自分が2度目の人生を謳歌するだけです。それでもいいでしょう?国を救うなんてことができるとは思わない。私にとって大切なものは精一杯守るけれど、後は知りません。他に人に頼むなりなんなりしてください」
そう言った私を今度はジークハンドラルト様が睨みつけた。勝手に殺しておいて、自分のために働けなんていうやつを助ける必要なんてないし。
「わたしはそれでもいいわ。貴女はジークハンドラルト様に殺されて過ごせなかった分、向こうで新しい人生を謳歌なさい」
「フロレンティアーナ⁉︎」
「なんですの?わたしは彼女の味方でしてよ。勝手に殺された挙句こちらを手伝えなんて図々しいにもほどがありますわ。ジークハンドラルト様がなんと言っても、わたしは彼女の気持ちを優先します。あの国は、自業自得なのです。できる範囲のことは、それどころか、かなりたくさんのところに手を加えて助けてきたのに自滅の道に進む一方なのです。滅びるといっても、戦争で国が崩壊するわけでもなく、王族が処分されて新しい王がたつぐらいの政変が起こるくらいでしょう。だったら放置しておけば良いのです。
貴女の転生する準備をこちらがする間、わたしが向こうの世界の話をしてあげる」
そう言ってフロレンティアーナ様の右手は私の両目を塞いだ。するとすぐに眠気が襲ってきた。
「抗わずに眠りなさい。わたしは貴女の味方でい続ける。何かあれば頼ってくるといいわ」
そう言うフロレンティアーナ様の優しい声が途切れるのと同時に、私も意識を手放した。
真っ暗闇にいた。
「起きたのね。これから貴女にこちらの世界の歴史を教えてあげる」
「此処は?」
暗闇の中で、空気に振動するように聞こえてきたフロレンティアーナ様の声に質問を返した。
「此処はわたしの記憶の中よ。わたしが見てきた長い歴史を貴女にもみせてあげる」
どうやら会話はできるらしい。
「始めにこの世界の成り立ちを説明するわ。この世界はわたしとジークハンドラルト様が作った世界よ」
そう言われるのと同時に、目の前にはただの草原がひろがった。視線は普段のわたしよりも高いくらい。フロレンティアーナ様の記憶だといっていたから、フロレンティアーナ様が見たものがそのまま見えているのだろう。
「最初は地球の成り立ちと変わらないわね。だんだんと人が進化して、道具を使って生活するようになり、果ては、より豊かな生活を求めて争いをするようになった」
争いの景色に変わる。どうやら、フロレンティアーナ様の言葉に合わせて、見える景色が変わっていくみたいだ。
「そこでわたしたちが人間に与えたものが魔力だった。わたしたち神に祈ってその力を借りることができるようになり、祝福といって神の力を纏えるようになったり、かなり魔力が強ければ、魔装といって、神々の力を祝福より強く纏って、貴女が考えるような攻撃魔法が使えるようになったり。そんな力の源が魔力よ。
この力をうまく使っていければ、極力争いのない世界になるだろうと思ったから、人間に魔力を与えたわ。そのおかげか、地球よりも歴史はある世界だけれど起きた戦争の数は少ないのよ。
そして、魔力を授かった人間たちが今の貴族と呼ばれる人たちのご先祖たち。
ちなみに、向こうの国では平民が魔力を持って生まれてくることは殆ど無いの。貴族たちはより強い魔力を持った子供を産むために、貴族同士で結婚や出産を行うから、魔力を持たない平民同士から生まれた子供が魔力を持つことは殆ど無いわ。
何が言いたかったのかと言うと、貴族たちの魔力によって平民たちは生きているのよ。貴族たちが土地を魔力で満たし、その魔力のおかげで肥沃になった土地で平民たちは生活している。逆に、貴族たちが土地を魔力で満たさなくなったら、貴族は貴族でで食べるものがなくなるから、自分のためにも、貴族たちは土地に魔力を満たすようになる。そうやって生活しているのよ、あちらの世界では。
地球では土地を魔力で満たす必要はないでしょう?でも、あちらの世界では、魔力で満たさなければ生活が成り立たないのね。
そんな魔力の力を使えるようになった人間たちは神を祀る為の神殿を造り、そこで魔力の奉納や儀式を行うようになった。その神殿は領地ごとにあり、神殿で奉納される魔力が多ければ多いほど、土地は肥沃になり、その土地は栄えるようになる。だから、1番栄えている領地を治めた人が第1代の王になったのよ。そこからが貴女が転生する国の歴史となるわ」
いろんな光景が見えては変わっていくのを見ながら聞いていた歴史が頭の中にすんなりと入ってきた。
「つまり、魔装っていうやつができないと、わたしの考える、炎ぶあー水ビシャァーっていう魔法は使えないんですか?」
「使い方によるわね。想像力を働かせ、祝福をどう使うかによって魔力の使い方は変わってくる。祝福をうまく使えば、ちょっとした生活を便利にするくらいの魔法は使えるようになる。でも、攻撃するくらいまでの威力の魔法は魔装をしないとダメね。でも、魔力を食料にして魔力を蓄えて生きている魔獣やら魔物やらを使って、魔力を流せば使える魔法道具を作ら出したりしているみたいね」
すると、1人の男性が目に入った。
