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浦島太郎になっちゃった?  作者: 青キング
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五人の乙女達の話

 少し心配になる。


「シュン君、今頃何してるかなぁ?」


 クリナは仄暗い自宅でテーブルに座り、純粋な茶色のプランクトンであるチャイロボウカーの出し汁を八分目まで入れたマグカップを片手に、次期王の事を案じる。

 マグカップを口につけて傾けると、舌が苦味を感知した。


「苦いねやっぱり。でも砂糖は高いからなぁ」


 贅沢は言っていられない。チャイロボウカーの苦さもまた一つの味わいなのだ。


「美味しいなぁ……」


 別の事を考えて気を紛らわそうと図ったが、本心はそれを妨げて一人の青年の事を考えさせた。

 五人の姫候補の中から、シュン君は最終的に誰を選ぶのかな?

 それが楽しみでウキウキしている部分もあれば、何故だか寂しさも混在している。


「なんだろう、この物足りない感じは?」


 誰もいない空間に、寂寥の感を帯びた声が発された。



 宮殿の一画にあるここ晩餐室にて赤髪の姫候補のメラは、食事に勤しんでいた。


「次ですわ!」


 メラのおかわり宣告に、ワゴンがガラガラと運び込まれてくる。

 タキシードを着た召し使いがテーブルに料理をせっせと置いていく。

 その作業が終わるより早く、メラは皿を手に取り、お嬢様に似つかわしくない皿を持って食べるスタイルで霞むようなスプーンさばきで、次々と置かれた料理を平らげていく。


「次ですわ!」


 またもおかわり宣告。

 三人分平らげるのにかかった時間、なんとたったの十分。

 さらにここまで食べた十二人分は、すべてメラの胃袋に収まっている。

 一体、お嬢様一人にどれだけの食費を費やせばいいのだろうか?

 その大食いっぷりに召し使い達の間ではこう呼ばれている__底なし胃袋のメラ様。



 倉庫の中は今日も暗くて埃臭い。

 ルイネの職場は竜宮城の真後ろに広がる市街地の長年続く古道具屋だ。今はルイネが一人で経営している。

 小窓から射し込む僅かな光の中、自分の身長より遥かに高い棚の最上段に、踏み台がわりの木箱の上でつま先立ちして、懸命に片手を伸ばす。

 まるで届きそうになく、あと顔二つ分くらい必要だ。


「はぁ……」


 残念な気持ちを表した溜め息が、口から漏れ出す。

 棚の上には、おじいちゃんの遺品があるのだ。絶対に取りたいのだが__

 小柄な体が災いし、中々手が届かない状況に落胆せざるを得ない。

 棚の最上段を見上げていた視線を下ろして肩を落とし、再び溜め息。

 やるせない気分のまま、隣接する職場兼自宅に戻り商品の整理を始めた。



「う~ん」


 マリは自室である五号室の元より設けられていた木製オフィスデスクに座り、開いた日記帳を前に今日の出来事をおさらいする。

 特に何かをしたわけではない。市街地にクリナと買い物に行って、次に城に戻ってきてクリナと別れて、今に至る。


「買い物したくらいかな?」


 毎日つけている日記だが、近頃書くことが少ない。

 しかもクリナのことばっかり。

 毎日にもっと話題が欲しい。日記に書くことが増えるといい。

 そこでふと、次期王の顔が浮かぶ。


「誘ってみようかな?」


 たまには他の人と買い物もいいかもしれない。

 そう思って明日の日記は書くことが多そうだなぁ、と少し期待を持って筆を走らせた。



 茶髪の姫候補最小年齢のミクミは、四号室の中のベッドで、布団にくるまっていた。

 寒いわけではない、ただ暇なのである。


「何でこうなるのじゃ……」


 ミクミの語彙力では合った言葉が浮かばず、抽象的に不平を口にすることしかできなかった。

 姫候補などと囃し立てられ、今までのぐうたら生活がどこかへ消えてしまったのが、ミクミは気に食わない。書類の記載が一番めんどくさかった。


「いつもならば家でゴロゴロして過ごすはずじゃったのに、寝れんのじゃ!」

 

 自分の布団でないと寝付きが悪い。行き場のない不満が漏れ出す。

「何でそうなるのじゃ! 姫なんぞどうでもええから、寝かせい!」


 誰かに言うわけでもないのに、知らないうちに声のボリュームが増していた。


「もう知らんわ!」


 先程よりもきつく布団を巻き付け、無理矢理に眠りに就こうとする。


「もうっ!」


 やはり眠りには就けず、布団にはばまれ音とはならなかった叫びが、布団の中だけで響いた。

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