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浦島太郎になっちゃった?  作者: 青キング
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神に問いたい。素顔ってどんなの?

「じゃあ行こうか」


 目の前の鎧をつけた女性騎士のラナイトさんがそう言ったとき、どこからか大鐘の重厚な音が耳に入る。

 今まで無かった音に、俺は歩き出そうとしたラナイトさんに尋ねる。


「この鐘の音は、何ですか?」


 う~ん、と思い出すように唸ってラナイトさんは声を漏らす。


「昨日完成した竜宮塔の時の鐘だな。一日二回鳴るそうだ。確か労働時間の統一を図るためだとか」


 てことは時間が多少なりとも、解るようになったってことか。

 しかしどうやって正確な時間を測っているのだろうか? 海の中なのに。

 そんな科学的な疑問に、思考を働かせ始めた俺の眼前に、ラナイトさんがビシッと人差し指を立てて突きつけてきた。


「今君は、どうして海底で時間がわかるのだろう、と考えていただろう?」

「げっ、何でわかったんですか?」


 ラナイトさんには俺の脳内の全容が、丸見えのようだ。

 ラナイトさんは指を下ろして、両手を腰にやる。


「私も理由は知らないよ。専門の人達が日々研究を重ねたんだよ、きっと」


 そして片手を掲げて、市街地の一本道を指差す。


「そろそろ見回りに行こうか」

「あっ、はい」


 俺が返事をすると、先立ってラナイトさんは歩き出した。

 俺はその隣まで駆け寄り、並んで見回りを開始した。

 


 そして何時間経過しただろうか?

 市街地の中央であると思しき、噴水のある人気の少ない公園でラナイトさんは一時休憩をくれた。

 そこで俺は、噴水の縁に座ったラナイトさんの前に立ち、切り出した。


「ラナイトさん、一つ言いたい事があります」

「なんだ、やけに改まって。本気で騎士を仕事にしようと考えたのか?」


 冗談めかして言うラナイトさんに、俺は脳内の知る限りの語彙で、用意しておいた質問を投げ掛けた。


「自分を我慢してますよね? 騎士だからとか、似合わないからって。無理する必要ありませんよ、ラナイトさんは騎士である前に一人の女性なんですから」

「意味がわからないな……」


 ばつが悪そうに兜が項垂れる。

 俺はさらに畳み掛ける。


「俺は、ラナイトさんに我慢してほしくない。好きなことは好きって言えばいいし、やりたいこともやっていいと思う。俺の中でラナイトさんは、可愛い物が大好きな普通の少女に見えます」


 すべて言いたいことは言い切った。後はラナイトさん自身が決めることだ。俺の入れる領域じゃない。

 兜の内側からフッ、と小さな笑いが漏れだして一気に大きくなった。


「ハハハハハハ、ほんとに君は面白いよ。何を言い出すかと思ったら、私が可愛い物が大好きな普通の少女だなんて」

「えっ、俺、おかしなこと言いました?」

「いや、驚いちゃって」


 そりゃ驚くだろうけど笑うことはないだろう、と内心で思う。

 ラナイトさんは笑いがおさまると、立ち上がり俺の両肩に手を置く。


「そう言ってくれるのなら、私も本気になるよ」

「ど、どういうことですか?」


 とは尋ねたものの、答える前にラナイトさんは駆け足で噴水の陰に隠れた。


「そこで反対向いてて、いいよって言ったら振り向いてくれ」

「は、はい。わ、わかりました」


 俺は言われた通り身を翻し、噴水のある方向とは逆に体を向けた。

 本気になるってどういうことだろ? 決闘でも申し渡されるのか?

 ガチャガチャ聞こえてくるんですけど? なにやってるんですかぁーーー!


「いいよ」


 その合図が耳に届いた瞬間、俺はバッと噴水の方を向き直った。

 そして目の前の光景に思わず息を呑んだ。


「君は私を本気にさせた。一人の女性として、な」


 そう言葉一つ一つ口を動かして発した目の前の銀髪の女性は、名画になるほどの立ち姿で噴水の前に佇み、端整な面貌に微笑みを湛えていた。


「ラ、ラナイトさんだよね?」

「何を言ってるんだ君は、他に考えられるのか?」


 いつもの鎧姿ではなく、藍色の薄手で七分袖のTシャツに、それより明るい色合いの七分丈のズボンという服装なので、つい失礼な質問をしてしまった。

 つま先立ちでくるっとラナイトさんは一回転してみせる。その際に、艶やかなストレートの長い銀髪がふわりとなびいた。

 その姿から騎士らしさは欠片も感じ取れない。

 向き直ったラナイトさんの桃色の唇が、おもむろに開かれた。


「嬉しいよ、君には感謝するよ」


 そしてまた、思ったよりも幼い顔に微笑みを湛えた。


「なんか身長が縮みましたね」

「まぁ底の厚い甲冑を着てたからな」


 今見ているラナイトさんは、鎧姿の時より少しだけ背丈が低く、上目遣いに俺を見つめてくる。

 その瞳があまりにも美麗で、俺は緊張を抑えられない。

 だがすぐに目付きが鋭いものに変わる。


「そろそろ休憩は終わりだ」


 そう俺に伝えると、噴水の後ろにスタスタと行ってしまう。

 しばらくして、鎧姿のラナイトさんになって出てきた。


「ボケッーとしてるな、行くぞ」

「あっ、はい!」


 騎士らしさは先程となんら変わりないが、口調に少しだけ穏やかさが含まれていたような気がした。

 背を向けて歩き出したラナイトさんに、俺は走り寄り、隣に並んで見回りを再開した。

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