神に伝えたい。これが俺の答えだ。
玉座の間にて眼前に呼び出した五人の姫候補が、不思議そうに俺を見つめている。
俺は咳払いをして切り出す。
「みんな、聞いてほしい」
いつになく生真面目な俺に、右端のクリナさんが首を傾げる。
「どうしたのシュンくん、今から大事な話をしますみたいな顔して。傷んだ物を食べちゃったから私達にも気をつけるようにって喚起してくれるの?」
「どうやって食糧管理の話を俺の顔から考えついたんですか。腹痛を訴えてるわけでもないのに」
違うなら良いのよ、と柔らかく母性的な微笑をする。
五人の顔をそれぞれ眺めてから俺は、間をとってから用件を伝える。
「俺はいまだに候補から一人を選べていない。みんなに迷惑かけてる。そこでだ、もっと欲を出そうと思って今から買い物に一人だけ連れていきたいな」
できるだけ落ち着き払って言ったつもりだったが、予想を下回ったのか妙に五人とも静かになる。
「デデデ、デートですかそれは?」
衝撃的だったのか、ビクッと背筋を反らしてルイネが叫んだ。
左端のラナイトさんがルイネを勢いよく振り向く。
「真に受けてはいかん、ルイネ! また誰かの策謀に峻が動かされてだけかもしれん」
えっ、またってことは前まで誰かか俺を操ってたのか。うーん、実感ないけど次期王に任命された時点で神様にもてあそばれてるような。
クリナの横にいたマリが、ラナイトに眉を開いて言う。
「政府の陰謀みたいだね」
陰謀なんて物騒な、それを言うなら方策だろ。
我関せずの意味深な微笑を湛え、クリナさんが俺に肩を寄せてくる。
「シュンくん、私……」
途中まで口にして耳元に近づき囁く。
「今日、オーケーの日よ」
……何が?
俺が理解に困り黙っていると、んもぅとか言って肩をツンツンつついてきた。
「ほんとは気づいてるんでしょ、シュンくんはおすましさんね」
おすましもなにも、ほんとに理解できてないんだけど。
先程まで無関心そうに佇んでいたメラが、令嬢らしく手を口にあてがっていかにも皮肉を言う者の意地悪い顔つきで近づいてきた。
「あらまクリナ、その方に引かれてますわよ」
皮肉を言われ、クリナさんはむすっと口を引き結んだ。返す言葉を考えていたのか、しばらくして俺の斜めに立つメラを振り向く。
「引かれるくらいでいいのよ、こうでもしないとシュンくんは私を気にしてくれないもの」
そんなことしなくても、いつだって気に留めてますよ。
メラは尊大に腕を組んでクリナに言い放った。
「重い女ですわ」
途端にクリナさんがふくれ面になる。
「お、重くなんかないわ私。胸がその……あれで……」
強く否定したはいいが、続きの言葉が口に出ない様子だ。
煮え切らないクリナさんを意地の悪い笑みでメラが眺めている。
「胸がなんですの? 聞こえませんわ」
「シュンくんの前で話せることじゃないわよ!」
俺が居ると話せない内容なのか。女の子同士の会話って何故かしら奥が深い気がする。
「あっ、あのう」
いつの間にか背後に隣に来ていたルイネが躊躇いがちに話しかけてきた。なにやら俺の理解の範疇外の口論を始めたクリナさんとメラを尻目にルイネに応じる。
「どうしたルイネ?」
「私でよければ買い物に付き添います」
無意識な上目遣いで申し出てくる。
俺は快く笑顔で頷く。
「いいよ、それじゃ行く準備しよう」
「峻、私も着いていっていいか?」
ルイネの数歩後ろでマリと喋っていたラナイトさんが、話の途中にもかかわらず真剣な目付きで振り向いて唐突に聞いてくる。
「いいよ、マリは?」
またも笑顔で頷いて、隣のマリにもうかがってみる。
聞かれると思ってなかったらしく、びくんと激反応を見せつつ口を開く。
「私はそうだなぁ、買い物の方が楽しいから着いていこうかな」
歯切れよく答える。
「えっ、みんな行くの? 私も行きたいわ」
メラとの口論が冷めてきたクリナさんが、勢い込んで手を挙げて参加を示す。
挙手したはずみに柔らかく胸が揺れるのを目撃して一瞬ドキッとしたことは、口にしないのが賢明だろう。
「わたくしも同伴させていただきますわ、食べ放題で食事をしたい気分ですの」
例によって食べることなんだ。それにしてもあれだけ大食らいなのに、メラって細身だよな。摂取した栄養どこに流れてるんだろう。
「結局、みんなで行くことになったな」
「みんなじゃないわい!」
いつから居たのか、ミクミが近くの柱からつかつか肩をそびやかして歩み寄ってくる。
「ああ、ミクミか。なんでこんなとこイテッ!」
ここにいる訳を聞こうとしただけなのに、大腿部の脇を思いっきり蹴られた。やっぱり小柄なのにパワーあるな。
こちらを見上げるミクミは口元を不機嫌に曲げている。
「なにすんだよ、痛いぞ」
「痛いぞじゃないわい。わらわの許可なしに集会を開くでないのじゃ」
そんな規則があったのか、全然知らなかったよ。
「そうなのか、ごめんミクミ」
「……素直に謝られるのも張り合いがないのう。まぁよいわい。それよりこれから買い物に行くそうじゃなの」
「ああ、最初は誰か一人だけって思ったんだけど、なし崩しにみんな行きたがって大所帯での買い物になりそうだよ」
「仲がええんじゃの」
前触れなくしみじみとミクミが口にした。
そうか? と問い返すがお主じゃないわい! と怒り眉で怒鳴られた。ひどいや。
「あやつらのことじゃよ。恨みも妬みもなさそうに表情が晴れ晴れしとるの」
言ってミクミは小さく笑んだ。
「お主が心配しとったことなど、あやつらの間にはないんじゃな」
「そうか、全部俺の考えすぎってことか」
「しかしの、お主は政策とか他にいろいろ考えねばならぬことも多いからの気を抜くでないぞ」
晴れやかな気持ちになりかけた俺に、キッと目を細めて釘を刺してきた。抜け目ねーな。
「で、お主はあゆつらとどこに行くのかえ?」
「街で買い物」
俺が答えると、横から声がかかる。
「シュンくん、早く行きましょ」
「そうだな、一日の時間は有限だからな」
「ラナイトの言うとおりだね、いっぱい楽しみたいもん」
「さ、差し出がましいですけど……峻さんのとなり歩いていいですか」
「わたくしがおすすめのレストランを教えてあげますわ」
突然、ミクミに背中をどつかれる。やけにニヤニヤしている。
「ほれ、ぼけっとしとらんでさっさと行くぞえ」
「ああ、わかってるよ」
杖が床を叩いた。
みんな俺なんかに優してくれて、ありがとう。俺はみんなの笑顔が好きなんだ。だからいつまでも笑顔でいて欲しい。
身体が不自由でも俺は転ばない。みんなが支えてくれるから、ね。
「なあ、みんなはどこに行きたい?」
やっぱりなんだかんだで、みんなといる時が一番楽しい。これが俺の答えだ。