「彼が第1代の王よ。歴史の中で最初の方の王は、神殿で魔力を奉納しながら自身の領地を治める領主たちだった。世襲制ではなくて、当時1番栄える領地の領主が王となったのよ。
でも、だんだんとそんな制度も崩れていった。傲慢な人間が現れ、次第に王族という制度が生まれて、王は世襲制となっていった。それでも、かの国は、セレンディートリックは、栄えていたわ。それから、だんだんと近隣諸国も興されて、あちらの世界はどんどん発展していったのよ。
でもそこから数百年、数千年経っていくとどんどん歪みも出てきた。
王は、国全体を包むように魔力を奉納しなければならない。まず、王が最低限の魔力で満たした土地をさらに領地ごとに領主を中心に貴族たちが魔力で満たしていく。王が土地を満たす最低限の魔力は、本当に最低限だけど、礎となる大切な魔力なのよ。でも、世襲制となって、王になるために魔力をあげた上で王になった人間たちよりも、魔力を上げようともせず、少ない量の魔力しか持たない王が、国を治めるようになった。過去の王たちが貯めた魔力も残っていたから、今まで、セレンディートリックはなんとかもっていたけれど、それもそろそろ限界に近くなってきている。
さらに、代々の王が口伝えによって伝え残してきた歴史も、今の王には伝わっていない。数代前の王の世代で途切れてしまった。国に注ぐ魔力を収めるための魔法陣がある礎の場所だったり、神殿で行われる儀式の重要性だったり、それらが記されている書物の在り処だったり。それが起こった原因が、隣の国が侵略しようと攻めてきたことだった。それまでは、国を満たす魔力を奉納する為、どの国の王族も侵略なんてしている余裕がなかった。この時の侵略戦争が異例のことだったのよ。たまたま魔力に恵まれた隣の国が侵略してきてしまったことで、侵略は防げたけれど王は戦死してしまった。次の王に、代々伝わっていた口伝を伝える前にね。
さらにその十代くらい前の王の時代に、亡くなった王の跡を継ぐ王子を決める為の争いが勃発し、政変が起きていた。国を満たす魔力も少なくなっていたのに、各領地で魔力を奉納する貴族たちまで処分が下されて、貴族の数が減り、魔力不足が深刻化した。
今の王も魔力は多くはなく、国は傾きかけている。
国力も低くなってきていて、魔力も少なくなってきていて、今の王は頼りにならない。王族に従わない貴族も多くなってきている。それもそうよね、国を治めるにふさわしい王がいないんだもの。不満も募るわ。さらに、皇太子とされている第一王子も、人の上に立ちたいから王になりたいと思っているような人間。
もうあの国も長くはないでしょうね」
まるでテレビを見ているかのように映像を見ながら歴史を聞いた私が向かう国は、かなり深刻な様子。
「ジークハンドラルト様たちが直接手を加えて助けてあげればいいんじゃないですか?」
「それができないのよ。あんまりわたしたちに頼りすぎると、人間は努力をしなくなる。魔力を授けてしばらくしてそのことがよくわかったので、わたしたちが干渉できないようにしたのよ。見事にそれが仇になったわね」
フッと自嘲気味に笑ったフロレンティアーナ様の声は、次の瞬間、今までにない程真剣なものになった。
「あちらの国は地球よりも全然治安も良くないし、地球にはなかったものがたくさんあって苦労すると思うわ。何かあれば神殿にいらっしゃい。そこでなら貴女とも会話だってなんだってできるわ。でも、他の人にはわたしたちと話せることは言ってはだめ。こんなことができる人間はいないに等しいのだから、貴女が狙われるようになってしまう。それだけは気をつけなさい」
「他にもフロレンティアーナ様たちと話せる人がいるんですか?」
「いるわ。向こうの世界で調べて見なさいな。また、夜、定期的に神殿に忍び込みなさい」
「忍び込むの!?えっ!?嘘!」
「魔力の扱い方であったり、武器の使い方をわたしたちが教えてあげるわ。火の神アーカイヴスや力の神ウラルニトスは戦闘に強いわ。わたしは魔力の扱いを教えてあげるくらいしかできないのだけど」
「それでも十分だと思いますけど……?」
「まあ、忍び込んできなさい。それが無理なら人目がつかないところでわたしたち主要神と呼ばれる神に祝福を祈りなさい。会話ぐらいはできるでしょう」
それが1番手っ取り早いね。
「ジークハンドラルト様以外の主要神は貴女の味方よ。ジークハンドラルト様は面倒くさい性格をしてて捻くれているけれど、本当に困ったことがあれば助けてくれるわ。わたしも、貴女に魔力と武器の扱い方を教えるために干渉することが良いこととは言えないのだけれど、どうしても心配だから干渉するつもりよ。でも、それ以外では、本当に困っているときぐらいしか助けてあげることはできない。ごめんなさいね」
「それだけでも十分ですよ。いろいろとありがとうございました」
「頑張りなさい。貴女なら良い人生を送れるはずよ」
そう言って途切れた声と一緒に、また私は意識を手放した。
ジークハンドラルト様みたいな神様がいたら嫌だなあって思いながら書いてました(笑)
そう思ったのはわたしだけでしょうか。
今迄の話のなかに新しい設定を加えるため、編集を入れました。いろいろと不思議なところがあると思いますが、そういうものだと流していただけると嬉しいです。読みにくくてすみません。